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「………え?終わり?」
「なんだったんだ?こいつは……」
あまりの弱さに山賊たちすら戸惑うほどだ。護衛を失い、残った戦力は私とイヴだけになった。
「まあ楽な仕事だったのはよかったが……お嬢ちゃんたち、ツイてなかったな。金をケチらずに優秀な仲間を連れていれば俺たちに襲われなかったものを」
イヴの閃きは大外れだ。イヴには特別な力があると期待していた両親や王国の人たちも大外れだ。
「あれれ……困ったなぁ」
そのイヴは事態が深刻であることがわかっていないのか、困ったと言いながらも余裕がある。恐怖のあまり取り乱すよりはましだ。
ところがイヴが落ち着いている理由は別のところにあった。それが私を更に動揺させることになる。
「まあいいや。この人が負けたところでおねぇちゃんがいればどうにかなるよね」
「………え?私?」
「おねぇちゃんは最強だからね。こんな屑の集まり、一人で全滅させられる。人間として格が違うよ」
山賊たちにも聞こえるような大きな声で話すと、イヴは笑う。当然山賊たちの怒りを買った。
「こ、このガキ……殺されたいか!」
「死ぬより悲惨な目に遭わせてやるぞ!」
刃物や棍棒を持った男たちが距離を詰めてくる。このままでは………そう思ったところで彼らを止めてくれたのは、意外な人物だった。
「ハハハ……俺たちもナメられたものだな」
「か、頭!どうします、こいつら三人!」
笑顔で仲間たちを制した大男が山賊の頭だ。周りの山賊や相撲大会の力自慢たちと比べても大きく、腕の筋肉も腹の脂肪もたっぷりだ。
「この人数差だ。こいつらを嬲り殺すのは簡単だろう。しかしそれでは俺たちをナメた罪を償わせることはできない。周りを見てみろ」
揉め事に関わりたくないので、私たちの周りには誰もいないように見える。しかし木々の間や岩の陰、さらに遠くから旅人や別の山賊グループが騒動の行方を眺めていた。
「こいつなら俺たちに勝てるんだろう?ならば俺と一対一で戦え」
「………え?」
「少し歩けば休憩のための小屋がある。そこにリングが置いてあるんだ………見物人たちの前でやろうぜ。俺が勝てば予定通りたっぷり遊んでから売り飛ばすが、お嬢ちゃんが勝てば見逃してやる」
負けるはずはないと考えているようで、あえて正々堂々の勝負を持ちかけてきた。卑劣な悪党にもプライドがあるというわけか。
私なんかに負けるようなことになれば同業者からは馬鹿にされ、子分たちは去っていく。そんなことは起こらないからこそ自分の力を誇示する場を設けたようだ。
異世界人はスモウだけでなく、プロレスという競技も私たちの世界で広めた。スモウが円の中で戦うなら、プロレスはリングと呼ばれる正方形のエリアで戦う。その正方形は柱とロープで支えられている。
(………断ればここで終わりだ。でも……)
勝てば助かる。それなら僅かな可能性に賭けるしか私たちに望みはなかった。
「……私が勝てば何事もなく旅を続けさせてもらう……その約束を守ってもらえるなら」
「よし、決まりだな!素晴らしい試合にしようぜ!おい、見物料はタダだぞ!」
遠くから見ていただけの野次馬たちもその声に応えるようにしてやってきた。
「どっちが勝つか賭けないか?」
「アホか。あの女に賭けるやつがどこにいる?成立しないだろうが。素直に『おこぼれ』に期待しようぜ」
上機嫌になった山賊の頭が観客たちに略奪品を分け与えるのはよくあることのようで、私たちのお金や荷物が皆の視線を集めている。
「………」
敵地の真ん中でもイヴは全く動じていない。私の勝利を確信しているからだ。
(………よし!)
本来なら森の中で殺されるかそれ以下の末路を辿っていた。見えない力がイヴを守ろうとしているのかもしれない。あとは私次第だ。
「ぐふふ……少しは粘ってもらいたいものだ。審判はそのへんの適当なやつにやらせるが、公平に裁くと誓わせたから安心しろ」
「………」
「緊張と恐怖で声も出ないか。そのうち喋れなくなるのだから今のうちに喚いておいたほうがいいと思うが……おい、試合開始の合図だ!」
「は、はいっ!始めっ!!」
やる気満々、ただし余裕ゆえの油断も感じられる。勝機があるとしたらそこで、私は集中して力を溜めた。
「てや――――――っ!!」
どこからでも来いと両腕を広げる相手に対し、迷わずパンチ。巨体だから的が大きく、空振りの心配はなかった。
「……………!!」
「……あれ?お頭の様子が………」
私の拳は胸に命中、その瞬間敵の動きが止まった。後から聞いた話だと、心臓が停止していたらしい。
「やったぁ!おねぇちゃん、一気に攻めて!」
イヴの弾んだ声が聞こえる。私にさらなる力を与えてくれた。
「ぐあっ!!」
「どりゃ――――――っ!!」
太い右腕をへし折ると、山賊の頭は意識を取り戻した。ただしすでに決定的なダメージを与えた。
「ぐ……ぐおおおっ!!」
「さすがお頭!残った左腕で!」
降参する気はないようだ。もちろん私もこれで終わったとは思っていない。もうひと押しが必要だ。
「ぬおっ!?」
「よ、避けやがった!」
攻撃が雑で、簡単に回避できた。余力はもうなかったようで、最後の意地にすぎなかった。
「くらえ――――――っ!!」
「左腕を!」 「そっちも折る気か!?」
これで決着だ。迷うことなく腕を掴んだまま投げた。
「ふんっ!!」
「ガアァ――――――………」
小屋に腕の折れる音が響く。続いて大男がマットに崩れ落ちる音が。
「……しょ、勝負あり!」
山賊の勝利を信じて疑わなかった観客たちは静まり返っていた。しかし数秒間の沈黙の後、
「すげぇ!倒しちまった!」
「あの怪物をあんな女の子が!」
大歓声に変わった。たくさんの声援が飛ぶなかで、私はただ一人、イヴに向かって手を振った。
残り2話です。この作品を最後に筆を置く予定なので、最後までお付き合いください。これまでの作品では後書き欄で野球やプロレスなど、好き勝手書かせていただきました。ありがとうございます。命の続く限りひっそりと横浜DeNAベイスターズ、そしてオーカーンとシュンスカイウォーカーを応援していきたいと思います。




