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【☆4.9万PV】アダルトレジスタンス   作者: オレノマツ
第二章 国家騒乱編

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File:091 蚊帳の外

「ちぇっ……!!

 なんで俺とおっさんは、あの作戦会議の仲間に入れてもらえないんだよ!

 完全に蚊帳の外じゃねえか!」


地下拠点の薄暗い廊下の片隅で、小室怜はゴミ箱を激しく蹴りつけ、苛立ちを隠そうともせずに吐き捨てた。

その隣で、長谷部は穏やかに微笑みながら肩をすくめる。


「まぁ……仕方がありませんよ。

 彼らから見れば、我々はただの一般市民ですからね。

 危険な軍事作戦に巻き込むわけにはいかないという、彼らなりの配慮なのでしょう」


「あぁん!? 俺は現役ヤクザの息子だっての!

 どこをどう縦に読んだら一般市民なんて大人しい枠に収まるんだよ!」


「ま……まぁまぁ、そう熱くならずに……」


噛みつくような怜の剣幕を、長谷部は両手を小さく振って宥める。

そのどこか達観した態度が気に入らないのか、怜はジロリと長谷部を睨み据えた。


「……っていうか、おっさんは本当にそれでいいのかよ?

  あんただって、家も仕事も追われて、もう他に行く宛てなんてないんだろ?」


「そうですねぇ。確かにこれといって帰る場所はありません。

 さて、どうしたものでしょうかね」


他人事のように首を傾げる長谷部に、怜は呆れたように深く溜息をついた。


「……あんた、本当に呑気っていうか、危機感がなさすぎるだろ」


「なんというか……私はあの強制連行のあの日から、もう命が惜しくないんですよ。

 だからでしょうか、いま目の前で起きているすべての出来事が、どこか現実味の薄い、夢の途中のように思えるんです」


「はぁ? 早くもボケが始まったか?」


「……どうでしょう。ですが、不思議と気分は悪くないんですよ」


「ダメだ。このおっさん、脳みそがイカれてやがる。

 戦いが終わったら真っ先に病院に叩き込んで検査させなきゃな」


怜の容赦のない、けれどどこか心配性の裏返しのような皮肉に、長谷部は思わず声を立てて笑ってしまう。


「ま、私にできることと言えば、せいぜい車の運転くらいですからね。

 彼らがこの先どこを目指すのか、その目的さえ分かれば、あとは何だって指示通りに動くつもりですよ」


「おっさん、あいつらにハブられて、信用されてないって悔しく思わないのかよ?」


「うーん、元公務員だったことの弊害でしょうか。

 私は昔から、自分でクリエイティブな計画を立てるより、『これをやれ』と手順を決められた方が、精神的にずっと楽なんですよ」


「うわ……典型的な、指示待ちの社畜日本人だな」


「公務員なんて全員そんなものですよ。

 組織の歯車にクリエイティブな発想なんて求められませんからね。

 とにかく前例と手順を守らないと、上から酷く怒られる世界なんです」


「めんどくせぇ仕事。反吐が出る。

 俺は絶対に、そんなクソみたいな組織や会社では働かねえぞ!」


長谷部は「なるほど」と頷き、少し興味深そうに怜の顔を覗き込んだ。


「……ちなみに小室君。君は今、何歳だったかね?」


「21だ。文句あるか」


「まだそんなに若かったんですね。

 ……これまで、更生施設に連行される前は、一体どんな生活をしていたんですか?」


「大したことはしてねえよ。

 スクラップヤードで車の解体作業をするか、あとはヤクザのバックヤード賭け事のディーラーや雑用をしてただけだ。

 あそこほど、後ろ暗い人間がコソコソ隠れて悪さをするのに向いてる場所はねえからな」


「ああ、なるほど。だからあの厚生施設から脱出する時、あれほど手際よく車のロックを解除できたんですね。

 合点がいきました」


「まあ、電子制御まみれの最新鋭の高級車とかは専門外だけどな。

 ある程度古い型種か、構造さえ分かればどうとでもなる」


長谷部は感心したように細い目をさらに細めた。


「それだけの技術があるなら、もっと真っ当な整備工場とか、面接でアピールして仕事に活かせばいいのに。

 勿体ない」


「無理に決まってんだろ。

 俺のことを、都合の良い使い捨ての道具としか思ってねえ連中の利益のために、なんで俺がペコペコ頭を下げて働かなきゃいけないんだ。

 御免被るね」


「なるほど、なるほど。実に、昨今の若者らしい思想だなぁ」


怜の尖ったプライドを、長谷部は否定も肯定もせず、ただ大人の包容力で受け止める。

怜は居心地が悪そうに頭を掻くと、作戦室の重々しい扉へと視線を戻した。


「つーか、あの人たち、まだ中でブツブツ作戦会議やってんのかよ。

 おっせぇなぁ」


「まぁ……一ノ瀬さんが命懸けで持ち出した空中要塞のデータですからね。

 これから神に等しい戦力を相手に戦争を仕掛けようというのですから、それなりに話し合いも混み合っているのでしょう」


二人の所在なさげな会話は、閉ざされた扉の向こうから漏れ聞こえる緊迫感とは対照的に、地下廊下の暗闇へとのんびり溶けていった。


重々しい金属音を立てて、それまで固く閉ざされていた作戦室の扉が勢いよく開け放たれた。

中から現れたのは、張り詰めた面持ちの黒岩である。

そして会議をしていた他の面々も集まってきた。


「方向性が決まった。お前さんたち二人にも作戦に協力してもらう」


「あぁん!? 散々ハブっておいて、今更俺たちの力が必要になったってか?」


怜が挑発的に鼻で笑うと、黒岩はまっすぐその視線を受け止め、淡々と告げた。


「そうだ。

 だが勘違いしないでくれ。あくまでお前たちは非戦闘員だ。

 前線で銃を握るわけじゃない。

 そして……非常に申し訳ないが、お前たちの命を担保にするような大役を与えることもできない。

 基本は後方支援だ」


「てめぇ……!!ヤクザの息子舐めんな!」


プライドを傷つけられた怜が、いまにも黒岩の胸ぐらをつかみかねない勢いで一歩踏み出す。

その刹那、背後から静かだが重みのある声が差し込まれた。


「小室君。――一旦、彼の主張を最後まで聞きましょう」


長谷部の落ち着いた声。

それに促されるように、怜は苛立たしげにチッと舌を打ち、一歩下がって腕を組んだ。

少年の荒ぶる感情が宥められたのを見届け、黒岩は背後の巨大スクリーンに一枚のホログラムを投影した。


「前崎が潜んでいる本陣は、上空に鎮座するあの巨大空中要塞『SGⅡ』と呼んでいるものだ。

 前にアダルトレジスタンスにあったSGと仕組みは変わらない」


青白い光の中に、禍々しくも美しい要塞の全体像が立体的に浮かび上がる。


「長い間、どうしてあれほどの質量兵器が燃料の補給もなく浮いた状態でいられるのか、そのシステムが全く解明できなかった。

 だが、一ノ瀬さんが持ち出してくれた内部データによって、ようやくすべての合点がいったよ」


作戦室の奥から歩み出た黒岩が、手元の端末を操作してさらに詳細な解析資料を追加表示していく。

スクリーンの映像が切り替わり、日本地図の上に展開するいくつかの光点が示された。


「この空中要塞は、日本全土に全部で7基存在する。

 それぞれが北海道、東北、関東、中部、近畿、中国四国、九州の各エリアの経済圏を巡回し、上空から監視しているんだ。

 例外は小規模な離島や、すでに独自の新型軍備が配備されて一般地域よりさらに厳しい統制下にある沖縄くらいだな」


立体地図を見上げていた長谷部が、顎に手を当てながらポツリと呟いた。


「なるほど……なんというか、恐ろしく合理的というか、まるで空飛ぶ巨大な警察署ですね」


「その通りだ、長谷部さん。

 奴がやろうとしている新世界の統治形態は、おそらく『道州制』の極限化だろう。

 前崎は以前の演説でも民衆に仄めかしていた。

 エリアごとに独自の税率を設定し、法律や社会制度すら完全に最適化して変えていく。

 アメリカの『州』のようなシステムを、この日本に構築しようとしているんだ」


「そして、その絶対的な管理・執行権限を、あの空に浮かぶ7基の要塞にそれぞれ管轄させている、と」


「そうだ。だからこそ、生半可なゲリラ戦では意味がない。

 この7基のシステムを機能停止させ、前崎の本陣を一気に叩く必要があると当初は思っていたがその必要はなくなった」


「……どうしてだ?」


「すべてを統括しているのが東京の上空にあるSGだからだ。

 ここを破壊すればすべてが壊れる」


「なるほどな」


そういってジュウシロウは頷く。


「……言うのは簡単だけどよ」


怜が冷めた目でスクリーンを睨みつける。


「相手は雲の上だぜ? 空中にある巨大な城を、地べたを這いずり回ってる俺たちがどうやって叩くってんだよ」


「だから、まずはあの要塞が浮いている『原理』を知る必要があると言っているんだ」


黒岩が端末をタップすると、要塞の底面部に集約されている未知のエネルギー回路が赤くハイライトされた。


「あれは、かつて我々アダルトレジスタンスの本拠地で使われていた、空間の『座標固定技術』を応用したものらしい。

 量子力学的な詳しい原理までは不明だが……概念として言うなら、空間そのものに消えない『画鋲』を打ち込んで、要塞をそこに縫い付けていると思ってくれ。

 重力に逆らって推進力で浮いているわけじゃない。

 だから、エネルギー消費を最小限に抑えたまま、半永久的に滞空できる。

 さらに、地上の人間からの日照権の苦情を避けるためか、あるいは迎撃を困難にするためか、人里から大きく離れた僻地の上空、それも超高高度に配置されているんだ」


「そんな場所、普通の手段じゃ手が届くわけねえだろ……!」


「普通ならな。

 だが、なら考えてみてくれ。前崎の直属部隊である『Hound』の連中は、一体どうやって地上での任務を終えた後、あの天空の要塞へと帰還していると思う?

 毎回、莫大なエネルギーを消費するホログラム転送装置を乱発しているわけじゃない。

 あれは明らかに全電力を喰うからな。

 Houndの移動には別の『道』が使われている」


一ノ瀬の問いかけに、作戦室の隅で腕を組んでいたジュウシロウが、低く、地を這うような声で静かに答えた。


「……特定の場所に、常設型の『転送ゲート』を設置している、か。

 移動できる場所を限定する代わりに、空間接続の安定的維持とエネルギーのロスを極限まで抑えるという、インフラ的な発想だな」


「その通りだ、ジュウシロウ。

 奴らの移動ルートとなる地上の拠点を割り出し、そこから潜入して要塞の内部へと突撃を仕掛ける。そして――」


一ノ瀬はスクリーンの中心、日本の心臓部で一際不気味な輝きを放つ光点を、強い意志を込めた指先で激しく指し示した。


「奴が、前崎が自ら指揮を執っているのは、間違いなくこの『東京上空のSG』だ。

 ここを、我々の総力で叩き潰す」

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