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第37話 学ぶ機会

 午後十時。


【エリシア・アルヴェイン 配信開始】


:おつ王!

:こんばんは

:教育どうなった?


「皆様、こんばんは」


 エリシアはいつものように一礼した。

 コメント欄には、先日話題にした学校のことを気にする声が多く流れている。


「はい、今日は、そのご報告からはじめさせていただきます」


 少しだけ表情を引き締めた。


「先日、北部の村を訪ねてまいりました」


:どうだった?

:学校建てれそう?


「いいえ」


 静かに首を横へ振る。


「子どもたちは、朝から畑や家のお仕事をしていました」


 コメント欄が少し静かになる。


「親御さんも、学ばせたくないわけではありません。

 ですが、一人でも働き手が減ると、その日の暮らしに関わるそうです」


:そうだよな……

:現実は厳しい

:難しい問題だ


 エリシアは頷いた。


「私は、学校を建てれば解決すると思っていました」


 一呼吸置く。


「ただ、それは解決手段にならないことがわかりました。

 建物があっても、通えなければ意味がありません」


 コメント欄がゆっくり流れる。


:夜なら?

:農閑期とかは?

:毎日じゃなくてもいいんじゃ?

:読み書きだけでも違う

:集会所とか使えない?


 陽太もコメントを書き込んだ。


太陽:まず、学ぶ機会を作ることが大切なのかもしれません


 画面に映ったその言葉に、

 エリシアが、少しだけ目を見開いた。


「……なるほど。学ぶ機会」


 その言葉を、小さく繰り返した。


 陽太の一言に背中を押されるように、

 コメント欄に一つ、また一つとアイデアが並びはじめる。


 エリシアは、その一つ一つを丁寧に読んでいく。 


「確かに、その通りですね。

 皆様は『学校』ではなく、『学ぶこと』を考えてくださっているのですね」


 優しく微笑む。

 そして、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「子どもたちが学べる機会……それをどう実現するか考える」


:それだ!

:いい言葉

:建物は後からでもいい

:まずは始めることだね


 コメント欄が穏やかな空気に包まれる。

 エリシアは深く頷いた。


「ありがとうございます。

 皆様のおかげで、また一つ、大切なことを教えていただきました」


 一礼する。


「北部で見てきたことと、

 皆様のお話を合わせて考えてみます」


:頑張れ~

:王様、今日もレベルアップ

:応援してる!

:おつ王!


「本日もありがとうございました」


 画面が静かに暗転した。


◇ ◇ ◇


 翌日。


 王城の会議室。


 北部復興局の局長に加え、新任の補佐官たちが席に着く。

 農場経営者、羊飼い、職人、そしてアルド。


 それぞれがエリシアの言葉を待っていた。


「皆様」


 エリシアは立ち上がる。


「先日、局長と、復興と発展を加速させるために

 学校建設についてご相談いたしましたが」


 一度、全員を見回した。


「私の考えが間違っていました」


 室内が静まり返る。


「学校を建てること自体が目的ではありません。

 子どもたちへ、学ぶ機会を届けることが目的です」


 エリシアは続ける。


「各家庭のお子さまが、参加できる場所や時期がないか。

 皆様のお知恵を貸してください」


 補佐官たちは顔を見合わせる。

 やがて、アルドが口を開いた。


「それでしたら、集会所なら使えます」


 続いて農場経営者が頷く。


「教会を借りても良いのでは?

 農閑期なら、子どもたちも集まりやすいでしょう」


 羊飼いも続く。


「夕方なら、大体どこの家庭も仕事は終わっています。

 読み書きくらいなら教えられる者もおります」

「夕方なら、疲れて眠ってしまう子どももいるのではないでしょうか」

「教師役を務める者への謝礼はどういたしましょう」


 次々と意見が重なっていく。

 エリシアは、そのすべてを書き留めていった。


 やがて局長が静かに口を開く。


「まずは一つの村で試してみましょう」


 アルドが続く。


「最初は、簡単な文字と計算からはじめては如何でしょうか?

 そこで課題を洗い出し、少しずつ広げていけばよろしいかと」


 エリシアは力強く頷いた。


「はい。国を一日で変えることはできません。

 ですが、一歩ずつなら、きっと前へ進めます」


 補佐官たちも静かに頷く。

 誰一人として笑う者はいなかった。


 王女の言葉を、皆が自分たちのこととして受け止めていた。


 学ぶ機会を届ける。

 文字を知ることは、 誰かの未来を広げることなのかもしれない。


 その小さな一歩が、 今日、この国で静かに踏み出された。

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