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20/22

第20話 お叱りを受けました

 午後十時。


【エリシア・アルヴェイン 配信開始】


:こんばんはー

:エリシアさま!

:ガチ王!


「ガチ王は禁止です」

 開幕から即答だった。


:無理です

:定着しました


 コメント欄が笑う。


 エリシアは小さくため息を吐いた。


「本日は、皆様にご相談があります」


:お?

:珍しく真面目そう

:いつも真面目だろ


 エリシアは苦笑した。


「それもそうですね」


 そして机の上の資料へ目を落とす。


「北部地域の復興についてです」


 コメント欄の空気が少し変わる。


「配信を休ませていただいた日、川の氾濫が起きました。

 現在、被災地域の復興支援を続けています」


 陽太も姿勢を正した。


「住居を失った方々のため、

 私は住宅再建を最優先に進めるよう指示しました」


:うん

:大事だね


「ですが」


 そこで言葉を切る。


「上手くいっておりません」


 コメント欄が静かになった。


 エリシアは続ける。


「橋や街道が損傷していたため、

 資材そのものが十分に届いておらず」


:あー

:なるほど

:物流か


 エリシアは頷く。


「はい。仮設住居を建てる計画はどんどん先に進んだのですが……

 実際の作業はほとんど進んでおりません」


 悔しそうだった。


「私は住む場所が最優先だと考えました」


 少し俯く。


「ですが、先に橋や街道を復旧すべきでした。

 困っている住民の声が日々大きくなり、

 国王は一体何をやってるのかとお叱りを受けました」


 コメント欄が流れる。


:難しいな

:結果論では?

:どっちも大事

:他にできることは?


 陽太もそう思った。

 実際、住むところは必要だ。


 間違った判断だったと言い切れるほど単純な話ではない。

 それでも、エリシア自身は納得していないようだった。


「もっと良い方法があったはずなのです」


 その声は少しだけ沈んでいた。

 そして、資料を見つめたまま、しばらく黙り込んでしまう。


 コメント欄には様々な意見が流れた。


:仕事でもある

:優先順位ミスるやつ

:後から気付くんだよな

:ボトルネック見つけないとな


 陽太もキーボードに手を置いた。


太陽:間違えたなら軌道修正すればいいだけですよ


 エリシアがコメントを見る。

 少し困ったように、苦笑いを浮かべた。


「既に指示を出してしまいました」


 王としての責任。

 そう言いたいのだろう。


太陽:だからこそです

太陽:人は皆、間違います

太陽:間違いを認めないまま進める方が大変になります


 コメント欄も続いた。


:それはそう

:撤回は恥じゃない

:むしろ早い方がいいよね


 エリシアは黙った。


 しばらく考え込む。

 そして小さく息を吐いた。


「そうですね」


 静かな声だった。


「私は、指示を変えることを失敗だと思っていたのかもしれません」


 コメント欄が少し止まる。


 エリシアは顔を上げる。


「間違いを認めない方が、もっと大きな失敗ですね」


:おお

:そうそう

:ガチ王覚醒


「覚醒はしておりません」


 即座に反応した。

 コメント欄が笑う。

 だが、エリシア自身も少し笑っていた。


「明日、復興計画を修正します」


 迷いのない声だった。


「まず街道を優先します。

 でも、その前に、もう一度現場で話を聞きます」


 資料に目を落とす。


「遠回りに見えるかもしれませんが、

 その方が結果的に早いでしょう」


太陽:他の選択肢も見つかるかもしれませんね


「他の選択肢……」


 エリシアは、少し考え込む。


「太陽様の仰るとおりかもしれません。

 避難所の拡充、他地域からの支援……」


:頑張れ

:応援してる

:ファイト


 エリシアは頷いた。


「ありがとうございます。

 少し、光が見えてきました」


 表情を和らげる。


「正直なところ……失敗のお話をするのは、

 少し勇気が必要でした」


 真っ直ぐな言葉だった。


「王ですので」


:王でも失敗する

:人間だからな

:よくやってると思うよ

:むしろ安心した


 コメント欄が流れる。

 エリシアはその言葉を読んで、小さく笑った。


「そうですね」


 少しだけ肩の力が抜けたようだった。


「私も人間です」


 その言葉に、陽太は先日の深夜配信を思い出した。


 疲れた顔。

 乱れた髪。


 それでも少しだけ配信を繋いだ、青い瞳の王様。


 立派で、真面目で。

 でも完璧ではない。


 だからこそ応援したくなるのかもしれない。



 配信終了の時間が近付く。


「本日もありがとうございました」


 エリシアは一礼した。


「明日から、もう一度頑張ります」


:おう

:みんな応援してる

:無理すんなよ


太陽:辛くなったら、いつでも話をしてください


「はい」

 少し笑う。


「それでは、おやすみなさい」


:おつ王!

:おつ王!


 コメント欄が流れる。


 エリシアは一瞬だけ目を閉じた。

 諦めたらしい。


「……おつ王、です」


 コメント欄が爆発する。


 画面が暗転した。


 静かになった部屋で、陽太は椅子にもたれた。


 失敗しない人間なんていない。

 大事なのは、その後だ。


 今日のエリシアは失敗を隠さなかった。

 言い訳もしなかった。

 そして、自分で修正すると決めた。


「やっぱりすごいな」


 小さく呟く。


 王様だからじゃない。

 間違いを認めて前に進める人だから。


 この人を推したい。

 放っておけない。


 そう思うのは、きっと自然なことなのだろう。

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