第20話 お叱りを受けました
午後十時。
【エリシア・アルヴェイン 配信開始】
:こんばんはー
:エリシアさま!
:ガチ王!
「ガチ王は禁止です」
開幕から即答だった。
:無理です
:定着しました
コメント欄が笑う。
エリシアは小さくため息を吐いた。
「本日は、皆様にご相談があります」
:お?
:珍しく真面目そう
:いつも真面目だろ
エリシアは苦笑した。
「それもそうですね」
そして机の上の資料へ目を落とす。
「北部地域の復興についてです」
コメント欄の空気が少し変わる。
「配信を休ませていただいた日、川の氾濫が起きました。
現在、被災地域の復興支援を続けています」
陽太も姿勢を正した。
「住居を失った方々のため、
私は住宅再建を最優先に進めるよう指示しました」
:うん
:大事だね
「ですが」
そこで言葉を切る。
「上手くいっておりません」
コメント欄が静かになった。
エリシアは続ける。
「橋や街道が損傷していたため、
資材そのものが十分に届いておらず」
:あー
:なるほど
:物流か
エリシアは頷く。
「はい。仮設住居を建てる計画はどんどん先に進んだのですが……
実際の作業はほとんど進んでおりません」
悔しそうだった。
「私は住む場所が最優先だと考えました」
少し俯く。
「ですが、先に橋や街道を復旧すべきでした。
困っている住民の声が日々大きくなり、
国王は一体何をやってるのかとお叱りを受けました」
コメント欄が流れる。
:難しいな
:結果論では?
:どっちも大事
:他にできることは?
陽太もそう思った。
実際、住むところは必要だ。
間違った判断だったと言い切れるほど単純な話ではない。
それでも、エリシア自身は納得していないようだった。
「もっと良い方法があったはずなのです」
その声は少しだけ沈んでいた。
そして、資料を見つめたまま、しばらく黙り込んでしまう。
コメント欄には様々な意見が流れた。
:仕事でもある
:優先順位ミスるやつ
:後から気付くんだよな
:ボトルネック見つけないとな
陽太もキーボードに手を置いた。
太陽:間違えたなら軌道修正すればいいだけですよ
エリシアがコメントを見る。
少し困ったように、苦笑いを浮かべた。
「既に指示を出してしまいました」
王としての責任。
そう言いたいのだろう。
太陽:だからこそです
太陽:人は皆、間違います
太陽:間違いを認めないまま進める方が大変になります
コメント欄も続いた。
:それはそう
:撤回は恥じゃない
:むしろ早い方がいいよね
エリシアは黙った。
しばらく考え込む。
そして小さく息を吐いた。
「そうですね」
静かな声だった。
「私は、指示を変えることを失敗だと思っていたのかもしれません」
コメント欄が少し止まる。
エリシアは顔を上げる。
「間違いを認めない方が、もっと大きな失敗ですね」
:おお
:そうそう
:ガチ王覚醒
「覚醒はしておりません」
即座に反応した。
コメント欄が笑う。
だが、エリシア自身も少し笑っていた。
「明日、復興計画を修正します」
迷いのない声だった。
「まず街道を優先します。
でも、その前に、もう一度現場で話を聞きます」
資料に目を落とす。
「遠回りに見えるかもしれませんが、
その方が結果的に早いでしょう」
太陽:他の選択肢も見つかるかもしれませんね
「他の選択肢……」
エリシアは、少し考え込む。
「太陽様の仰るとおりかもしれません。
避難所の拡充、他地域からの支援……」
:頑張れ
:応援してる
:ファイト
エリシアは頷いた。
「ありがとうございます。
少し、光が見えてきました」
表情を和らげる。
「正直なところ……失敗のお話をするのは、
少し勇気が必要でした」
真っ直ぐな言葉だった。
「王ですので」
:王でも失敗する
:人間だからな
:よくやってると思うよ
:むしろ安心した
コメント欄が流れる。
エリシアはその言葉を読んで、小さく笑った。
「そうですね」
少しだけ肩の力が抜けたようだった。
「私も人間です」
その言葉に、陽太は先日の深夜配信を思い出した。
疲れた顔。
乱れた髪。
それでも少しだけ配信を繋いだ、青い瞳の王様。
立派で、真面目で。
でも完璧ではない。
だからこそ応援したくなるのかもしれない。
配信終了の時間が近付く。
「本日もありがとうございました」
エリシアは一礼した。
「明日から、もう一度頑張ります」
:おう
:みんな応援してる
:無理すんなよ
太陽:辛くなったら、いつでも話をしてください
「はい」
少し笑う。
「それでは、おやすみなさい」
:おつ王!
:おつ王!
コメント欄が流れる。
エリシアは一瞬だけ目を閉じた。
諦めたらしい。
「……おつ王、です」
コメント欄が爆発する。
画面が暗転した。
静かになった部屋で、陽太は椅子にもたれた。
失敗しない人間なんていない。
大事なのは、その後だ。
今日のエリシアは失敗を隠さなかった。
言い訳もしなかった。
そして、自分で修正すると決めた。
「やっぱりすごいな」
小さく呟く。
王様だからじゃない。
間違いを認めて前に進める人だから。
この人を推したい。
放っておけない。
そう思うのは、きっと自然なことなのだろう。




