第10話 友達とは何でしょう
いつもと変わらない夜。
課題も終わったし、洗濯も済ませた。
明日の準備も終わっている。
午後九時五十三分。
「よし、間に合った」
そう言いながら、陽太はパソコンを立ち上げる。
最近はこんな日が増えた。
配信に合わせた、規則正しい生活。
気付けば、それが当たり前になっている。
自分でも笑ってしまう。
たった数週間前まで、 こんな習慣はなかったはずなのに。
午後十時。
【エリシア・アルヴェイン 配信開始】
画面が切り替わる。
:きたー
:こんばんは
:正座して待ってました
:エリさまお勤めご苦労様です!
視聴者数は百人を超えている。
エリシアが一礼した。
「皆様、こんばんは。
よろしくお願いいたします」
以前よりもずっと自然な振る舞いだ。
「本日は、私から質問があります」
:お
:いきなり
:なんでもこい
:来たな
エリシアは真面目な顔で言った。
「……『友達』とは何でしょうか」
コメント欄が一瞬止まった。
:急だな
:深い
:意外と難しい
陽太も思わず笑う。
確かに急だ。
「皆様は以前、『友達と遊ぶ』というお話をされていました」
エリシアはノートを開く。
「ですが、私は友達というものがよく分からないのです」
:いないの?
:王女だから?
:よく話をする人は?
エリシアは首を傾げる。
「おります」
:いるんかい
:ズコー
「ですが……」
言葉に詰まった。
指を折りながら、列挙しはじめる。
「側近。騎士団長。宰相。侍女……」
:うん……うん?
:それ部下じゃね?
:部下だよね
コメントが流れた。
エリシアが固まる。
「……部下です」
:草
:ワロタ
:友達じゃないな
:仕事仲間だ
エリシアは考え込む。
本気で。
「では、友達とは何なのですか?」
コメント欄が少しずつ動き始める。
:気を遣わなくていい人
:一緒にいて楽な人
:遊ぶ人
:困った時に助けてくれる人
様々な意見が流れる。
どれも正しいようで、どれも少し違う気もした。
エリシアは一つ一つ丁寧に読んでいる。
「気を遣わない……」
小さく呟く。
「難しいですね」
:それはそう
:王様だもんな
:エリさま大変
「はい」
エリシアは素直に頷いた。
「立場上、どうしても相手が気を遣いますので」
コメント欄が少し静かになる。
陽太は画面を見つめた。
たぶん、それは本音だ。
王である以上、 相手は常に王として接する。
普通の友達を作るのは難しいのかもしれない。
キーボードに手を置く。
太陽:一緒にいて楽しい人、で良いのかなと
太陽:理由がなくても話したくなる相手
送ってみて、自分でも曖昧だと思う。
他のコメントとも大差は無い。
けど、友達なんてそんなものだ。
エリシアがコメントを見る。
「理由がなくても……」
その言葉を繰り返した。
「話したくなる相手」
そして、少し考え込む。
「それは、素敵ですね」
小さく笑った。
柔らかな笑顔だった。
:分かる
:良い答え
:なんかエモい
コメント欄が流れる。
エリシアはしばらく考えた後、ぽつりと呟いた。
「皆様は、友達なのですね」
:同じ配信見てるだけだしなー
:友達でいいんじゃ?
:まぁ、毎日ここで会ってるしな
:むしろ、俺等がエリさまの友達?
:王様と友達とか、おこがましすぎる
コメント欄が少し照れたような空気になる。
エリシアは不思議そうだった。
「皆様が、私の友達……」
陽太も続く。
太陽:少なくとも私はそう思ってます
「私は、理由があってご相談しているので、
少し違うかもしれません。
でも、そう言ってもらえると、とても嬉しいです」
:友達認定キター
:俺も俺も
:ずっと友達だよー
先ほど以上に、エリシアの笑顔が弾けた。
その後も配信は続いた。
友達と旅行へ行った話。
学生時代の思い出。
喧嘩した話。
仲直りした話。
エリシアは楽しそうに聞いていた。
まるで知らない世界の物語を聞くように。
配信終了の時間が近付く。
「本日もありがとうございました」
エリシアは一礼した。
「友達について、少し分かった気がします」
:よかった
:また一つ賢くなったな
:友達100人できたね
:王様レベルアップ
エリシアは少し笑う。
「皆様以外にも、いつか私にも、こちらでお友達ができたらな、と思います」
誰に向けた言葉でもない。
独り言のようだった。
なぜだか陽太の胸には残った。
「それでは皆様、おやすみなさい」
画面が暗転する。
コメント欄も止まった。
静かになった部屋で、陽太は椅子にもたれた。
友達。
改めて考えると不思議な言葉だ。
大学の友人達の顔が浮かぶ。
バイト先の仲間達も。
そして、毎晩十時になると集まる、 名前も知らないコメント欄の人達も。
「友達、か」
小さく呟く。
答えは分からない。
けれど、午後十時になるのを楽しみにしている人間が、 自分以外にもたくさんいること。
そして、その中心には、いつも青い瞳の王様がいる。
それは、 悪くない景色のように思えた。




