第43話 もう一度、お願いします
王城、魔法局。
この日、魔法局内にある研究室に、エリシアとマリアが足を運んでいた。
エリシアを中心に、多くの局員が集まっている。
机の中央に、黒い布が掛けられた、平らな装置が置かれていた。
「陛下、お待たせいたしました。
ついに完成しました」
魔法局長が一礼すると、
若手の局員により布が静かに外された。
現れたのは、金属製の、銀色の円盤。
透明な魔石が中央にはめ込まれ、キラキラと光を反射している。
以前の通信実験で使われた装置と、
見た目はほとんど変わらない。
「完成版の、通信術式の拡張具です」
「これが……」
エリシアは目を輝かせた。
局長は頷く。
「陛下の術式を増幅し、映像と音声を双方向に高感度で送受信できます」
更に、興奮気味にまくし立てる。
「試作機では起動や維持に複数名の補助が必要でしたが、こちらは、陛下お一人の術式で、より安定した通信が可能です。
魔力消費は、決して小さくありませんが、効率も大幅に改善しております」
局員の一人も続ける。
「先日の通信実験で得られた記録を基に、改良を重ねました!」
「本当に……ありがとうございます」
エリシアが頭を下げる。
「ただ……」
局長は少し申し訳なさそうに続けた。
「現在完成しているのは、この一台だけです。
量産には、まだ時間が必要になります」
「現時点では、これで十分です。
ここまで形にしてくださって、大きな前進です」
エリシアは優しく微笑んだ。
「皆様の努力に、感謝いたします」
局長も安堵したように頭を下げる。
周囲の局員達からも、歓喜の声が上がった。
少し間を置いて。
「では、改めて起動実験をさせていただきたく。
確か、太陽殿でしたか。またご相談をお願いいただければと」
局長が、当然のように言った。
すると。
エリシアは、少し伏し目がちに、顔を横に向けた。
(陛下……?)
数メートル程離れて立っていたマリアが、エリシアの耳が赤くなっていることに気づいた。
「局長……あの……お願いがあります」
エリシアが静かに口を開く。
「実験は、私一人で実施させていただけないでしょうか」
研究室が静かになる。
「差し支えなければ、理由をお聞かせ願えますか」
エリシアは、しばらく考えてから、
伏し目がちなまま、囁くような声で答えた。
「……太陽様との通信中、お話の中で、機密情報が出てくる可能性があります。
結果は後ほど必ずご報告いたします。
万一問題があれば、その責任は私が負いますので」
どこかソワソワと落ち着きのないエリシアの様子に、
局長が、マリアの視線を感じた。
局長に向けて無言で頷くマリアに、局長も僅かに頷き返す。
「なるほど」
局長が仰々しいトーンで答えた。
「承知いたしました。
それでは、通信実験につきましては、陛下へお任せいたします」
エリシアは顔を上げ、嬉しそうに微笑む。
「ありがとうございます」
その様子を見ていたマリアだけが、
(責任……ですか)
心の中で、小さく笑った。
確認が終わり、局員達が引き上げていく中、
局長がエリシアを引き留めた。
「陛下」
「はい」
「これで、最終段階に進められます。予定通りで構わないでしょうか」
「いよいよですね。計画通りに進めてください」
「承知いたしました。続報をお待ちください」
◇ ◇ ◇
午後十時。
【エリシア・アルヴェイン 配信開始】
:おつ王!
:こんばんは
「皆様、こんばんは」
エリシアは一礼した。
「本日は、皆様へご報告があります」
:おっ
:今日はなんだろう?
:市場の話かな?
「はい。
先日、商務局と相談いたしました市場の件ですが——」
コメント欄が流れる。
「商務局への登録制度の準備が始まりました」
:おお!
:仕事早い!
:きた!
「一定の条件を満たして、登録を認めたお店には
王国認定の印章を掲げる許可を出す予定です。
初めて市場を訪れた方でも、安心してお店を選べるようにしたいと考えております」
:良さそう
:安心できる!
:信頼の見える化だ!
エリシアは嬉しそうに頷く。
「まだ準備段階ですが、一歩ずつ進めて参ります」
:印章ってどんなの?
:デザイン気になる
「商務局で検討いただいているところですね。
いくつかの案の中から決めることになりそうです。
皆様の方で、何か思いつくものはありますか?」
:エリさまのダンス姿はどう?
:腹筋姿
「やめてください」
即答だった。
コメント欄に笑いが広がる。
太陽:王家の紋章を入れると、初めて来た人にも伝わりやすそうですね
:真面目か!
:太陽さんらしい
:真面目だわ
:でも良さそう
「王家の紋章……」
エリシアが陽太のコメントを見つけ、頷いた。
「確かに、分かりやすいですね」
:王国認定感あるね
:欲しいw
:見てみたい!
エリシアが微笑む。
「はい、デザインが決まりましたら、ご報告いたします」
◇ ◇ ◇
話が一段落したところで、
エリシアは顔を上げた。
「さて、もう一つお話が」
:お?
:まだある?
エリシアは少しだけ嬉しそうに続ける。
「通信術式の拡張具が、ついに完成いたしました」
一瞬、コメント欄が止まる。
次の瞬間。
:きたーーーー!
:完成!!
:すげえ!!
:おめでとう!
エリシアは自然と笑顔になる。
少しだけ緊張したように画面を見る。
「太陽様」
陽太の鼓動が大きく跳ねた。
コメント欄が静かになる。
「もし、ご都合がよろしければ——」
エリシアが、軽く深呼吸をして。
「もう一度、通信実験へご協力いただけませんでしょうか」
画面越しに、エリシアと目が合った気がする。
そんな錯覚を覚えながら、
少しだけ震える指を、キーボードへ添える。
今度は、打ち間違えないよう。
太陽:是非。喜んで。
送信。
数秒後。
エリシアは、心から安心したように微笑んだ。
「ありがとうございます」
その笑顔は、画面越しでも分かるほど柔らかかった。
:太陽さんうらやま
:わー!
:楽しみ!
:第二回通信実験!
「それでは、二日後のいつもの時間。
配信はお休みにして、通信実験をさせてください」
太陽:楽しみにしています
コメント欄が加速し、期待に包まれる。
配信終了後。
陽太は静かに椅子へもたれた。
もう一度。
次はきっと、エリシアと二人で話せる。
その事実だけで、胸の高鳴りはしばらく収まりそうになかった。




