第13話 友達ができました
この日、講義を終えた陽太は、
学食で友人達と昼食を取っていた。
「なあ陽太、最近帰るの早くない?」
向かいに座る友人が言う。
「そうか?」
「そうだよ。前はもっとダラダラしてたじゃん」
言われてみればそうかもしれない。
午後十時からの配信。
その時間を意識するようになってから、生活のリズムが変わった。
「まあ、色々あるんだよ」
曖昧に答える。
「彼女?」
「違う」
即答した自分に悲しくなった。
友人達が笑う。
陽太も苦笑するしかなかった。
午後十時。
【エリシア・アルヴェイン 配信開始】
:時間ぴったり
:エリさま、ちっす
:ばわー
いつもの光景。
エリシアは一礼した。
「皆様、こんばんは」
今日は少しだけ様子が違う。
どこか落ち着きなくソワソワして、
嬉しそうだった。
「本日は、ご報告があります」
:お?
:なんだなんだ
:もう橋できた?
エリシアは首を振る。
「計画中ですが、まだこれからです」
:ですよね
:前進してそう
:工期長そう
コメント欄が笑う。
陽太:橋、進んでるみたいで安心しました
エリシアは、はにかみながら笑った。
「ありがとうございます。
本日は別のお話です」
少しだけ言いにくそうに視線を逸らす。
「……私、友達ができたかもしれません」
コメント欄が止まった。
:え?
:お?
:おおおお!?
エリシアは慌てる。
「かもしれません、です」
:詳しく!
コメントが一気に流れる。
エリシアはノートを開いた。
「先日、皆様に友達について教えていただきました」
そして指でなぞる。
『理由がなくても話したくなる相手』
陽太は、誰にも見られていないのに、少しだけ姿勢を正す。
以前、自分が書いたコメントだ。
「それで考えていたのですが」
少し照れたように続ける。
「最近、侍女のマリアと、仕事以外のお話をすることが増えまして」
:おお
:マリアさんっていうのか
:マリアさんー!
「昨日も、お茶の時間に一時間ほど話してしまいました」
:長い
:めっちゃ話してるじゃん
「内容は特にありません」
エリシアは首を傾げた。
「好きな食べ物や、幼い頃のお話です」
:それ友達だよ
:完全に友達
:おめでとう
コメント欄が盛り上がる。
エリシアは困惑していた。
「そうなのですか?」
:そうです
:認定します
「ですが、マリアは侍女です」
:仕事仲間でも友達にはなる
:両立する
エリシアは考え込む。
「なるほど……」
そして小さく微笑んだ。
「では、友達かもしれませんね」
その笑顔は本当に嬉しそうだった。
陽太も思わず笑う。
世の中にはもっと劇的な友達の作り方もある。
けれど。
この人には、こういう小さな一歩が似合う気がした。
配信はその後も続く。
気付けば、話題は何度もマリアのことへ戻っていた。
マリアが、甘いもの好きなこと。
マリアが、実は足が速いこと。
マリアが、虫が苦手なこと。
エリシアは楽しそうに話していた。
良い意味で王様らしくない、
年相応の女の子の姿だった。
配信終了の時間。
「本日もありがとうございました」
エリシアは一礼する。
少しだけ考えた後。
「皆様のおかげです」
そう言った。
「友達について教えていただかなければ、
私は気付かなかったと思います」
:マリアさん大事にしろよー
:友達第一号だ
:パチパチ
コメント欄が流れる。
エリシアは少し照れながら笑った。
「はい。それでは」
その返事は短かったけれど、
とても嬉しそうだった。
画面が暗転する。
「友達第一号、か」
陽太は小さく呟く。
王様なのに。
国を背負っているのに。
そんな人が、友達が一人できたことを喜んでいる。
変な気もするけれど、
なぜだか、自分のことのように嬉しかった。
窓の外を見る。
明日も講義がある。
バイトもある。
面倒なことは、毎日たくさんある。
それでも。
午後十時になれば、きっとまたここに来る。
友達ができたと、嬉しそうに笑う王様を見るために。




