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10/21

第10話 友達とは何でしょう

 いつもと変わらない夜。


 課題も終わったし、洗濯も済ませた。

 明日の準備も終わっている。


 午後九時五十三分。


「よし、間に合った」


 そう言いながら、陽太はパソコンを立ち上げる。

 最近はこんな日が増えた。

 

 配信に合わせた、規則正しい生活。

 気付けば、それが当たり前になっている。


 自分でも笑ってしまう。

 たった数週間前まで、 こんな習慣はなかったはずなのに。


 午後十時。


【エリシア・アルヴェイン 配信開始】


 画面が切り替わる。


:きたー

:こんばんは

:正座して待ってました

:エリさまお勤めご苦労様です!


 視聴者数は百人を超えている。

 エリシアが一礼した。


「皆様、こんばんは。

 よろしくお願いいたします」


 以前よりもずっと自然な振る舞いだ。


「本日は、私から質問があります」


:お

:いきなり

:なんでもこい

:来たな


 エリシアは真面目な顔で言った。


「……『友達』とは何でしょうか」

 コメント欄が一瞬止まった。


:急だな

:深い

:意外と難しい


 陽太も思わず笑う。

 確かに急だ。


「皆様は以前、『友達と遊ぶ』というお話をされていました」


 エリシアはノートを開く。


「ですが、私は友達というものがよく分からないのです」


:いないの?

:王女だから?

:よく話をする人は?


 エリシアは首を傾げる。


「おります」


:いるんかい

:ズコー


「ですが……」


 言葉に詰まった。


 指を折りながら、列挙しはじめる。


「側近。騎士団長。宰相。侍女……」


:うん……うん?

:それ部下じゃね?

:部下だよね


 コメントが流れた。

 エリシアが固まる。


「……部下です」


:草

:ワロタ

:友達じゃないな

:仕事仲間だ


 エリシアは考え込む。

 本気で。


「では、友達とは何なのですか?」


 コメント欄が少しずつ動き始める。


:気を遣わなくていい人

:一緒にいて楽な人

:遊ぶ人

:困った時に助けてくれる人


 様々な意見が流れる。


 どれも正しいようで、どれも少し違う気もした。

 エリシアは一つ一つ丁寧に読んでいる。


「気を遣わない……」


 小さく呟く。


「難しいですね」


:それはそう

:王様だもんな

:エリさま大変


「はい」

 エリシアは素直に頷いた。


「立場上、どうしても相手が気を遣いますので」

 コメント欄が少し静かになる。


 陽太は画面を見つめた。

 たぶん、それは本音だ。


 王である以上、 相手は常に王として接する。

 普通の友達を作るのは難しいのかもしれない。


 キーボードに手を置く。


太陽:一緒にいて楽しい人、で良いのかなと

太陽:理由がなくても話したくなる相手



 送ってみて、自分でも曖昧だと思う。

 他のコメントとも大差は無い。


 けど、友達なんてそんなものだ。


 エリシアがコメントを見る。


「理由がなくても……」


 その言葉を繰り返した。


「話したくなる相手」


 そして、少し考え込む。


「それは、素敵ですね」


 小さく笑った。

 柔らかな笑顔だった。


:分かる

:良い答え

:なんかエモい


 コメント欄が流れる。

 エリシアはしばらく考えた後、ぽつりと呟いた。


「皆様は、友達なのですね」



:同じ配信見てるだけだしなー

:友達でいいんじゃ?

:まぁ、毎日ここで会ってるしな

:むしろ、俺等がエリさまの友達?

:王様と友達とか、おこがましすぎる


 コメント欄が少し照れたような空気になる。

 エリシアは不思議そうだった。


「皆様が、私の友達……」


陽太も続く。


太陽:少なくとも私はそう思ってます


「私は、理由があってご相談しているので、

 少し違うかもしれません。

 でも、そう言ってもらえると、とても嬉しいです」


:友達認定キター

:俺も俺も

:ずっと友達だよー


 先ほど以上に、エリシアの笑顔が弾けた。


 その後も配信は続いた。


 友達と旅行へ行った話。

 学生時代の思い出。

 喧嘩した話。

 仲直りした話。


 エリシアは楽しそうに聞いていた。


 まるで知らない世界の物語を聞くように。

 配信終了の時間が近付く。


「本日もありがとうございました」

 エリシアは一礼した。


「友達について、少し分かった気がします」


:よかった

:また一つ賢くなったな

:友達100人できたね

:王様レベルアップ


 エリシアは少し笑う。


「皆様以外にも、いつか私にも、こちらでお友達ができたらな、と思います」


 誰に向けた言葉でもない。

 独り言のようだった。


 なぜだか陽太の胸には残った。


「それでは皆様、おやすみなさい」

 画面が暗転する。

 コメント欄も止まった。


 静かになった部屋で、陽太は椅子にもたれた。


 友達。

 改めて考えると不思議な言葉だ。


 大学の友人達の顔が浮かぶ。

 バイト先の仲間達も。


 そして、毎晩十時になると集まる、 名前も知らないコメント欄の人達も。


「友達、か」

 小さく呟く。


 答えは分からない。


 けれど、午後十時になるのを楽しみにしている人間が、 自分以外にもたくさんいること。

 そして、その中心には、いつも青い瞳の王様がいる。


 それは、 悪くない景色のように思えた。

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