第55話 迎える覚悟
翌日。
王城、魔法局。
エリシアが部屋を訪れ、魔法局長へ声を掛けた。
「局長」
「これは陛下」
エリシアは静かに頷く。
「……陽太さんより、ご承諾をいただきました」
一瞬、部屋の空気が止まった。
魔法局長は穏やかに目を閉じる。
「良かったですな。
では、いよいよでございますな」
ゆっくり頷く。
「はい」
エリシアも微笑んだ。
魔法局長は局員たちへ向き直る。
「最終調整を急がせます」
「目途はいつ頃になりそうでしょうか?」
「目標は一か月後です。
備蓄魔力のほぼ全てを使いますので、やり直しは当分の間できません。
何としても成功させます」
エリシアが小さく呟いた。
「絶対に成功させましょう」
「もちろんでございます。この国の未来が、動き始めますな」
◇ ◇ ◇
数日後。
王都、議会。
議場には多くの議員が集まっていた。
壇上へ立ったエリシアが静かに口を開く。
「本日は、通信術式活用の最終計画について、ご審議をお願いいたします」
議場が静まる。
魔法局長が前へ出る。
「当局による研究は、いよいよ最終段階へ到達いたしました。
本プロジェクトの完成をもって、異界より一名を、
この世界へお迎えすることが可能となります」
議場がどよめく。
「なんと……!」
「異界から!」
「本当に実現するのか……」
「歴史が変わるぞ」
魔法局長は続ける。
「召喚対象となる方へは、陛下がご説明を行い、ご承諾いただいております」
ざわめきが広がる。
すると、一人の年配議員が立ち上がった。
「陛下、どなたをお連れする予定なのかご説明いただけますか」
「はい」
エリシアが立ち上がろうとした瞬間。
「あー、先に申し上げておきますが。
異界より一名のみお招きできるのであれば」
エリシアを制すように、議場を見渡す。
「戦に長けた勇者。
豊富な知識を持つ賢者。
あるいは経験豊かな学者。
そのような方が選ばれるものだと承知しております」
各席から賛同の声が上がり、拍手が鳴る。
「医術に優れた者も良い」
「商業の専門家も必要だ」
「軍略家も捨て難い」
議場が、思い思いの言葉で騒がしくなる。
エリシアは、すべての意見を静かに聞いていた。
やがて。
ゆっくり立ち上がる。
「皆様のお考えは、よく理解しております」
議場が静まる。
「ですが」
口火を切った年配議員を見つめた。
「私が必要としているのは」
一拍置く。
「皆様がご期待されるような、
勇者ではありません。
賢者でもありません。
高名な学者でもありません」
静かな声。
それでも、その言葉には揺るぎない決意が宿っていた。
「私の隣で」
「共に悩み、共に考え、この国を大切に思い、
共に、この国の未来を歩んでくださる方です」
誰も言葉を発しない。
エリシアは続ける。
「復興も、橋も、市場も、教育も。
これまでの改革は、ここにいる皆様のお力を借りて成し遂げることができました」
「ですが、そこにはいつも、その方がおられました。
知恵を出し合い、支え合い、共に歩んだからこそ、ここまで来ることができました。
ですから、私は――」
胸へ手を当てる。
「私は、その方を、お迎えしたいのです」
別の議員が静かに尋ねた。
「……それほどまでに、信頼できるお方なのですかな」
エリシアは微笑む。
「はい」
迷いはなかった。
「私は、その方と共に、歩んでいくことを決断いたしました」
議場は静まり返る。
やがて。
先程の年配議員が、小さく頭を下げた。
「陛下。そこまでのお覚悟であれば、
異論はございません」
一人が拍手を送る。
やがて。
議場全体へ拍手が広がっていった。
◇ ◇ ◇
その夜。
【エリシア・アルヴェイン 配信開始】
:おつ王!
:こんばんは!
:今日は重大発表?
エリシアは、いつもより少し緊張した表情で微笑んだ。
「皆様、こんばんは」
一礼する。
「度々、配信をお休みしてしまい申し訳ありません。
本日は、皆様へご報告があります」
コメント欄が一気に流れる。
:きた?
:まさか……
エリシアは静かに頷く。
「以前より進めてまいりました通信術式の改良計画ですが、
最終段階の実施ができる見込みとなりました」
:最終計画?
:え?なになに
:太陽さんと相談してたの関係ある?
「はい」
そして。
大きく息を吸う。
「最終計画として、皆様の世界より、
お一人お迎えすることとなりました」
一瞬でコメント欄が埋め尽くされる。
:!?!?!?
:召喚!?
:は!?
:マジか!!
:誰!?
:俺!?
「その方には、すでにご承諾をいただいております。
皆様も、よくご存じの方です」
さらにコメントが加速する。
:まさか?
:やっぱり!?
:おおお!
エリシアは少しだけ照れながら笑った。
「はい、太陽さんです」
太陽:行ってきます
コメント欄が爆発した。
:wwwww
:マジか!!
:知ってた!!
:お前しかいない!!
:泣いた
エリシアも思わず笑ってしまう。
コメント欄は祝福で埋め尽くされていく。
:すげ
:おめでとう!!
:行ってこい!!
:エリ様を頼んだぞ!!
:応援してる!!
エリシアは画面へ向かって深く頭を下げた。
「ありがとうございます。
皆様が一緒に歩んでくださったからこそ、ここまで来ることができました」
顔を上げる。
「これからも、どうぞよろしくお願いいたします」
:行き来できるの?
:気になる
エリシアは真剣な表情になる。
「太陽さんにもお伝えしたのですが……
現状、戻る方法や見込みはありません」
:マジか
:片道か……
:よく決断したな
:すげぇわ
太陽:覚悟の上です
:かっこよすぎだろ
:頑張ってこい!
:日本のことは任せろ
「太陽さん受け入れのために、準備もありますので。
しばらくは配信も不定期になりますが、ご容赦ください」
再度、エリシアは軽く頭を下げた。
◇ ◇ ◇
配信終了後。
エリシアは、胸へ、そっと手を当てて、
静かに夜空を見上げた。
画面越しではなく。
同じ空を見上げられる日が、少しずつ近付いている。
「あと、もう少しですね」
自然と笑みがこぼれた。
その言葉を、夜風が静かに運んでいった。




