第46話 エリシア先生
北部の村。
夕方。
小さな集会所の前には、いつもより多くの人が集まっていた。
子どもたち。
その親たち。
そして。
少し離れた場所には、配信用の石板が置かれている。
【エリシア・アルヴェイン 配信開始】
「みなさま、こんばんは。
本日は、北部の村に再訪しております」
エリシアは画面へ向かって微笑んだ。
:おつ王!
:外配信!
:北部だ!
:子どもたちいる?
「はい」
エリシアが振り返る。
この日も、仕事や家事を終えた子どもたちが集まっていた。
「今日は、皆様と一緒に楽しく学ぶ方法を試してみたいと思います」
:楽しそう
:授業参観みたい
:エリシア先生!
エリシアは少し照れたように笑う。
「先生……ですか」
隣にいたマリアが小さく微笑んだ。
「とてもお似合いですよ」
「本当でしょうか」
「はい」
太陽:エリシア様なら、大丈夫です
エリシアはその言葉を見つけると、小さく息を吐いた。
「……ありがとうございます」
緊張していた表情が、少しだけ柔らかくなる。
◇ ◇ ◇
まず始まったのは、文字の勉強。
机へ向かう形式ではない。
「では、この歌を覚えてみましょう」
エリシアがリズムよく手を叩く。
子どもたちの前で、柔らかい手拍子に合わせて、
簡単な歌を歌い始める。
鈴を転がすような、透き通った歌声。
文字の形。
音。
意味。
それらを歌詞にしたものだった。
最初は戸惑っていた子どもたちも。
「もう一回!」
エリシアが歌い終わると、
一人の少女が声を上げる。
次第に、笑顔が増えていく。
:楽しそう!
:これ覚えやすそう
:子供向け教材だ
:王様が歌ってる……
コメント欄が流れる。
「……では、次は数字のお歌です」
身体全体で、数字を表現しながら歌いあげていく。
:これ考えたの?すご
:あれ?
:ロボット……ダンス?
:踊りがw
腕を上げる。
足を動かす。
どう見ても、ぎこちない。
張り付いたような笑顔に、口角が引きつる。
マリアが隣で小さく声を掛ける。
「陛下、笑顔です」
(笑顔……)
「陛下、手と足が一緒に動いてます」
(これで……精一杯なのです……!)
マリアの呼び掛けは、子どもたちには聞こえない。
けれど。
画面の向こうの視聴者には伝わっていた。
:エリさま超頑張ってるw
:健気
:応援したくなる
「殿下、上手に踊るよりも、
子どもたちと一緒に楽しみましょう」
(一緒に、楽しむ……!)
少しだけ、エリシアの肩の力が抜けた。
もう一度。
今度は少し自然な笑顔で。
歌に合わせて身体を動かした。
◇ ◇ ◇
授業が終わったあと。
「皆さん、どうでしたか?」
「楽しかった!」
「またやりたい!」
子どもたちの声が響く。
以前のような疲れた表情ではなかった。
もちろん、疲れていないわけではない。
けれど。
「もう少しやりたい」という気持ちが芽生えていた。
エリシアは画面へ目を向ける。
コメント欄には、たくさんの言葉が流れていた。
:楽しかった!
:いい授業だった
:エリシア先生さすが
エリシアは、その言葉をゆっくり読み返した。
「……そうですね」
少し照れくさそうに笑う。
「皆様のおかげで、楽しく授業をすることができました。
……踊りは、上手にはできませんでしたが」
コメント欄が一斉に流れる。
:むしろかわいかったw
:一生懸命で良かったよ
:良いもの見せてもらった!
マリアも隣に立ち、微笑む。
「上手くいきましたね」
エリシアも頷いた。
「はい。
学ぶことは、苦しいことではなくても良いのですね」
画面を見る。
コメント欄にも、たくさんの言葉が流れている。
:いい授業だった
:子供たち楽しそうだった
そして。
太陽:子供たちの笑顔が、一番の成果ですね
エリシアは、そのコメントをしばらく見つめた。
「……はい」
小さく頷く。
「ありがとうございます」
◇ ◇ ◇
配信終了後。
帰りの馬車。
エリシアは手帳を開いた。
『学ぶ機会』
『楽しく続けられる仕組み』
『一緒に楽しむ』
新しく得られた成果が並んでいた。
「ねえ、マリア」
「はい、何でしょう」
マリアと目が合う。
「不思議なことに、今日は、
余り疲れを感じませんでした」
「太陽様が見ていてくれたからですか?」
「違います!」
即答だった。
エリシアは、ぷいと、窓の外を見る。
「……やっぱり嘘です。違わないこともないです」
耳が赤くなっていた。
「はい、存じております」
マリアが微笑む。
遠い異世界。
画面の向こう。
直接会うことはできない。
それでも。
今日もまた、一つの課題を乗り越える力になっていた。
北部の村で始まった小さな学びの場は、
少しずつ形を変えながら、未来へ向かって歩き始めていた。




