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【☆5.3万PV】アダルトレジスタンス   作者: オレノマツ
第二章 国家騒乱編

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File:109  最後の戦い

瓦礫と粉塵が舞う式典会場の片隅で、シュウが対面した相手は、かつての戦友・ジュウシロウだった。


「……やっぱ生きてたんすね。ジュウシロウさん」


シュウの瞳は虚ろだったが、その声には、かつての軽い口調が微かに残っていた。


「ああ。あの状況から、エルマーの奴が気まぐれで俺を回収し、生かしやがった。

 ちなみにカノンともその時、会った。

 ……お前は完全に、前崎の軍門に下ってしまったんだな」


「……もう、何が正しいかなんて、どうでもよくなったんですよ。

 理想を追いかけて血を吐くより、自分の生活が楽になる方向で考えることにしました。

 ユーリのことも幸せにしてやれますしね」


「……カオリはどうした?」


「さあ? ジュウシロウさんが死んだと思って、とっくに別の男見つけたんじゃないっすか?」


シュウの口から吐き出されたあまりにも冷酷で空虚な言葉に、ジュウシロウは短く「……そうか」とだけ応じた。

結局自分が何のために生きてきたのか。

今のジュウシロウにはどうでもよかった。


だから話を無理矢理終わらせる。


ジュウシロウは神経外骨格の莫大なエネルギーを注ぎ込む。


「シュウ。エルマーが俺を回収し、蘇生させたことは、前崎には黙っておいてくれ。

 俺はその情を裏切って、再び坂上側についたんだ」


「……なんでそんな頑なに。

 わざわざ地獄から這い上がってきて、なんでまた、勝ち目のない坂上側なんかに?」


「前崎の下にはつけない。

 どれだけ日本が豊かになろうとも、奴のやり方はやはり間違っている。それだけだ」


「結果よりも手段(プロセス)っすか。もう古いっすよ、その考え」


「……なんとでも言え。

 俺ももう、小難しいことを考えるのには疲れたんだ。

 最後に、精一杯あがいて死ぬ。

 だから……俺を楽にさせてくれ」


「……わかりました。介錯させてもらいます」


かつての仲間たちは、互いの命を完全に絶つために、その鋼の拳を静かに構えた。




時を同じくして。

銀司とラスカノという、前崎陣営が誇る最強の殺戮者の前に立ちはだかったのは、坂上の直属にして、旧自衛隊の最高峰を極めた四人の精鋭――雨宮、篠塚、縣、穂刈だった。


「はじめまして。テロリストの方々」


銀司の無機質なサイボーグの音声が、雨を裂いて響く。


「それはお前たちの方だろう、合法犯罪者ども」


雨宮が、アサルトライフルを構えながら冷徹に言い返した。


「ハッ。犯罪者同士、ここで仲良く殺し合うのか。笑えないな」


暗殺者としての血を滾らせたラスカノが、両手のナイフをクルクルと回す。


「なんだ、お前たちは? ここで死ぬ気で来ているのか」


銀司が、四人の自衛官のバイタルから「生存本能」が完全に欠落していることを検知し、微かに不審の声を上げた。


「我々は誇り高き自衛官だ。

 この国に実害をもたらす悪を、自らの命と引き換えにしてでも打ち滅ぼす。

 それが我々の最後の任務だ」


「……まったく。この豊かになった時代に、まだそんな狂気じみた『カミカゼ精神』が残っていたのかい? なぁ、銀司」


「お前らも、もうそれ以外の不器用な生き方ができない、可哀想な人間だったんだな。

 ……いいだろう。このエネルギーブレードで、綺麗に介錯してやる」


殺し屋と軍人。決して交わることのない二つの正義が、火花を散らして激突した。




「――あれから三年。お前は一体、地下で何をしていた」


爆心地の喧騒を見下ろす演説台の上。前崎の静かな問いに、日本最強の自衛官であった男、坂上は端的に答えた。


「準備だよ」


「結果にまだ不満か? 私がこの三年で、ここまで劇的に世の中を変え、この国を豊かにしたというのに」


「結果にじゃねぇ。『過程』にだ。

 どんなに優れた結果を出そうとも、あんな血塗られた前例を、この国の歴史に残すわけにはいかねぇんだよ。

 若者たちが誤解するだろう?

 多少手段を間違えてでも結果を出すことが大事なのだと」


「……お前に聞くが、今の私を排除して、これ以上の結果を出す国家のビジョンがお前にはあるのか?

 私は可能な限り具体策を示し、現に結果を出した。

 それを超える頭脳が、お前にあるとでも?」


「ない」


坂上は、一片の迷いもなくはっきりと答えた。


「言いたいことをはっきり言ってやる。前崎、お前はただの『悪党』だ」


「……随分と偏った見方だな」


「ああ。現職の総理を殺し、個人の土地や利権を問答無用で奪い、抵抗する人間を不当に弾圧した。

 そんな手段で国を束ねて、本当に人が心からついてくると思うか?

  お前のやり方を肯定すれば、それは『結果さえ出せば、どんなおぞましい手段も正当化される』と、未来の歴史に証明しているようなものだ。

 リーダーたるお前が、な」


「その通りだ。だからこそ、私は自分以外の誰にもその『権利』を与えない。

 国民には絶対に、私と同じマネはさせない。

 そもそも革命とはそうやって行われてきただろう?」


「そうだ。

 だからこそ――お前にはここで、死んでもらわなくてはならない。

 この国を、無法な力で完全にフラットにしてしまった、お前という諸悪の根源にはな」


「何を言って……」


前崎が、そこまで聞いてようやく坂上の「真の目的」のピースをピタリとはめ合わせた。

話が噛み合わないと思っていたが、そういうことだったのか。


「……なるほどな。そういう論法か」


前崎の端正な顔に、薄ら寒い感嘆の笑みが浮かぶ。


「私が既得権益をすべて破壊し、完全にフラットになったこの最高の『JAPANGU』のシステムだけをそっくりそのまま頂き、お前たちが私の代わりに統治するということか。

 そして、すべての血の汚れと不法行為の罪を、私という『大悪党の国際犯罪者』一人に全責任として押し付け、抹殺する。

 そうすれば、お前たちは歴史の英雄として、クリーンな手を保ったまま、この完成された国家を支配できるというわけだな」


「……そうだ」


「ふっ……くくくっ。まるで、古典的なアニメじみた感傷的なシナリオを本気で考えていたのか。

 『撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけ』だったか?

  あのアニメの有名な名台詞は」


「……」


前崎が不思議そうに、だが底冷えする声で笑い出し、坂上は重く沈黙した。


「悪いな、坂上。私はそんな、自己犠牲を伴う綺麗な物語を紡ぐつもりは毛頭ない。

 お前たちにこの国の座を譲ってやる気もない。

 私は進み続けるよ。

 日本に仇為す、発展に寄与しないすべての古い価値観を完全にすり潰してな」


もう、これ以上の言葉は不要だった。

分かり合えるなど不可能。

お互いのイデオロギーが絶対に交わらないと理解した以上、残された道はただ一つ、殺し合うことだけだ。


「じゃあな。坂上」


「さらばだ。前崎」


交わされたのは、極限まで削ぎ落とされた短い決別の言葉だった。

国家の未来を懸けた、最高指導者と最強の軍人の、最後の殺し合いが始まった。

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