第24話 選んだ方を正解に
午後十時。
いつもの時間。
【エリシア・アルヴェイン 配信開始】
:こんばんはー
:おつ王!
:王都配信よかった
:橋見てきた!
「皆様、こんばんは」
エリシアは一礼する。
「先日の昼配信もありがとうございました」
:楽しかった
:市場また行きたい
:マリアさん元気?
「元気ですよ」
エリシアは微笑んだ。
「本日も一緒に視察へ行っておりました」
:仲良し
:マリアさん有能
「はい、とても助かっています」
少しだけ誇らしそうだった。
しばらくの雑談後、
エリシアがノートを開いた。
「本日は議会のお話です」
:来た
:政治の時間
:ガチ王回
「最後のは聞かなかったことにします」
即答だった。
コメント欄が笑う。
「本日は、人材登用について話し合っておりました」
:求人出す?
:面接だ
:有能な人集めよう
エリシアは少し困ったような顔をした。
「それが簡単ではないのです」
:なんで?
:能力高い人採ればよくない?
「能力は大切です」
エリシアは頷く。
「ですが、それだけでは決められません」
コメント欄が少し止まった。
エリシアは説明を続ける。
「例えば、
北部復興局の責任者を任命するとします」
:うん
「能力だけを見るなら、ある人が最適です」
:じゃあ決まりじゃん
エリシアは首を横に振る。
「その方を登用すると……
別の貴族家との均衡が崩れます」
:あー
:派閥か
:めんどくせぇ
「はい」
エリシアは真面目に頷いた。
「また、地方ごとの力関係もあります」
:ゲームみたいだな
:思ったより政治だった
「政治ですので」
即答だった。
再びコメント欄が笑う。
だが、エリシアの表情は真剣だった。
「優秀だから採用する。
それだけで済むのであれば、とても楽なのですが」
その声には少しだけ疲れが滲んでいた。
:理想と現実
:どこも一緒か
:胃が痛くなる話だ
太陽:適性が無い人を置くと住民が困りますよね
エリシアがそのコメントを見る。
少し黙った。
「そうなのです」
静かな声だった。
「だから難しいのです」
コメント欄も少し静かになる。
エリシアは続けた。
「能力だけを見れば反発が起きるかもしれません。
均衡だけを見れば住民が困るかもしれません」
小さく息を吐く。
「私は、どちらも守りたいのです」
:うわぁ
:正論
:王様大変だな
:正解ないじゃん
「はい、仰る通りです」
太陽:市民から登用することはないのですか?
「なるほど。民間からですか」
陽太のコメントを見つけて反応すると、
少し考えて。
「そうすると、
利権を失う貴族家からの反発が大きそうですね」
真剣な顔で答える。
:まあそうだよな
:なるほどね
:貴族めんどくせー
:くじ引きで決めようぜ!
エリシアは苦笑した。
「はい、ですので、正解はありません。
ただ、利権に絡まないところなら……
参考になる考え方です」
エリシアは、考え込み、
手元のノートにメモを取る。
それから、顔を上げて続けた。
「実は、今回は」
エリシアは少しだけ背筋を伸ばした。
「能力を重視した人事を行うことを決めた、
というご報告にもなります」
その言葉に重みがあった。
:おお
:反発大丈夫?
「大丈夫ではないと思います」
即答だった。
コメント欄が吹き出す。
:正直w
:草
「ですが」
エリシアは続ける。
「結果を出せば、納得していただける可能性があります」
その表情には迷いがなかった。
「ですので」
小さく頷く。
「説明を尽くし、思い切ってやってみようと思いました」
:エリさま強い
:いいじゃん
:頑張れ
:応援してる
コメント欄が流れる。
太陽:結果が出れば、反対していた人も納得するかもしれません
太陽:選んだ方を正解にすることができますね
エリシアは、なるほど、とつぶやき言葉を続ける。
「どちらが正解か、ではなく」
言葉を区切る。
「選んだ方を正解にする。
太陽様の仰る通りかもしれません」
エリシアも少しだけ肩の力が抜けたようだった。
「皆様のお話も参考になりました」
:いや、何もしてないぞ
:ただ聞いてただけ
:太陽さんが良いところ持ってった
「それでもです」
穏やかに笑う。
「私自身の考えを整理する助けになりました」
その言葉に、コメント欄も少しだけ温かくなる。
◇ ◇ ◇
配信終了後。
陽太は椅子にもたれた。
優秀な人を採用すれば終わり。
そんな単純な話ではなかったらしい。
家柄。
派閥。
貴族と一般市民。
地方との関係。
積み重なった歴史。
王様は、その全部を背負って決めなければならない。
「大変だな……」
思わずつぶやく。
だが同時に思う。
エリシアは逃げなかった。
正解のない問題からも。
反発が来ると分かっている決断からも。
今日の配信で見えたのは、
より王様らしくなったエリシアの姿だった。




