第25話 変わらない姿
午後十時前。
陽太は日課のようにパソコンの前で待つ。
【エリシア・アルヴェイン 配信開始】
:こんばんはー
:おつ王!
:1000人おめでとう!
:突破したー!
配信開始直後から、コメント欄の様子がおかしかった。
「皆様、こんばんは」
いつものように一礼したエリシアが首を傾げる。
「……何かあったのですか?」
:登録者千人!
:超えたぞ!
:おめでとう!
:パチパチパチ
「千人?」
エリシアが目を瞬かせる。
:知らなかったのか
:本人が一番驚いてる
陽太も続く。
太陽:最初から見てたので、ちょっと不思議な感じです
「気づいていませんでした。
そんなに多くの人が見ているのですね……」
コメント欄が笑う。
「王都人口がおよそ五万人ですので……
五十分の一ほどでしょうか」
:王様基準w
:国民が1000人増えました
:王様にしかできない比較
コメント欄が盛り上がる。
「多いのですよね?」
:十分多い
:すごいよ
:おめでとう
「そうなのですね」
少し考えてから、頭を下げる。
「ありがとうございます」
素直な言葉だった。
「そういえば最近、初めてお見かけするお名前も増えましたね」
:新規です
:昼の王都配信から来た
:いえーい、王様見てるー?
:切り抜きで知った
「切り抜き?」
:名場面まとめ
:ガチ王集
「ガチ王集」
エリシアが眉をひそめて復唱する。
嫌な予感がしたらしい。
:木から降りられない王女
:虫苦手王
:おつ王敗北集
「なぜそうなるのですか」
コメント欄が爆発した。
◇ ◇ ◇
ひとしきり笑いが落ち着いた頃。
エリシアは改めてコメント欄を見る。
「やはり、先日の昼配信がきっかけなのでしょうか」
:多分それ
:刺激が強かった
:王都すごかった
:市場好き
:パンうまそうだった
「パンは美味しいですよ」
エリシアは頷いた。
「おすすめのお店もご紹介します」
:やった!
:ガチ王の異世界食レポ回!
さらにコメントが流れる。
:マリアさん人気だった
:また出てほしい
「マリアですか」
少し笑う。
「本人に伝えておきます」
その後も雑談は続いた。
市場の話。
橋の工事の話。
王都で人気の食べ物の話。
そして。
:そういえば
:エリシア様って何歳?
:王国ってどれぐらい大きいの?
:隣国ある?
:王様って休日あるの?
一気に質問が流れ始める。
エリシアは少し驚いた顔をした。
「そんなに気になるのですか?」
:気になる
:意外と知らない
エリシアは考え込む。
確かに毎日話しているが、
自分自身のことはあまり話していない。
アルヴェイン王国についてもそうだ。
「なるほど」
ノートに何かを書き込む。
「新しく来られた方も多いようですし」
顔を上げた。
「次回は、改めて自己紹介と、
アルヴェイン王国についてお話ししましょうか」
:きたあああ
:王国紹介!
:楽しみ!
「期待しすぎないでください」
そう言いながらも、少し楽しそうだった。
配信終了後。
陽太は椅子にもたれた。
最初は本当に小さな配信だった。
深夜に偶然見つけた、視聴者もほとんどいない配信。
それが今では千人。
「すっかり大きくなったな」
思わず呟く。
千人になっても、 エリシアは最初に見た時と何も変わらない。
だから、不思議と遠くなった気はしない。
今夜もエリシアは、
賑やかなコメントに振り回されながら。
だからこそ。
毎日の配信が楽しみになる。
青い瞳の王様のことも。
まだ知らないアルヴェイン王国のことも。
もっと知りたいと思うのは、陽太にとって自然なことのように思えた。




