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第47話 学びの成果

 北部の村。


 夕方。


 以前より少しだけ賑やかな声が、集会所から聞こえていた。


「では、この文字を読める人はいますか?」


 アルドが木板を指差す。


 すると。


「はい!」


 一人の少年が元気よく手を挙げた。


「これは『川』です」

「正解です」


 アルドが微笑む。


 周囲の子どもたちから、小さな拍手が起こる。

 その様子を、エリシアは静かに見守っていた。


 数週間前。


 最初にここを訪れた時とは、明らかに違っていた。

 疲れた表情で机に向かっていた子どもたち。


 今は。


「次は僕が教える!」

「私も覚えた!」


 楽しそうな声が響く。

 エリシアが以前教えた歌を、

 子どもたちが全員で歌いはじめた。


「随分と変わりましたね」


 エリシアがアルドに歩み寄り、呟く。


 アルドが頷いた。

 少し嬉しそうな表情だった。


「はい。文字や計算を覚えてもらうことが目的でしたが

 今は、それだけではありません」


 子どもたちを見る。


「おかげ様で、子どもたち自身が、学ぶことを楽しんでおります」


 アルドは続けた。


「それは、私たち大人も、同じでした」


 エリシアも子どもたちを見つめる。

 そして、少し照れくさそうに笑った。


「私も、少し気恥ずかしかったですが……。

 文字の伝え方、説明の仕方。

 どうすれば興味を持ってもらえるのか。

 ただ知識を渡すだけでは、人は学び続けられない。

 そのことを、教えていただきました」


 アルドは笑った。


「この場所は、子どもたちだけの学びの場ではありません。

 私たちにとっても、大切な学びの場になりましたね」



 この日の視察には、もう一人訪れていた。


「陛下」


 北部復興局長がエリシアに頭を下げる。


「ご足労いただきありがとうございます」

「こちらこそ、ありがとうございます」


 局長は、子どもたちの姿を静かに見つめていた。


「一つずつ、形になって参りましたね」


 局長の柔らかい声に、エリシアは少し首を傾げる。


「ですが、まだ小さな取り組みです」

「いいえ」


 局長はゆっくり首を振った。


「復興とは、壊れたものを元に戻すだけではありません」


 静かな声。


「その先にある未来を作ることです。

 橋を架けることも。

 畑を豊かにすることも。

 そして、人が成長できる環境を作ることも」


 エリシアは、その言葉を噛みしめた。


「陛下。北部復興の一つとして、教育の取り組みを、

 議会へも報告させていただきたいと思います」

「是非、お願いします」


 局長は頷く。


「そして、もう一つ」


 エリシアが顔を上げる。


「今回、改めて実感いたしました。

 補佐官制度は、十分に機能しております」


 局長が、アルドを見ると、

 アルドは、うやうやしく頭を下げた。


「現場に近い者が考え、提案し、実行する。

 以前のように、王城がすべてを決める形ではありません」


 局長は微笑む。


「これは、今後の国の発展においても大きな意味を持つでしょう」


 エリシアは静かに頷いた。


 一人で考えるだけでは、見えなかったもの。

 多くの人と話すことで、見えてきたもの。


 それが今、形になっている。


◇ ◇ ◇


 その夜。


【エリシア・アルヴェイン 配信開始】


:おつ王!

:こんばんは!


「皆様、こんばんは」


 エリシアはいつものように一礼した。


「本日は、北部の学ぶ機会についての続報からです」


 コメント欄が流れる。


:どうなった?

:歌上手かった!

:子供たち元気?


「はい」


 エリシアは嬉しそうに笑う。


「皆様からいただいたご意見を参考に、

 歌や遊びを取り入れながら続けております」


:よかった!


太陽:子どもたちが楽しんで続けられるのが一番ですね


 エリシアは、そのコメントを見つける。


「はい」


 微笑む。


「本当に、その通りだと思います」


 そして。


「今回、私も一つ学びました」


 コメント欄が少し静かになる。


「学ぶということは、誰かから一方的に教えていただくものではないのですね」


 子どもたち。

 アルド。

 北部の人々。


 顔が浮かぶ。


「教える人も。

 学ぶ人も。

 共に成長していくものなのだと」


 穏やかに微笑む。


「今回の経験を、これからの国づくりにも活かしていきたいと思います」


:いい話だった

:王様レベルアップ!

:北部復興進んでるね


太陽:エリシア様が、現場で向き合ったからですよ


 そのコメントを見て。


 エリシアは少しだけ照れた。


「ありがとうございます」


 小さく頭を下げる。


「ですが、私一人の力ではありません」


 画面を見る。


「皆様が一緒に考えてくださったからです」


◇ ◇ ◇


 配信終了後。


 エリシアは自室で、今日の報告書を見る。


 そこには新しく書き加えられた項目があった。


『学ぶ機会の創出』


 その横に、小さく文字を書く。


『共に成長する』


 エリシアはペンを置く。

 学びとは、教える者と教わる者、そのどちらにも訪れるものだった。


 補佐官制度も。

 教育も。

 商務局への登録制度も。


 すべて最初は、小さな気付きから始まった。


 そして。


 その気付きを形にしてくれる人々がいる。


 エリシアは窓の外を見る。


 星空の向こう。

 遠い世界にも。

 共に考えてくれる人がいる。


「……ありがとうございます、陽太さん」


 誰にも聞こえない声で呟いた。

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