第26話 王国についてお話ししましょう
午後十時。
【エリシア・アルヴェイン 配信開始】
:こんばんはー
:おつ王!
:わくわく
「皆様、こんばんは」
エリシアはいつものように一礼した。
「本日は、予定通り、私とアルヴェイン王国について
お話ししようと思います」
:きたー
:質問回!
:異世界勉強会!
コメント欄が勢いよく流れる。
エリシアは少し困ったように笑った。
「順番にお願いします」
:エリシア様って何歳?
「年齢はお答えしていませんでしたね」
エリシアは頷く。
「二十一歳です」
:若い!
:同い年だ
:王様なのに二十一!?
「父が亡くなってなければ、
もっと先になってたでしょうね」
意に介さないようにエリシアは答える。
:あーそうか……
:お父様……
:もっと年上かと思ってた
:落ち着いてるよね
「そうですか?」
本気で不思議そうだった。
陽太も少し意外に思った。
毎晩見ているせいか忘れそうになるが、
自分とほとんど変わらない年齢なのだ。
:魔法のこと聞きたかった
:そうそう!
:魔法って誰でも使えるの?
「皆様は、魔法は使えないんでしたよね」
:使えない
:概念がない
:うらやましい!
「大きな違いかもしれませんね。
ですが、誰でも、何でもというわけではありません」
:才能?
「はい、多少は。それに訓練も必要です」
:エリシア様は使える方?
「私はあまり得意な方ではありません」
首を横に振りながら答える。
:へー
:風魔法とか使えそう
:魔法得意そうに見える
「生活術式や、翻訳術式などは一通り扱えますが、
騎士団や魔法局の方々には到底及びません。
この配信に使ってる通信術式は、かなり得意です」
少しだけ、胸を張る。
:便利そう
:生活の一部なんだね
「もちろん万能ではありません。
できることにも限界があります」
:兄弟や姉妹は?
「年の離れた、異母の妹が一人います。
世継ぎは……アルヴェイン王国にとって、
大きな課題なのです」
少しだけ表情を引き締めて答えた。
:異母!
:日本の感覚でいると頭がバグる
:世襲か。そりゃそうか
:妹さんどんな人?
「元気な子です。
会うたびに城を走り回っていますよ」
エリシアが少し笑う。
「離宮暮らしで、普段は学校に通ってるので、あまり会う機会はありません。
まだ幼いですが、私より、よほど人懐っこいですね」
:へー
:一度会いたい!
:エリさまも人懐っこいよ
「私がですか?
あまり自覚はありません」
目を丸くして答える。
:休みの日は何してるの?
「休日ですか」
少し考える。
「読書でしょうか。
勉強もしてますね」
:知的
:王様っぽい
「あとは寝ています」
:普通だった
:安心した
:休める時に休まないと
:木登りは?
「木登りはもうしておりません」
即答にコメントが笑う。
:好きな男性のタイプ!
コメントが流れた瞬間。
エリシアが眉をひそめた。
「以前もお答えしましたよね」
:もう一回!
:忘れた
:新規です!
:復習大事
「復習なのでしょうか、それは」
小さくため息を吐く。
少し考えてから答えた。
「誠実な方です。
私の隣で、一緒に悩んでくださる方が良いですね」
:前と同じだ
「変わっておりませんので」
当然のように言う。
そして少しだけ考える。
「付け加えるなら、約束を守る方でしょうか」
:真面目だなぁ
:らしい
:王様っぽい
陽太は思い切ってキーボードを叩く。
一瞬迷って消しそうになったが、それでも打ち込む。
太陽:条件を満たす方、見つかると良いですね
エリシアが陽太のコメントを目に留め、動きが止まる。
:エリさまに並ぶのはハードル高そう
:確かに
「ふふ、そうでしょうか?
意外と、近くにいるかもしれませんよ」
少しだけ、意地の悪そうな顔で、
肯定とも否定とも取れない返事をした。
ほんの少しだけ、楽しそうに。
「……では、次は王国についてお話ししましょう」
エリシアが机の上に一枚の地図を広げる。
コメント欄が盛り上がる。
:地図きた!
:おおお
:すご
:見たことない形!
「皆様からも見えますでしょうか?
こちらがアルヴェイン王国です」
指先が地図をなぞる。
「人口はおよそ五万人」
:意外とコンパクト
「王都には、その半数近くが住んでいます」
:都会だ
:特産品は?
「羊毛ですね」
即答だった。
「それから染料です。
特に青色の染料は隣国でも人気があります」
:王国旗が青だっけ
:意外
:染料の原料も気になるー
「あと川魚も有名ですね」
:魚いるんだ
:そりゃいるだろ
:隣国ある?
「あります」
エリシアは地図を指差した。
「東にラグナ王国。
西にベルハルト公国があります」
:仲良い?
エリシアが少し苦笑した。
「難しい質問ですね」
コメント欄が笑う。
「戦争はしておりません」
:大人の回答だ
:察した
:王様って普段何してるの?
「会議が多いです」
:それ以外
「書類仕事です」
:夢がねぇ!
コメント欄が爆発した。
エリシアは首を傾げる。
「そんなものでしょう?」
:いや王様だぞ
:もっとこう……
「もっとこう、とは何でしょう」
:ドラゴン退治とか
「しません」
即答だった。
:勇者に、魔王を倒してこいと命令したり
「勇者も魔王もおりません。
どこの世界のお話なのでしょうか」
苦笑しながら答える。
コメント欄が穏やかに流れていく。
新しく来た人。
昔からいる人。
皆が思い思いに質問を投げていた。
:アルヴェイン王国の好きなところは?
ふと流れた質問。
エリシアは少しだけ考え込んだ。
コメント欄も静かになる。
「色々ありますが…」
続けて、
「人です」
短く答えた。
:おっ
:ほー
:良い人多そう
エリシアは外を見るように視線を向ける。
「はい、優しい方が多い国だと思います」
穏やかな声だった。
「困っている方を見捨てない方も多いです」
市場で出会った人々。
元気よく手を振ってくれた子どもたち。
復興現場で汗を流していた職人。
エリシアは少しだけ目を細めた。
「ですから」
少しだけ微笑む。
「私はこの国が好きです」
コメント欄がゆっくり流れる。
:良い国だな
:好きなんだな
:なんか分かる気がする
陽太もその言葉を見ながら思う。
だからこの人は頑張れるのだろう。
責任感だけじゃない。
本当にこの国が好きだから。
「そろそろお時間ですね。
本日もありがとうございました」
配信終了の時間。
エリシアは一礼する。
「また明日、お会いしましょう」
:おつ王!
:おつ王ー!
:またね!
「……おやすみなさい」
最後まで言わなかった。
だが少しだけ笑っていた。
画面が暗転する。
配信終了後。
陽太は椅子にもたれた。
二十一歳。
読書好き。
休日は寝る。
そんな普通の一面もある。
けれど一番印象に残ったのは最後の言葉。
『私はこの国が好きです』
たぶん、それが全てなのだろう。
だから会議もする。
書類にも埋もれる。
反発を受ける決断もする。
だって、国を良くしたいから。
「やっぱり、良い王様だよな」
小さく呟く。
明日の配信を楽しみにしながら、ノートパソコンの電源を落とした。




