第28話 補佐官制度 最初の一歩
午後十時。
【エリシア・アルヴェイン 配信開始】
:こんばんはー
:待ってました!
「皆様、こんばんは」
エリシアはいつものように頭を下げた。
「まずは、先日お話しした人材登用についてのご報告から」
:おっ
:来た
:続報!
コメント欄が少し加速する。
「北部復興局に、能力を重視した人材登用を行いまして、
効果が出てきております」
:おお
:流石エリさま
:上手くいった!
さらに加速していくコメントに、
エリシアは真面目な表情を崩さない
「予想した通り、各派閥からの反発も起きました」
:副作用か
:そうなるのね
:反発大丈夫だった?
「どう思われたか、わかりませんが」
エリシアは少し考えて続ける。
「理由や必要性はしっかりとお伝えしました。
理解はしていただけたのではないかと」
:空気重そう
:派閥大変
:エリさま強い
陽太も続く。
太陽:頑張ったのですね
エリシアは、表情を崩す。
「ありがとうございます。
はい、選んだ道が正解になるように」
一度言葉を区切る。
「加えて、補佐官制度を試験的に導入することも決定いたしました」
:補佐官制度?
:お?
:なんだそれ?
「民間からの登用です。
以前、皆様から頂いたお話も参考にしながら、
広く知恵を借りれるよう、提案してみました」
:おおおお
:通ったんだ!
:やったじゃん
:改革だ
エリシアは小さく頷いた。
「まだ小規模です。
まずは、その北部復興局から始める予定です」
:何する人なの?
「簡単に言えば助言役です」
机の上の資料に目を落とす。
「復興工事。物流。会計。農業。
そうした各分野の経験者に協力していただきます」
:なるほどねー
:専門家か
:実務経験者だ
「はい」
エリシアは頷く。
「官職ではありませんので決定権はありません。
ですが、現場の知恵をお借りできればと」
コメント欄が流れる。
:良さそー
:現場は現場が一番詳しいし
:商人とか強そう
「商人ですか」
エリシアはメモを取る。
「確かに物流面では期待できますね」
:倉庫管理の人とか?
:数字に強い人欲しい
「数字に強い方」
再び書き留める。
:現場の人と管理の人は別じゃない?
そのコメントを見た瞬間。
エリシアの手が止まった。
「別……」
小さく呟く。
:確かに
:同じじゃないな
:職人の親方と経営者は違う
コメント欄が続く。
陽太も重ねる。
太陽:現場を動かす人と、全体を見て判断する人は、
求められる知識や経験が違いそうですね
エリシアはコメントを見つめる。
それからゆっくり頷いた。
「なるほど」
ノートに新しい項目を書き加える。
「確かにそうかもしれません。
私は同じものとして考えていました」
:気付きだ
:エリさま、レベルアップ!
:なるほどなあ
:言われると分かる
「補佐官も、一つの役職ではなく、
役割を分けた方が良いのかもしれません」
考え込むように言う。
コメント欄が盛り上がる。
:いつもの相談会だ
:ガチ王
:議会第二会場はここですか?
エリシアが苦笑する。
「第二会場ではありません」
:本当か?
「本当です」
いつもの即答に、コメント欄が笑う。
◇ ◇ ◇
話題は落ち着いたタイミングで、
エリシアはノートを閉じる。
「皆様のおかげで、また整理できました」
:色々勉強になった
:役に立った?
:よかった
「はい」
エリシアは素直に頷く。
「まだ始まったばかりですが」
窓の外へ視線を向ける。
「少しずつ形にしていきたいと思います」
:頑張れ
:楽しみ
太陽:応援してます
「ありがとうございます」
エリシアは柔らかく微笑んだ。
◇ ◇ ◇
一週間後。
王都内の会議室。
エリシアの元に、書類の束を抱えた、北部復興局の局長が現れた。
「思ったより集まりましたな」
局長が机に書類を広げながら呟いた。
全て、補佐官の職に応募してきた国民からの応募書類だ。
商人。
職人。
会計経験者。
退役した役人。
想定していた人数を大きく上回っていた。
「ええ、そうですね」
エリシアも書類に目を通す。
「もっと少ないかと思っていました」
「きっと、皆、国を良くしたいのでしょう」
「そうですね」
エリシアは、小さく微笑んだ。
実際には、名誉を求める者もいれば、
新しい仕事を求めるためだけの者もいるだろう。
動機はそれぞれであっても。
国を良くしていくための仕事に応募してきたことは、
まぎれもない事実だ。
書類を一枚手に取る。
そこには商人として二十年以上働いてきた男の経歴が記されていた。
別の書類には、農業のエキスパート。
他にも、会計担当として長く働いてきた人物。
貴族ではない。
だが経験は本物だとエリシアは感じた。
「まずはここからですね」
橋を架けることも。
街を復興することも。
国を変えることも。
最初は小さな一歩から始まる。
(皆様にも、良いご報告ができそうですね)
窓の外では朝日が王都を照らしていた。
その光は、いつもより少しだけ明るく見えた。




