表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
30/35

第30話 現場が知っていること

 面接は続く。

 重い扉が、ギィッと開く。


 入ってきたのは、日に焼けた五十代ほどの男性だった。


 質素な服装。

 靴には乾いた土が付いている。


「ロランと申します」


 深く頭を下げる。


「北部で羊を育てております」


 エリシアは応募書類を見る。


 羊飼い。

 補佐官候補としては珍しい経歴だ。


「応募理由を教えていただけますか」


 ロランは少しだけ照れくさそうに笑った。


「橋が出来ると聞きまして」


 やはり橋だった。


「橋が出来れば、羊毛をもっと早く王都へ運べます」


 そこまでは予想通りだった。

 だが。


「それだけではありません」


 ロランは続ける。


「今まで一週間かけて運んでいた荷が、橋ができると

 四日で届く計算になります」


 エリシアが頷く。


「そうすると、その分だけ羊を刈る時期も変えねばなりません」

「……時期、ですか?」

「はい」


 ロランは当然のように答える。


「今までは荷車が来る日に合わせて刈っていました。

 もし、荷車が来る時期が変わり、かつ早く運べるようになるなら

 刈る順番も、干し方も変わります」


 局長も静かに耳を傾けている。


「運ぶだけではありません」


 ロランは笑った。


「橋が出来ると、羊の育て方まで変わるんです」


 エリシアは少し目を見開いた。


 そこまで考えたことはなかった。

 橋は橋では終わらない。

 その先にある暮らしや生活の仕方まで変える。


「勉強になります」


 自然と言葉が漏れた。


「恐縮です」


 ロランは照れくさそうに頭をかいた。


「私には、難しいことは分かりません。ですが」


 優しい笑顔になる。


「羊なら、毎日見ています。

 羊のことなら誰にも負けません」


 その一言には、不思議な重みがあった。



 面接は夕方まで続いた。


 長く教育に従事していた者。

 農具を作る鍛冶師。

 帳簿を三十年付け続けた会計係。


 立場も年齢も違う。

 だが全員に共通していたものがある。


 自分の仕事に誇りを持っていること。

 そして。

 国を良くしたいと思っていることだった。



 日も暮れかけた頃、

 最後の応募者が部屋を出ていく。


 静かになった会議室で、局長が大きく息を吐いた。


「終わりましたな」

「はい」


 エリシアも小さく息をつく。


 思っていた以上に疲れていた。

 だが、不思議と心地よい疲れだった。


「皆様、本当に色々なことをご存じでした」

「現場とは、そのようなものです」


 局長が笑う。


「我々役人が知らないことも多い」


 エリシアは机の上に積まれた書類を見る。


 橋を造る。


 その言葉一つでも。


 物流を見る人。

 羊を育てる人。

 商人。

 職人。


 全員が違う視点で、違う景色を見ていた。


「補佐官制度を提案して、本当に良かったと思います」


 自然と口から出た。

 局長も頷く。


「私も同感です」


 そして少しだけ真面目な顔になる。


「ただ、採用できる方は、ごく一部です」

「はい」


 その言葉に、エリシアは静かに頷いた。


 全員を採用したい。

 そう思えるほど優秀だった。


 だからこそ選ばなければならない。

 それが王の責任だった。



 夜。

 執務室。


 マリアがお茶を置く。


「お疲れ様でした」

「ありがとう」


 一口飲む。

 少し冷めかけていた。


「どうでしたか?」


 マリアが尋ねる。

 エリシアは少し考えたあと、笑った。


「本当に知らないことばかりでした」


 闇に染まった窓の外を見る。


「だからこそ、聞いて良かったと思います」


 少し間を置く。


「知恵というものは、王城や貴族の中にだけあるものではないのですね」


 マリアが静かに頷く。


「だからこそ殿下は、この制度をお作りになったのでしょう」

「ええ」


 エリシアは小さく笑う。


「まだ始まったばかり。

 ですが、この方々の力を活かせる仕組みにしないといけませんね」


 知ること。

 耳を傾けること。


 それも王の仕事なのだと、今日あらためて実感した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ