第49話 これからの人生
大学四年生。
就職活動は、本格的な時期を迎えていた。
◇ ◇ ◇
「最後の質問です。
佐藤さんは、どのような社会人になりたいと考えていますか?」
面接官が穏やかに尋ねる。
陽太は一度息を吸い、言葉を選んだ。
「私は……」
勉強はしてきた。
業界研究もした。
企業ごとの特徴も調べている。
けれど。
本当に、自分がどうありたいのか。
その答えだけは、まだ曖昧だった。
「困っている人の力になれる。
そんな社会人になりたいと思っています」
ようやく口にした言葉に、面接官は静かに頷いた。
「ありがとうございます。
本日の選考結果については――」
この日の面接が終了した。
◇ ◇ ◇
駅へ向かう帰り道。
皺のない、黒いスーツ姿の学生たちを目にする。
緊張したような表情もあれば、安堵した表情も。
自分は、どんな顔をしているように見られているのだろうか。
ふと、スマートフォンが震えた。
先日面接を受けた、別企業からのメール通知だった。
『一次面接通過のお知らせ』
(やった……!)
心の中でガッツポーズをする。
一方で、メールフォルダの中には。
『選考結果のお知らせ。
今回はご期待に添えない結果となりました』
(……通過率は半々、か)
小さく笑う。
順調とも言える。
だが、不思議と心は晴れなかった。
◇ ◇ ◇
夕方からの講義に出るために、そのまま大学へ戻る。
腹ごしらえに食堂に向かうと、友人たちが集まっていた。
「おお、陽太。お疲れ。面接どうだった?」
「まあまあかな。そっちはどう?」
「苦戦中。東京勤務で内定取れたらなぁ」
「俺は地元帰るわ」
「福利厚生が大事っしょ」
それぞれが、自分の未来を語る。
陽太も笑いながら話を聞く。
けれど。
心のどこかでは、別のことを考えていた。
◇ ◇ ◇
夜。
午後十時。
いつものように、エリシアの配信が始まる。
「皆様、こんばんは」
穏やかな笑顔。
今日も国の出来事を報告し、視聴者の意見へ丁寧に耳を傾ける。
橋。
市場。
教育。
困ったことがあれば、現場へ足を運ぶ。
間違えたときは素直に認める。
分からなければ、人へ尋ねる。
そして。
良いと思ったことは、迷わず形にする。
陽太は画面を見つめながら、小さく息を吐いた。
(すごいな)
王だからではない。
誰よりも、人の声を聞こうとしているから。
だから、皆が自然と力を貸したくなる。
画面の向こうで微笑むエリシアを見る。
(俺も……。
あんな風に、誰かのために動ける人になりたい)
そんな人になれたら。
少しだけ、エリシアに胸を張れる気がした。
その思いだけは、はっきりしている。
どんな会社へ入るのか。
どんな仕事をするのか。
まだ分からない。
それでも。
目指したい人の姿だけは、見つかっていた。
◇ ◇ ◇
配信が終わり、部屋が、しんと静かになる。
陽太はベッドへ寝転び、天井を見つめた。
「これからの人生、か……」
就職。
社会人。
いつか結婚して。
家庭を持って。
そんな未来を、ぼんやり思い描いてみる。
ごく普通の人生。
きっと、それが幸せというものなのだろう。
けれど……
隣にいる誰かを想像しようとすると。
どうしても、一人の姿しか浮かばない。
銀色の長い髪。
澄んだ青い瞳。
そして、少し照れたように笑う顔。
「……駄目だな」
苦笑することしかできない。
相手は異世界。
画面越し。
会うことも、触れることもできない。
そんなことは、分かっている。
それでも。
(エリシア以外の誰かを好きになる未来なんて……)
全く想像もできなかった。
静かな部屋に、自分のため息だけが響いた。
机の上に置いたスマートフォン。
エリシアの配信ページには、次回配信の予定が表示されている。
陽太は、それを見て自然と笑った。
「……明日も頑張る、か」
窓の外には、静かな夜空が広がっていた。
まだ、自分の進む道は分からない。
それでも、かつて彼女に送った言葉のように。
いつか胸を張って、
自分の選んだ人生を正解にできた、
と言えるように。
陽太は、ゆっくりと目を閉じた。




