第22話 王都をご案内します(前編)
「皆様にお知らせがあります」
いつもの夜。
いつもの配信。
突然の言葉に、コメント欄がざわつく。
:なんだなんだ
:改まってどうした
:重大発表か
:もしかして婚約!?
「違います」
即答だった。
:はやい
:食い気味w
:草
エリシアは小さくため息をついた。
「皆様は、どうしてそう極端なのですか」
:ネットだから
:面白いし
:異世界にネットは早かったか
コメント欄を眺めながら、エリシアは少しだけ口元を緩める。
最近はこうした軽いやり取りにも慣れてきた。
配信しはじめた頃なら、コメントの速さに追いつくだけで精一杯だったのに。
「突然ですが、
近日中に、昼配信を行おうと思います」
一瞬。
コメント欄が止まった。
そして次の瞬間。
:昼!?
:マジか
:昼配信!?
:初では?
:何するんだろ
一気に流れ始める。
「はい、初めてになりますね」
:うぉー!
:なんか新鮮
:仕事休むわ!
「このために休まないでください」
:怒られた
:正論
:草
エリシアは咳払いを一つした。
「皆様、よく外の様子も見てみたいと
仰ってますよね」
:まあなー
:王都見たいって言った
:まだ、その配信部屋がセット説を信じてる
「近いうちに復興区域の視察がありますので、
その際に、王都の一部をご覧いただこうかと」
コメント欄が更に加速する
:異世界の町並み?
:やば
:ワクワクする!!
:めっちゃみたい
:異世界観光だ!
「視察です。
観光ではありません」
:また怒られたw
:エリさま真面目
:超楽しみ!
太陽:きっと素敵な街並みなのでしょうね
「はい、それはもうとっても」
エリシアは少し考えてから付け加えた。
「皆様のおかげで進んだ、
復興の様子もお見せしたいのです」
その言葉に、コメント欄が少しだけ静かになる。
:エリさま直々の紹介!
:見たいな
:どんな感じになったんだろ
:楽しみにしてる
エリシアは小さく頷いた。
「では、そろそろお時間ですね」
:早い
:もう終わりか
:おつ王
:おつ王ー
:おつ王
流れ始めるお決まりの挨拶。
エリシアは困ったような顔をしながらも、
以前ほど強く否定しなくなっていた。
「……それでは」
ほんの少しだけ間を置いて。
「お、おつ王です」
コメント欄が爆発した。
:言ったあああああ
:公式きた!
:ガチ王
「もう!
おやすみなさい!」
慌てたように配信が終了する。
最後に映った耳が少し赤かった気がした。
◇ ◇ ◇
三日後。
昼。
配信開始の通知が届いた。
陽太は講義の空き時間だったことに心から感謝した。
大学の中庭、木のベンチに腰掛け、急いでイヤホンを耳に押し込む。
:始まった
:きた!
:昼配信だ
:正座で待機
画面が映る。
陽太は思わず目を見開いた。
そこに映っていたのは……
透き通るような青空だった!
:うおおおおお
:空だ
:外だああああ
:本当に外だ
風の音。
人々のガヤガヤとした話し声。
どこか遠くから聞こえる鐘の音。
今までの静かな配信室とは全く違う空気が、
画面越しに伝わってくる。
スマホの画面から溢れ出す、異世界の賑やかさ。
今、自分がいる静かなキャンパスの風景を、
一瞬で遠くへ追いやるような光景が広がる。
「こんにちは、皆様」
聞き慣れた声。
画面が少し下がる。
白いワンピースの上から、群青色の、軽そうな外套を羽織ったエリシアがいた。
そしてその隣には。
:マリアさんだ!
:こんちゃー
:マリアさーん!
:本物だ
:マリアさんかわいい
マリアが小さく会釈する。
「皆様、本日はよろしくお願いいたします」
:礼儀正しい
:好きだわ
:マリアさん大人気で草
「石板は私が持ちますので、
陛下は視察に集中してください」
「ありがとう」
どうやら配信用の携帯石板はマリアが担当らしい。
画面が安定している理由も納得だった。
「魔力は保つと思いますが、もし途中で切れてしまったら申し訳ありません。
それでは――」
エリシアが振り返りながら言う。
その向こうには広い石畳の通りが続いていた。
「王都をご案内します」
コメント欄が歓声で埋まった。
「はは……マジかよ、すげぇな」
陽太も思わず笑みがこぼれる。
王城の一室から始まった小さな配信。
それが、自分たちを、
異世界の街へと連れ出していた。




