第23話 王都をご案内します(後編)
石畳の通りを歩きながら、エリシアは周囲を見渡す。
昼の王都は活気に満ちていた。
行き交う人々。
軒を連ねる店々。
荷車を引く商人たち。
どこからともなく漂ってくる焼きたてのパンの香り。
画面越しにも、その賑わいが伝わってくる。
:すげぇ
:思ったより栄えてる
:ちゃんと異世界だ
:感動する
「感動するのですか?」
:ずっと部屋だったし
:本当に世界があったんだなって
:正直疑ってた
エリシアは少しだけ首を傾げた。
「最初からありましたよ?」
:正論
:それはそう
:ぐうの音も出ない
コメント欄が笑いに包まれる。
「あっ、陛下!」
通りの向こうから声が飛んだ。
果物屋の主人が大きく手を振っている。
「こんにちは」
エリシアも笑顔で応じる。
「お店の調子はいかがですか?」
「おかげさまで!」
主人は胸を張った。
「最近は客足も戻ってきましてね!」
「それは良かったです」
心から安心したような表情だった。
:顔が柔らかいな
:本当に嬉しそう
:こういうの良い
主人は深々と頭を下げる。
「ありがとうございました、陛下」
エリシアは少し困ったように笑った。
「私は何も……」
「そんなことありませんよ」
主人は真っ直ぐ答えた。
「陛下が私たちのことを思ってくださるからです」
その言葉に。
コメント欄が少しだけ静かになった。
◇ ◇ ◇
市場は大勢の人で賑わっていた。
色鮮やかな、見たことのない果物や野菜。
:異世界飯だ!
:うまそう
:食べたい!
:腹減ってきた
「こちらは中央市場です」
エリシアが説明する。
「王都で最も大きな市場ですね」
:歩きなれてる
:王女様が市場詳しいのなんか好き
:ちゃんと国見てる感ある
そんな時。
「エリシアさまー!」
元気な声が響いた。
子供たちだった。
五、六人ほどの集団が駆け寄ってくる。
「こんにちは」
エリシアがしゃがんで目線を合わせる。
「こんにちは!」
「こんにちは!」
元気な返事が返ってくる。
:かわいい
:ほっこり
「学校は終わったのですか?」
「うん!」
「今日は半日!」
口々に話し始める子供たち。
コメント欄が流れる。
:学校あるのね
:慕われてるなあ
:王女というより近所のお姉さん
:距離感近くてよき
しばらく話した後。
「それではまた」
「ばいばーい!」
子供たちが駆けていく。
エリシアも手を振って見送った。
心からの笑顔だった。
◇ ◇ ◇
市場を抜けて、少し歩くと、景色が変わる。
新しい木材。
積まれた石材。
往来する荷車。
そして。
幅数百メートルはありそうな、大きな川の上に伸びる巨大な足場。
:おおお
:もしや?
:橋だ!
「はい、こちらが建設中の橋です」
エリシアが足を止めた。
画面の向こうで職人たちが忙しそうに働いている。
木槌の音。
飛び交う声。
現場の熱気が伝わってきた。
「皆様にご相談した、例の橋です」
少しだけ表情やわらぐ。
「現在、順調に工事が進んでいます」
:でかい工事だな
:まさに公共事業
:かなり本格的なやつ
:完成楽しみ
「まだ時間はかかりますが」
エリシアは足場を見上げた。
「きっと、人の往来も活発になるはずです」
職人の一人がこちらに気付いた。
「陛下!」
大声で手を振る。
「進捗はいかがですか?」
「順調ですよ!」
職人は笑った。
「完成したら驚きますよ!」
その自信に満ちた声に。
コメント欄も盛り上がる。
:これは期待
:楽しみ~!
エリシアが小さく頷く。
「そうですね」
太陽:完成したらまた見せてください
エリシアが陽太のコメントを見つけた。
「はい」
優しく微笑む。
「その時は皆様にもご報告します」
:おおお
:約束だぞ
:楽しみ増えた
未来の話に、
コメント欄の空気が少し明るくなった。
◇ ◇ ◇
最後に訪れたのは高台。
王都を一望できる場所。
風が吹く。
眼下には街並みが広がっていた。
市場。
住宅街。
遠くの工事現場。
そして建設途中の橋。
:綺麗だな
:良い景色
:異世界やばい
:行きたい
:すげぇ
エリシアはしばらく街を眺めていた。
「まだ終わってはいません」
静かな声。
コメント欄も自然と落ち着く。
「発展も、復興も、
まだまだこれからです」
遠くの橋へ目を向ける。
「それでも」
風が髪を揺らした。
「最近は、少しずつ前へ進めていると思います」
コメントが流れる。
:頑張れ
:応援してる
:感動して泣きそう
その中に、陽太のコメントがあった。
太陽:もっと良い街になりますね
その文字を見つけると、エリシアの肩から少しだけ力が抜けた。
画面越しに届けられたその言葉は、
王として背負う責任の重さを、
ほんの少しだけ軽くしてくれた気がした。
エリシアが微笑む。
「はい」
穏やかな声だった。
「私もそう思います」
画面いっぱいに広がる王都を見つめながら、陽太は思う。
未完成の橋も。
復興途中の街も。
全部含めて、この国は確かに前へ進んでいる。
そして、その歩みを、
自分も一緒に見届けているのだと。




