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【☆4.9万PV】アダルトレジスタンス   作者: オレノマツ
第二章 国家騒乱編

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211/214

File:088 信用できない

新しい小説を執筆しました。

書き溜めていたやつなので、第1章までは確実に投稿できます。

よろしければ。8月中旬までにすべて投稿予定です。

「おい、一ノ瀬さん……いや、一ノ瀬。

 あんた、自分が今どういう状況か分かってんのか?

 信じられるかよ、よりによって副総統が、アダルトレジスタンスのガキどもを引き連れて俺たちのシマに現れるなんてよ……。

こいつらとあんたがこの日本をどれだけ無茶苦茶に変えやがったか、骨身に沁みて知っているだろ?」


黒岩は周囲の戦闘員たちに視線を走らせながら、吐き捨てるように言った。


「……そうですね。忘れるはずがありません。

 というより、あなたがここにいることが本当に予想外でした」


一ノ瀬が黒岩を宥める様に言った。


「前崎の独裁も胸糞悪ぃが、元はといえばこのガキどもがテロなんて起こさなきゃ、こんな狂った世界にはならなかったんだ。

 こいつらの残党が未だにのうのうと生きていること自体、腹が立って仕方がねえんだよ」


「なんだと……っ!?」


黒岩たちの剥き出しの敵意に、シュウの顔が怒りで歪んだ。

一ノ瀬の喉元に突き付けた高周波ブレードの手元に、無意識に力が籠もる。


「ガキだから、少年兵だからって理由で、お上から何人か命を救われやがって。

 そのくせ自分がやったことの責任能力すら取れねえ、現状の社会をただ壊すことしかできない欠陥品のガキがよ。

 腹立たしいにも程があるんだよ、テメェらは」


「壊すことしかできないだと……?

 お前らにだって、俺たちの仲間が何人も殺されたんだぞ!」


シュウが激昂して叫び返したが、黒岩の目は冷酷そのものだった。


「当然の報いだ。他人に銃口を向けた時点で、自分が殺される覚悟くらいしておけ。

 子供だから許される、見逃してもらえるなんて甘えた幻想を抱いてんじゃねえぞ」


黒岩は雷を落とすように、鋭く怒鳴りつけた。

その言葉に込められた圧倒的な圧に、シュウは一瞬言葉を詰まらせる。


「黒岩さん。とりあえず、終わった過去の遺恨は、ひとまず一旦脇に置きましょう。

 それに俺たちの世代が情けなかったのも原因の一つじゃないですか」


ピリついた空気を遮るように、一ノ瀬が滑らかな声音で割って入った。


「今日はね、僕の元に『あいりん地区の武装勢力が、前崎さんに反旗を翻す準備を進めている』という極秘の情報が入ったから、こうして足を運んだのですよ。

 ここにいる彼らは、その反乱に協力する……とまではいかないかもしれないけれど、少なくとも同じ『前崎打倒』を掲げる者同士、話を聞く権利ぐらいはあってもいいのでは?

 なぜあんたらが、未だこの世界で反旗を翻すのか。その理由をね」


「……」


黒岩は深くため息を吐き、苛立ちを隠すようにガシガシと手で頭を掻いた。


「おいおい、おめでたい頭をしてるな、一ノ瀬。

 仮に俺たちがその理由を話したとして、お前らがそれを納得して、外で静かに黙っているっていう保証がどこにある?

 ここを突き止められた時点で、組織の安全のためにお前ら全員をここでブチ殺すしか選択肢はねえんだよ」


黒岩の冷徹な宣告と同時に、戦闘員たちの銃口が容赦なくジュウシロウたちへと一斉に向けられた。

引き金にかかる指に、じわじわと力が込められていく。


「黒岩さん……で、いいんですよね?」


絶体絶命の沈黙の中、凛とした、だがどこか悲痛な声が響いた。

後方から歩み出たマスミが、真っ直ぐに黒岩を見据える。


「黒岩さん、私は元総理大臣の娘です。

 私を人質として拘束すれば、前崎さんとの交渉材料としての価値はありませんか?」


黒岩はマスミを一瞥すると、鼻で冷たく笑い飛ばした。


「ハッ、価値なんてねえな。

 前崎って男は、そういう古い権力や血筋を徹底的にぶっ殺してのし上がった側の人間だぞ?

 今更、落ちぶれた元権力者の一族なんて、あいつから見ればただの足手まといでしかないさ」


万策尽きたかのように、面々の間に張り詰めた緊張が走る。

銃を握る戦闘員たちの指に、いよいよ最後の力が込もうとした。


「……仕方ないな。黒岩さん、取引をしよう。

 僕が持っている最高級の情報をあんたたちに売る。

 それで、ここの連中の命ごと手を打ってくれないか?」


一ノ瀬が諦めたように両手を軽く上げた。


「情報? 裏切り者のあんたが、今更なんのネタを持ってるってんだ」


「シュウ君、僕のポケットを探ってくれ。

 上から二番目の、内側にある隠しポケットの中身を、その黒岩さんに投げてあげてほしい」


シュウは一ノ瀬を睨みつけたまま、不器用な手つきで彼の衣服の内側を探った。

指先に触れた金属質の小さな塊を引き抜くと、それは一本の堅牢なUSBメモリーだった。

シュウはそれを黒岩に向けて放り投げる。黒岩は空中できれいにそれをキャッチした。


「それが、現在前崎さんが住まう、上空に浮かぶ空中要塞通称SGⅡの内部構造の概要、および稼働実態のすべてです。

 それに加えて、僕の権限で調べ上げられる限界の機密データをすべて詰め込んであります」


「……一ノ瀬。あんた、本当に前崎を裏切る気なのか?」


黒岩の目が、初めて一ノ瀬の本意を探るように細められた。


「そう思うんだったら、僕をこのままあんたたちの頑丈な牢獄にでも叩き込んでもらって構いませんよ。

 僕は単純に、この目で事実を確かめたいだけなんだ。

 ……あの人が、本当に超えてはならない『人としての一線』を本当に超えてしまっていないかどうかをね」


「なんだそりゃ。かつてのボスが狂ったかどうか、お前が裁判官気取りでジャッジでもするつもりか?」


「まさか。ただ、あの人は今、誰の言葉も聞き入れずに一人で世界を巻き込んで突っ走ろうとしている。

 僕はそれを、ただ止めたいだけですよ」


一ノ瀬の言葉に、黒岩は手の中のUSBメモリーをじっと見つめ、それからジュウシロウたちを鋭く睨み据えた。


「……こいつの言い分が本物かどうか、まずは中身を確認してからだ。野郎ども、こいつらから目を離すなよ」


黒岩はそう言い残すと、USBメモリーを握り締めたまま、ビルのさらに奥へと続く鉄の扉の向こうへ姿を消した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



交渉の結果、ジュウシロウたちは全員「とりあえず拘束」という扱いになった。


部屋の隅に追いやられ、ジュウシロウとシュウの二人は、戦闘員たちの手によって神経外骨格の基幹パーツを物理的に叩き壊された。

高価な最高軍事機密の残骸が、床に虚しく転がる。


二人は激しい屈辱に顔を歪めて抵抗しようとしたが、一ノ瀬の「今は大人しく従え」という無言の圧に押され、しぶしぶその肉体から牙を抜かれるのを受け入れた。


一同が連行されたのは、荒廃した地上のカフェからは想像もつかない場所だった。

隠しエレベーターで降りたビルの地下。

そこに広がっていたのは、最先端の電子機器が並ぶ研究施設と、整然とした近代的なオフィスの複合空間だった。

地上と地下のあまりのギャップに、マスミやカオリは息を呑む。


黒岩は即座に部下のオペレーターたちに命じ、一ノ瀬から受け取ったUSBメモリーのデータ解析を行わせた。

軍事用の暗号化を施されたデータを一つずつ紐解くたび、技術兵たちの顔色が変わっていく。

精査の結果、その空中要塞の概要が「紛れもない本物」であることが証明された。


だからこそ、黒岩は一ノ瀬と二人きりで話す席を設けた。

重厚な鉄扉で仕切られた面談室のような密室。

一ノ瀬は相変わらずグルグル巻きに拘束された状態でパイプ椅子に腰掛け、その対面に黒岩が静かに腰を下ろした。


「……あのまま前崎の側にいれば、それなりに安定した……いや、日本の頂点に近い絶対的な地位を築けていたのだろうに。

 何をしているんですか、あなたは」


先ほどまでの粗暴なドヤ街の親父のような口調は完全に消え去っていた。

黒岩の話し方は、低く、そして酷く丁寧なものへと変わる。

それはかつてのアダルトレジスタンス襲撃から変わらない『前崎班』の時代に、二人が上司と部下という関係だった頃の距離感そのものだった。

一ノ瀬は黒岩よりも年下の上司だったが、お互いに砕けた敬語で話していた。


「そうですね……本当に、僕は一体何をしているんでしょうね?」


一ノ瀬は縛られたまま首を傾げ、他人事のように微笑んだ。


「おい」


あまりにも不真面目な回答に、黒岩はかつてのように鋭い突っ込みを入れる。

一ノ瀬は小さく肩をすくめると、少しだけ真剣な、どこか冷めた目を黒岩に向けた。


「まあ、はっきり言って、前崎さんのことがよく分からなくなってしまったんですよ。

 僕は自分のことを、あの人の右腕として重要な国家の機密をそれなりに任されていると思っていた。

 けれど、実際はそうでもなかった。

 あの人は、僕たちの想像を超えるすべてを、最初からたった一人で完結させていた。

 その上で、僕の目の届かない陰で、あまりにも非倫理的な実験や計画を平然と進めていたんだ。

 ……だからね、僕から見える世界は、ひどく偏見に満ちていたんだと気づかされました。

 心理学用語で『盲点(スコトーマ)』っていうんですかね、こういうの」


「視界が狭まるという意味なら、誰にでもあることでしょう。

 あなたの行動原理は分かりました。

 ただ……あなたは本当に、そんな子供じみた寂しさのような理由だけで、あの前崎を相手に反旗を翻したのですか?」


黒岩の穿つような視線を受け止めながら、一ノ瀬は少しだけ視線を落とした。


「……そうですね。前崎さんはもう、僕たちが想像する遥か先へ行ってしまった。

 一人で何でも、世界の在り方そのものを書き換えすらできてしまいますからね」


その呟きは、かつての絶対的なカリスマへの、酷く寂しげな哀悼のようにも聞こえた。

黒岩はそんな一ノ瀬の横顔を見て、ふっと自嘲気味に息を吐きながら、無造作に頭をガシガシと掻いた。


「なんというか……あんたらも、本当に似た者同士だな」


「似ている……? 僕と、誰がですか?」


一ノ瀬が眉を動かす。黒岩は椅子の背もたれに深く寄りかかり、煙草に火をつけた。


「一ノ瀬さん。

 あんたは、このあいりん地区の地下にこれほどの組織を作り上げた『代表』が、一体誰だと思います?」


「え? ここを取り仕切っているのは、てっきり黒岩さん、あなたじゃないんですか?」


「いや、俺たちはただ集められただけです。

 あの人から『軍資金はいくらでも出す』と言われて。

 ……まあ、大半の人間がそんな大金はいらねえと一度は断ったんだが、結局ここに担ぎ出されましたけどね」


一ノ瀬の包帯の奥の瞳が、初めて驚愕に引き攣る。


「……一体、誰なんです? バックにいるその代表というのは」


黒岩は紫煙を天井へと吹き上げ、その名を静かに口にした。


「坂上真司さんですよ」


自分と同じように、かつて前崎の最も近くで四肢となって動いていた最側近の男。

その坂上が最初期から前崎を裏切り、この地下で巨大な反逆の牙を研ぎ続けていたという事実に、一ノ瀬は初めて言葉を失い、深い衝撃を隠せなかった。

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