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第21話 マリア

 午後十時。


【エリシア・アルヴェイン 配信開始】


:こんばんはー

:おつ王!

:おつ王~


「皆様、こんばんは」


 エリシアは、おつ王の文字に目をやりながらも、

 何事も無かったかのように、いつものように頭を下げた。


「さて、皆様、

 マリアのことは覚えていらっしゃいますか?」


 コメント欄が反応する。


:覚えてる

:友達第一号

:お菓子好き

:侍女さん


 エリシアは嬉しそうに頷いた。


「良かったです。

 実は少し前に……皆様のお話をしたのです」


:お?

:何を言ったんだ

:気になる


「私をいつも助けてくださっている方々がいる、と」


 コメント欄が少し静かになる。

 エリシアは続けた。


「するとマリアが、一度、みなさまにお礼を申し上げたいと言いまして」


:ふぁっ

:マリアさん!?

:え?ご本人登場?


 コメント欄が一気に流れる。


「皆様のその反応、マリアにも見せてあげたいですね」


 頬を緩めて答える。


 「……では、マリア、入ってください」

 

 エリシアは、部屋の扉へ視線を向けた。


 そして。


 画面の向こう、遠いところから声がした。


「■■■■■■■■」

「はい、こちらへどうぞ」


 コメント欄がざわついた。


:ノイズ???

:聞き取れない

:マリアさん、何て言った?


 エリシアが目を瞬かせる。


「■■■■」


 画面外から再び聞きなれない音がする。


:わからん

:異世界語?

:初日こんなんじゃなかった?

:へー、流石古参


「ああ、そうでした」


 エリシアは両手を握る。


「翻訳術式を掛けておりませんでした。

 少々お待ちください」


 マリアがいる方向に向くと、

 エリシアが、拳を軽く自らの額に当てる。


「■■■■■」


 エリシアが何かをつぶやくと、

 ふわりと光が広がっていく。


「これで大丈夫です」


 コメント欄が一気に加速する。


:やば!

:なにそれ!!

:本物!?

:すご

:ガチの魔法?

:そういう設定だったな


 マリアが画面の中へ入ってきた。


 栗色のショートボブ。

 切れ長の目をした、エリシアと同世代ぐらいの顔立ち。

 フリルのついた、黒基調のメイド服姿だった。


「私の言葉、わかりますでしょうか?」


:わかる!

:成功!

:マリアさんだー!

:かわいい!

:リアルメイド服!?


 マリアは少し驚いたように画面を見た。


 正確には、画面の向こう。

 マリアの声に反応して、流れ続ける文字列を。


 それらを見て、しばらく固まる。


「マリア、読める?

 マリアの声に、異世界の皆様が反応してくれているの」

「これが……」


 マリアは、目を丸くして、言葉が詰まる。


:反応かわいい

:そりゃそうだよね

:マリアさーん

:やっほー、見えるー?


 マリアは瞬きを繰り返した。


「この文字を送ってくださってるのが……皆様なのですか?」

「そうですよ」


 エリシアは当然のように答える。


「私がいつもお話ししている方々です」


 マリアはエリシアと画面を交互に見つめる。

 改めて、小さく息を呑んだ。


「本当にいらっしゃるのですね……」


:いるぞー

:こんばんは

:初めまして!


 コメントが流れる。

 マリアは少し緊張した様子で姿勢を正した。


「失礼いたしました。

 初めまして、マリアと申します」


 深々と頭を下げる。


「いつも陛下がお世話になっております」


:こちらこそ

:よろしく!

:お世話になってます

:よろー


 返事が返ってくる。

 それが少し不思議だったのだろう。


「あの、私は詳しいことは分かりません。

 ですが……」


 一度エリシアを見る。


「陛下が皆様のお話をされていることは、よく知っています」

 

 エリシアが首を傾げた。


「そうでしたか?」

「そうでした」


 即答だった。

 コメント欄が笑う。


:即答w

:バレてる


 マリアは続けた。


「悩まれている日も。

 落ち込まれている日も。

 皆様とお話をされた後は、少し元気になられておりました」


 エリシアは少し照れたように視線を逸らした。


「そうかしら」

「そうです」


 また即答だった。


:強い

:断言された


 マリアは少し笑う。

 改めて姿勢を正した。


「いつも陛下を支えてくださり、ありがとうございます」


 再び、深く頭を下げる。

 コメント欄の流れが少しだけ穏やかになる。


:応援してる

:復興も頑張って

:エリさまをよろしくー


 マリアは小さく微笑む。


「エリさま。ふふ、良い呼び名ですね」


陽太も続く。


太陽:エリシア様と話せる時間が毎日楽しみです

太陽:こちらこそ、元気をもらっています


 マリアは一つ一つ丁寧に目を通す。


 『太陽』の文字を見つけると、ふっと悪戯っぽく目を細めた。

 隣のエリシアを小突くように見る。

 

「陛下

、この方が例の『太陽様』ですか?」

「マリア!余計なことは言わなくていいの!」


:太陽さん、マリアさんにも知られてる

:古参いいなー

:エリさまかわいい!

:ガチ王照れてる


 エリシアが慌ててマリアの口を両手で塞ごうとし、

 画面の向こうでわちゃわちゃと二人がもつれ合う。


 マリアが、見慣れぬ呼び方を見つけ、手を止める。


「ガチ王?」


:ガチの王様なのでガチ王です

:エリさまよりはガチ王を流行らせたい


「それでガチ王ですか。なるほど」

「もう!それは本当にやめて!

 マリアもよ。次呼んだら絶交だから!」


 エリシアが耳を真っ赤にしながら怒る。


:マリアさんと話す時は口調変わるのな

:意外な一面

:友達だなー


「言葉が過ぎました」


 マリアがわざとらしく咳払いをして、話題を切り替える。


「ここにいらっしゃる皆様、

 優しい方々ばかりですね」


 エリシアも、少しだけ誇らしそうに笑った。


「でしょう?」


 コメント欄が一気に流れる。


:ドヤ顔の王様

:自慢してるw

:かわいい


「自慢ではありません」


 否定する。

 だが、少しだけ嬉しそうだった。


 しばらくの雑談後、

 マリアは仕事があると言い残し、退室。


 最後まで少し緊張した様子だったが、

 部屋を出る頃には表情も柔らかくなっていた。



 配信終了。


 陽太は椅子にもたれる。


 マリアは、思っていたより普通の人だった。

 

 真面目で、エリシアのことをとても大切に思っている。

 それも伝わってきた。


 何より、

『皆様とお話をされた後は、少し元気になられていました』

 という言葉が印象的だった。


 自分達は画面の向こうにいて、

 コメントをしているだけだ。


 それでも。

 少しくらいは力になれていたのかもしれない。


 そう思うと、悪い気はしなかった。


 そして改めて思う。

 

 エリシアは、本当に異世界にいるのかもしれない。

 

 少なくとも、画面の向こうには、自分の知らない

 『本物』がある。

 自分たちの言葉は、確かにあちら側へ届いていた。

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