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【☆4.9万PV】アダルトレジスタンス   作者: オレノマツ
第二章 国家騒乱編

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File:090 作戦会議

結局、解放された一ノ瀬を交え、元アダルトレジスタンスのメンバーたちも同じテーブルにつかせて話をすることになった。

ちなみにだが、坂上の映像のビデオは全員に見せている。


地下オフィスの張り詰めた空気の中、黒岩が重い口を開く。


「俺たちが前崎さん……いや、前崎に反旗を翻すのは、あいつの『倫理を超えた非道』と『弱者を容赦なく切り捨てる』という思想が、この日本において完全にアウトだと確信しているからだ。

 あの大義名分に満ちた新政府は、明らかなルール違反と犠牲の上に成り立っている。

 それを今更あの人に言葉で意見したところで、聞く耳を持つはずがない。

 だから、俺たちは暴力という手段に訴える。

 相手がルールを破って神の座に就いたんだ、なら俺たちもルールを破って引きずり下ろす。

 一ノ瀬もこれは同意している。

 ……でお前らはどうなんだ?」


黒岩の剥き出しの鋭い視線が、かつてテロ組織として国を揺るがしたレジスタンスの元メンバーたちへと向けられた。


「……私は、メタバースの仮想世界に逃げ込んで、偽物の夢に溺れるように生きていく前崎のやり方は間違っていると思う。

 それに、個人があそこまでの圧倒的な武力や兵器を独占してはいけない。

 誰も前崎に何も言えなくなる、息の詰まる社会になってしまうから。

 何よりあいつは、何人もの人間を殺してあの席に座った。

 そんな大量殺人犯が国のトップに君臨して政治を握るなんて、絶対に許されるわけがないでしょ?」


カオリは正義感を爆発させるように言い放った。

黒岩は意外な顔をした。


「そうか。お前はそこなんだな。

 まあいい。動機なんて人それぞれだ。残りのお前らも、大体そんなガキ臭い理由か?」


「部分的には同意するわ。

 けれど私は元政治家の娘として、少なくとも彼の独裁体制は終わらせるべきだと考えているの。

 どれだけ効率的であれ、独裁政治が最終的に凄惨な破綻を迎えることは、人類の歴史が証明しているでしょう?」


マスミは感情を排し、冷徹な統治論として淡々と言い切った。


「俺は、単純にカオリを守るためにここまでついてきただけだ。

 思想だの政治だのには興味はない」


ジュウシロウも腕を組んだまま、地を這うような低い声で続けた。


「ふん、なるほどな。……で、そっちの二人はどうなんだ?」


黒岩の視線が、部屋の隅でずっと沈黙を保っていたユーリとシュウの二人へと移る。

二人は互いに視線を交わすこともなく、ただ床をじっと見つめていた。


「……正直に言って、私にはもう分からない」


静まり返った室内で、ユーリがぽつりと、掠れた声を絞り出した。


「前崎さんの言っていることも、黒岩さんたちの怒りも、どちらも正しくて、どちらも間違っているように思える。

 それに、暴力でしか世界を変えられないなんて、そんな哀しいことはないはず。

 他にもっと、対話や別の伝え方があるんじゃないかって……だから、今の私には何が正しいのか分からない」


「……俺も、ユーリと同じだ」


お面の奥から、シュウが苦渋に満ちた声を漏らした。


「俺は元々、前崎を……俺たちアダルトレジスタンスを文字通り滅ぼした張本人として、その復讐のためだけに殺しに来た。

 だが、あの「アンカーハウス」で俺たちは保護され、俺の癌も完治させてもらった。

 社会の経済は進み、治安も良くなった。

 あいつがやっていることを見ていたら……かつて俺たちが理想として掲げ、血を流して届かなかったレジスタンスの『系譜』を、最も純粋に引き継いで体現しているのは、実は前崎なんじゃないかって、そう思っちまったんだよ」


「ハッ!なるほどな。随分とまぁ、現実を知らない学生のような青臭い回答だ」


黒岩は無精髭をガシガシと触りながら、冷ややかに鼻で笑った。


「ユーリ、シュウ。悪いが、今のあんたらのその生温いマインドじゃ、この先にある血みどろの作戦の詳細は一切教えられねえ。

 ここで再び拘束させてもらうぞ。

 もし、前崎の襲撃が始まった時にこいつらを守るために盾として動きたいって言うなら体は動かさせてやるが、軍事機密は一切伝えない。

 ……文句はねえな?」


「あぁ。それでいい」


シュウが静かに首を縦に振ると、二人は再び戦闘員たちに手を回され、作戦室から連れ出されていった。

扉が閉まる間際まで、カオリは引き裂かれるような不安そうな顔で、二人の背中をじっと追っていた。


「……ジュウシロウ、本当にあれでよかったの? 引き止めなくてよかったの?」


「あいつらに声をかけたところで仕方ががない。残るか退くか、あいつら自身が悩んで決めることだろ」


ジュウシロウは冷淡に突き放したが、その目にはどこか、かつての自分たちの迷いを見るような暗い色が浮かんでいた。


そんな感傷的な空気を破るように、黒岩がパン、と両手を激しく叩いて全員の注目を集める。

室内の照明が落とされ、中央のホログラムプロジェクターに、一ノ瀬が持ち出した『空中要塞』の立体透過図が青白く浮かび上がった。


「――よし、感傷戦はここまでだ。これより、前崎の首を獲るための具体的な反逆作戦を説明する」




「ごめんね、シュウ。作戦室であんなこと……煮え切らないこと言っちゃって」


「構わないさ。お前の、嘘偽りのない本音なんだろ?」


物理的な拘束こそ解かれているものの、事実上の軟禁状態にある牢獄のような殺風景な一室。

シュウとユーリの二人は、冷たいコンクリートの床に直に座り込み、手元にある古びたトランプで、時間だけが贅沢に流れていくカードゲームを暇つぶしに遊んでいた。


「それに、俺だって似たようなもんさ。

 前崎への復讐心だけで動いていたはずなのに、いざあいつが作った世界を見ちまったら、何が正しいのか分からなくなっちまったんだからな」


シュウは自嘲気味に呟きながら、手慣れた手つきでカードをシャッフルし、ユーリの前に一枚ずつ配っていく。

カサカサと硬質な紙の音が、静まり返った部屋に虚しく響いた。


「でも、坂上って人は本当にすごいな。

 あの前崎さんの最も近くにいて、新政府が立ち上がった最初期の段階から、あいつを裏切る計画を一人で水面下で進めていたなんて」


ユーリが配られたカードを自分の手元に揃えながら、感嘆とも戦慄ともつかない溜息を漏らす。

するとシュウは、お面の奥の視線をカードから少しだけ外し、ぽつりと呟いた。


「……味方が、できないのかもしれないのかもね。前崎という人には」


「味方ができない?」


シュウが不思議そうに小首を傾げた。


「ええ。だってあいつの頭脳も、個としての能力も、文字通り天元突破して世界の常識を超えているじゃない?

 同じ目線、同じ同列の次元で言葉を交わせる人間なんて、この地球上に一人もいないかもしれない。

 だったら、周りの人間を信用して頼るより、『もう全部一人で、自分の手だけでやっちゃえ』って思考になるのは当然じゃない?

 手足となるクローンの兵士もいるのに」


「……まぁ、確かに。

 あそこまで天才というより能力を補強している状態だと、他人の歩幅に合わせる方が非効率なのかもしれないね」


ユーリは納得したように頷き、手札から一枚のカードを引き抜いて場に置いた。


「それに、今でもあの人に付き従って味方をしているのは、かつて私たちと一緒に戦ったアダルトレジスタンスの元メンバーの一部だけでしょ?」


「ソウだったり、アリアだったり、か。

 ……思い返せば、あいつらは当時から俺たちの中で飛び抜けて賢かったもんな。

 だからこそ、前崎の提示した新しい世界の『合理性』を、誰よりも早く理解してあっち側に付いたんだろう」


「そうね。……それにしても、ケンはどうするつもりかしら?

 今回の旅でも、結局あの子を私たちの側に連れてくることはできなかったわ」


ユーリの脳裏に、かつての仲間の冷徹な眼光がよぎる。寂しげに目を伏せる彼女に対し、シュウは励ますように声を低くした。


「……あいつなら、きっと最後には全部分かってくれるさ。

 それに今のアソコを取り巻く状況を考えれば、あいつは日本じゃなく、中国のあの動乱の地にいるべき人間だろ?

 植え付けられた人格的にもな。

 あいつにはあいつの、果たすべき役割があるのさ」


「……そうね。私たちが心配することじゃないかもしれないわね」


ユーリは小さく微笑み、場に流れたカードを回収して、次のゲームのために再びトランプをシャッフルしようとした。

だがその瞬間、シュウが何か違和感を覚えたように、カードを操る手をぴたりと止めた。


「……あれ? そういえばさ、ユーリ」


「どうしたの?」


「さっきの作戦室での話し合いの時さ……長谷部さんと、小室怜って奴、あの場所にいたか?」


シュウの言葉に、ユーリは記憶を遡るように少し視線を泳がせたが、すぐに小さく首を横に振った。


「……言われてみれば、いなかったと思う。

 カオリやジュウシロウさん、マスミさんはいたけれど、あの二人の姿はどこにも見当たらなかったわね」


「どうしたんだろうな、あいつら……?

  いくら当事者じゃないとはいえ、この土壇場で姿を消すなんて、一体どこで何をしてるんだ……?」


シュウの呟きが、地下特有のひんやりとした静寂の中に吸い込まれていく。

作戦室から締め出された二人の胸に、理由の分からない不穏な予感がじわりと広がり始めていた。

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