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第48話 王国議会

 王都、議会。


 半円状に並ぶ席には、多くの議員や文官たちが集まっていた。


 中央の壇上にはエリシア。

 少し離れて、各局の局長が並んで座っている。


 議場が静まり返る中、エリシアが口を開いた。


「本日は、進めてまいりました施策について、ご報告いたします」


 議員たちが静かに耳を傾ける。


「まず、北部街道の橋について。

 建設は順調そのもの。年内竣工の予定です」


 税務局長が立ち上がる。


「利用する商隊の通行税については枠組みが決まりました。

 妥当性については商務局、財務局の確認済です」


 それぞれの局長が軽く頷き、同意の意を示す。


 エリシアが、手元の資料をめくり、続ける。


「ありがとうございます。次は商務局から。

 王都の商人向けに、商務局への登録制度を検討しております」


 商務局長が立ち上がり、一礼する。


「陛下のご説明通りです。

 誠実な商売を行う店が、正しく評価される仕組みとして整備を進めております。

 客からわかるように、王国認定の印章を掲げてもらう予定です」


 商務局長が座るタイミングで、

 北部復興局長が立ち上がる。

 

 エリシアが静かに頷いた。


「北部地域の復興についてご説明申し上げます。

 他地域の支援も取り付け、順調です。

 仮設住宅は希望者全体に行き渡り、冬を越す準備も整っております」


 一呼吸入れて。


「今回新たに、教育の取り組みも始めました。

 子どもたちの手が空く夕方に、学びの場を用意する、というものです。

 北部を元に戻すだけではなく、未来を創る場が生まれました」


「補佐官制度は如何ですか?」


 エリシアが、局長に続きを促す。


「はい。補佐官制度も十分に機能しております。

 現場で課題を見つけ、現場で改善する流れが生まれました」


 議場から感心したような声が漏れる。


「順調ですな」

「ここまで短期間とは」


 エリシアが、全体を見渡す。


「補佐官制度については、他局への導入も提案いたします。

 各局ごとに、採用可否の検討を進めてください」


 エリシアの声に、一部の局長は、納得するかのように頷いていた。


「続いて魔法局、お願いいたします」


 エリシアに促され、魔法局長が一歩前へ出た。


「本日のご報告はこちらになります」


 銀色に輝く、薄い金属製の円盤を掲げた。

 議場が少しざわついた。


「これは通信術式の拡張具でございます。

 現在は、陛下の術式に合わせた一台のみですが、

 遠隔地との、双方向での映像や音声通信を可能とする装置です」


 おお、という感嘆の声があちこちから聞こえる。

 中年の議員が身を乗り出して声を上げた。


「つまり……離れた場所と話せるということか?」

「はい」


 魔法局長は頷く。


「現時点では長時間の使用は困難かつ、陛下専用品ですが、実用化への目途が立ちました」


 さらに続ける。


「これが普及すれば、遠隔地との連絡は飛躍的に早くなります。

 各地の行政。災害対応。

 ……そして軍の伝令」


 一拍置く。


「国の在り方そのものが変わる可能性を秘めております」


 議場が大きくどよめいた。


「そんなことが……」

「夢物語ではなかったのか」


 その空気の中。

 一人の年配議員が立ち上がった。


「陛下」

「はい」

「一つ、お尋ねしたいことがあります」


 議場が、しんと静まる。


「最近の改革。そしてこの通信術式。

 その背景には、異界からの助言があったと伺っております」


 空気が少し張り詰めた。


「国のことを、陛下直々に、素性も知れぬ異界の者へ相談する。

 それはいかがなものでしょうか」


 別の議員も立ち上がる。


「我々も同じ懸念を抱いております。

 国政へ関わらせるなど、危険極まりありません」


 議場には賛同する声もあった。

 エリシアは静かに全員を見渡した。


 その時だった。


「この件、私からご説明いたします」


 魔法局長が更に前へ出る。


「通信術式の研究は、陛下ご自身で異界の通信先を発見され、

 実証されたことで大きく進展いたしました。

 もし陛下が、異界の方々と出会われていなければ、この技術は存在していなかったでしょう」


 議場が静まる。


「陛下は知恵を借りただけではありません。

 この国に新たな技術をもたらされたのです」


 誰も言葉を返せなかった。

 しかし。

 最初に質問した議員はなお口を開く。


「では、お聞きしましょう」


 真っ直ぐエリシアを見る。


「その異界の者たちは、何を望んでいるのですか。

 見返りもなく助言をするなど、常識では考えられません。

 何か企みがあるとは、お考えにならないのでしょうか」


 議場が再びしんと静まり返る。


 エリシアは少しだけ考えた。


 そして。


 困ったように、小さく笑った。


「私も、最初は同じことを考えました」


 議員たちが耳を傾ける。


「ですが」


 少し照れくさそうに続けた。


「どうやら、そうではないようです」

「ほう」

「私と雑談をしたり、

 市場や村の様子を見てもらったり」


 一呼吸置く。


「その時間そのものが、異界の皆様にとって、

 十分な報酬になっているようなのです」


 一瞬。

 議場が静まり返る。


「……なんと」


 誰かが思わず漏らす。


 次の瞬間。

 くすくす、と笑い声が広がった。


「それは変わった……方々ですな」

「不思議なお話だ」


 場の空気が少し和らぐ。

 エリシアも柔らかく微笑んだ。


「ええ。私も、そう思います」


 笑いが落ち着く。


 エリシアはゆっくり議場を見渡した。

 その表情が、王のものへ変わる。


「皆さまのご懸念は理解しております」


 一言で、議場の空気が引き締まった。


「国の機密を、無制限に共有するつもりはありません。

 必要な線引きは、王である私が、責任を持って判断いたします」


 静かな、透き通るような声。

 その言葉には迷いがなかった。


「橋も。市場も。教育も。

 現場で生まれた課題を、多くの知恵によって解決してまいりました」


 一人ひとりの議員へ目を向ける。


「私は、良い知恵があれば、積極的に受け入れます。

 ここにお集まりの皆さまだけでなく。

 国民からであろうと、たとえ、異界からのものであろうと」


 声を更に張ってはっきりと。


「私が愛する、国民のために活かします」


 議場は静まり返る。


「それが、この国の王である、私の務めです」


 やがて。

 議場のどこからともなく拍手が起こった。

 その拍手は次第に広がり、議会全体を包み込んでいった。


 拍手が落ち着いたタイミングで、

 魔法局長が一礼して話を続けた。


「なお、通信術式の研究につきましては、陛下と共に、

 現在も更なる可能性を探っております」


 議場が静まる。


「詳細は、現段階では申し上げられませんが」


 僅かに笑みを浮かべた。


「最終段階の計画を進めております。

 目途が立ち次第、改めて議会に上程いたします」


 議員たちが頷く。

 期待を含んだ空気が広がった。


 エリシアが資料をめくった。


「最後に、私から、もう一件、ご報告があります。

 以前ご承認いただいた内容に基づき、

 新たな観光施設の整備も進めております」

「例の展示施設のことかね?」

「はい」


 別の議員の声に、エリシアは頷いた。


「王都へ訪れた方々が、より長く滞在し、この国を楽しんでいただける施設です。

 来国者の増加により、市場の発展にも寄与するものと考えます。

 完成しましたら、改めて皆様へご案内いたします」

「おお」

「楽しみですな」


 あちこちから、雑談交じりの、期待の声が上がっていく。

 議員たちの表情も、すっかり和らいでいた。



 各議題の報告が終わり、議会が終わりを迎える。

 議場を見つめるエリシアの横顔には、王としての覚悟が宿っていた。


 王国は、一歩ずつ、しかし大胆に改革の歩みを進めていた。


 だが、その瞳の奥には。

 誰にもまだ話していない、大きな願いも秘められていた。


(いつか、この国を。

 陽太さんにも、直接見てもらいたい)


 その願いは、まだ誰にも知られていなかった。

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