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17/19

第17話 王様にも子供の頃はあった

 昨夜の深夜配信は、まるで夢のような時間だった。


 午前二時過ぎの、たった十五分。

 視聴者もほとんどいなかった。


(エリシア様、ちゃんと寝れたのかな……)


 陽太は今日も動画サイトを開く。

 午後十時。


【エリシア・アルヴェイン 配信開始】


:こんばんはー

:おつ王!

:キタ!

:昨日は結局無し?


 コメント欄が流れる。

 エリシアは少し困ったように笑った。


「皆様、こんばんは」


 そして。


「昨日はご心配をお掛けしました。

 立て込んでおりました」


 深々と頭を下げる。


:無事ならよかった

:いやいや、謝ることじゃないし

:大丈夫だった?


「はい」


 エリシアは頷く。


「本当の嵐が来まして。

 おかげさまで、少しだけ落ち着きました」


 コメント欄も安堵したようだった。


 エリシアがノートを開き、顎に指を当てる。


「本日は、何をお話いたしましょうか」


:根詰めない方が良いんじゃない?

:気分転換しようぜ

:雑談回!

:質問回?


 エリシアがゆっくりと微笑む。


「ありがとうございます。

 では皆様の日常を知るために、お聞きしてみたいことが」


:お?

:なんでもこい


「皆様は、子供の頃は何をして遊んでいたのですか?」


 コメント欄が一瞬止まる。


:急だな

:ゲーム

:鬼ごっこ

:近所の探検とか


 次々と流れ始めた。

 エリシアは目を輝かせる。


「鬼ごっこ?」


:まあ定番

:鬼にタッチされたら交代

:全国共通


 エリシアは首を傾げた。


「皆様の周囲にも、鬼と呼ばれる魔物がいるのですね」


 コメント欄が止まった。


:ん?

:魔物?

:どゆこと?

:待て待て待て


「鬼と呼ばれる魔物から逃げる遊びなのでしょう?」


:え?

:いるの?

:解釈が強い


 エリシアは真面目に頷く。


「危険ではないのですか?」


:危険じゃない

:人間だよ

:鬼役も人間


「なるほど、理解できました。

 実際に鬼に襲われた時の訓練を、幼少期からされているのですね」


 メモを取る。


:いやいやw

:鬼はいないよ

:空想上の存在

:ごっこ遊び。概念?


 エリシアが少しだけ驚いた表情を見せ、コメントを追う。


「鬼は……いないのですね。

 皆様が、日常的に魔物に追い回されているのかと思いました」


 エリシアは少し安心したようだった。


「良かったです」


:異世界目線だとそうなるのか

:異世界ギャップ

:心配してくれてた

:エリさまの世界にはいるの?


「はい、人里付近で見かけることはありませんが、

 山間部に行けば、魔物の集落があったりします」


:こわ

:マジか

:鬼は異世界から来た説?


「ですので、私たちは、魔物への備えも重要になります。

 それを、遊びの形で学べるのは面白いですね」


 エリシアは真面目な表情でノートにメモをした。


 その後も、コメント欄が和やかに流れる。


太陽:あとは、虫取りとかですね


「虫を捕まえるのですか?」


 エリシアが陽太のコメントを見つけ、反応した。


:セミ

:バッタ


 コメントが流れる。

 エリシアはしばらく考え込んだ。


「皆様は勇敢なのですね」


:そこ?

:虫苦手勢発見


 コメント欄が盛り上がる。

 エリシアは少し視線を逸らした。


「……私は苦手です」


:知ってた

:マリアさん案件

:マリアさん、虫が出ましたわよ


 コメント欄が笑いに包まれる。


「そんな言い方はしません!」


 少し不満そうだったが、

 その表情は年相応のものだった。


「それに、マリアも虫は苦手です」


 きっぱりと。


:草

:オワタw

:詰んでんじゃんwww


 コメント欄が加速していく。


:エリさまはどんなことして遊んでた?

:王様の子供時代!

:聞きたい!


 エリシアは少し考える。


「そうですね……」


 視線が遠くなる。


「木登りでしょうか」


:え?

:意外


「城の中庭に、大きな木がありまして」


 少しだけ恥ずかしそうに続ける。


「登って降りられなくなりました」


 コメント欄が爆発した。


:マリアさん助けてあげてー

:王様www

:かわいい

:ガチ王にもそんな時代が


 エリシアは耳を赤くする。


「当時は王ではありません」


:そこじゃないw


 さらに笑いが広がる。


「あと、池に落ちたこともあります」


:意外と……?

:墓穴を掘っていくスタイル

:おてんば姫だった


 エリシアは小さく咳払いする。


「……この話は終わりです」


:逃げたw

:王様かわいい


 コメント欄が流れる。

 陽太も思わず笑った。


 いつもは国政の話をしている人だ。


 橋。

 税。

 治水。


 そんな話ばかり聞いている。


 だからこそ、木に登って怒られたり、池に落ちたり。

 そんな話が妙に新鮮だった。


「皆様も、色々な子供時代を過ごされたのですね」


 エリシアが呟く。


「少し羨ましいです」


:王族だと違うの?

:遊べなかった?


 コメントが流れる。

 エリシアは首を横に振った。


「いいえ」


 そして少し笑う。


「楽しかったですよ。

 ただ、皆様のお話は私の知らないことばかりですので」


 その声は柔らかかった。


「聞いていて楽しくもあり、

 羨ましくもあるのです」


 コメント欄も穏やかになる。


 誰かの昔話。

 子供の頃の失敗談。

 秘密基地の話。


 配信はそのまま雑談会になっていった。


 気付けば終了の時間。


「本日もありがとうございました」


 エリシアは一礼する。


「皆様のお話、とても面白かったです。

 気持ちもスッキリして、疲れも取れました」


:またやろう

:良かった!

:雑談回好き


「はい」

 少し笑う。


「それでは、失礼いたします」

 

 画面が暗転した。


 静かになった部屋で、陽太は椅子にもたれる。

 

 こういう普通の夜も悪くない。

 王様も、ただの一人の女の子で、子供の頃があった。

 当たり前のことなのに、少しだけ不思議だった。


 木に登って降りられなくなった小さな王女の姿を想像して、見てみたかったなと思った。

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