第31話 面接は緊張いたしました
午後十時。
【エリシア・アルヴェイン 配信開始】
:こんばんは
:おつ王!
:補佐官進展した?
「皆様、こんばんは」
エリシアは一礼すると、少し嬉しそうに微笑んだ。
「はい、本日は、補佐官制度についてご報告いたします」
:きた!
:待ってた
:どうなった?
「面接が、無事に終わりました」
コメント欄が一気に流れる。
:お疲れ様!
:その顔はうまくいったのかな
:良い人いたっぽい?
「はい」
エリシアは頷く。
「予想以上に、多くのことを学ばせていただきました」
:おっ?
「例えば、橋一つのお話でも」
少し考える。
「私は橋が完成すれば、人や物が行き来しやすくなるだけ、と考えていました」
:うん
:そうじゃないの?
「そうなのですが、それだけではありませんでした」
エリシアはノートを開く。
「橋ができれば、羊毛を刈る時期も変わるそうです。」
:え?
:イミフ
:なんで?
「往復日数が短くなるからです」
ゆっくり説明する。
「今までと同じやり方では、かえって効率が悪くなるそうで」
:なるほど!
:そういうことか
「他にも、物流のお仕事をされていた方には、
倉庫の管理方法について教えてくださいました」
さらに続ける。
「会計のお仕事をされていた方は、予算の見方について。
農業に携わる方は、土地ごとの違いについて」
顔を上げて続けた。
「皆様、それぞれ違う視点をお持ちでした」
:へー
:専門家ってすごい
:勉強になる
陽太もコメントする。
太陽:一人では見えないことでも、
色々な人の知識が集まれば見えてきますね
エリシアはコメントを見つけ、柔らかく笑った。
「はい、だからこそ、相談することは大切なのですね」
静かな口調だった。
「採用させていただく方は限られてしまいますが、
皆様のお話を伺えたこと自体が、大きな財産でした」
:いい制度だ
:これから楽しみ
:頑張って!
「ありがとうございます」
エリシアは深く頭を下げた。
しばらく雑談が続いた後。
:面接って緊張した?
「しました」
即答だった。
:面接官なのに!?
:王様でもか
:かわいい
「初めてでしたので」
少し照れたように笑う。
「私の方が試されているような気持ちになりました」
:めっちゃ分かるw
:優しい王様
:採用した人には何を期待してる?
「私にない知識や経験です」
迷いなく答えた。
「この配信を始めた時に言ったことになりますが、
私が知らないことは、たくさんあります」
目の前にいるであろう、視聴者を見るかのように。
「だからこそ、知恵や力を借りたいのです」
:いい考え方
:応援したくなる
コメント欄は穏やかに流れていく。
「本日もありがとうございました」
エリシアは一礼した。
「また明日、お会いしましょう」
:おつ王!
:おやすみー!
:頑張って!
画面が暗転した。
◇ ◇ ◇
部屋に静けさが戻る。
エリシアはノートを閉じ、小さく息をついた。
そこへ、ノックの音が響く。
「失礼します」
お茶を運んできたマリアが、静かに部屋へ入った。
「お疲れ様でした」
「ありがとう」
湯気の立つ茶器を受け取り、一口飲む。
張り詰めていた肩の力が、少し抜けた。
マリアが机の上のノートに目を向ける。
「ノートのメモもずいぶん増えましたね」
エリシアは少し笑う。
「そうなの。皆様が色々教えてくださるから」
マリアも穏やかに微笑んだ。
「少し前までは、殿下がお一人で抱え込んでおられました」
その言葉に、エリシアは少しだけ目を丸くする。
「……そうだったかしら」
「ええ」
迷いのない返事だった。
「ですが今は、議員の方々にも。
現場の皆様にも。
そして配信の皆様にも、相談なさるようになりました」
エリシアは少し考え、それから小さく笑う。
「そうね」
窓の外には、夜の王都。
「一人で考えるより、
ずっと良い答えが見つかることがわかったから」
静かに呟いた。
王の仕事は、決めること。
そのために、様々な人の声へ耳を傾けることもまた、
大切な仕事なのだと。
エリシアは、一つずつ学びはじめていた。




