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【☆4.9万PV】アダルトレジスタンス   作者: オレノマツ
第二章 国家騒乱編

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201/214

File:078 アメリカ合衆国

世界一の超大国であり、かつては「世界の警察」として絶対的な覇権を握っていた国家。

それがアメリカ合衆国が頑なに守り、誇り続けてきた矜持だった。


しかし、その栄光の裏側では、2020年代を迎えた頃から致命的な内蝕が始まっていた。


テクノロジーの爆発的な進化に伴い、際限なく過激化する競争社会の中で、かつて成功者の代名詞であったホワイトカラーの知的労働者たちは、精神を病み、文字通り自らの寿命を縮めていった。


先進国の中で「唯一、平均寿命を縮め続けている民族・国家」として国際的な統計で槍玉に挙げられるほど、その精神的・肉体的摩耗は深刻を極めていた。


それでもなお、資本主義の暴走という名の競争の歯車が止まることはなく、比例するように自殺率、病死率、医療料金は右肩上がりに急上昇していった。


社会のセーフティネットが機能不全に陥った結果、アメリカ国内の貧富の差はもはや修復不可能なレベルまで極端化し、持たざる者たちの怒りの矛先は、富を独占する大富豪(ビリオネア)たちの財産や命へと直接向けられるようになった。


かつては富裕層の邸宅の前に形骸化したギロチンの模型を置いたり、壁にヘイトスピーチの落書きを施すといった、いわば象徴的な(ポリティカル)抗議活動(・プロテスト)のレベルに留まっていたものが、今や武装した困窮者たちが大型車両で豪邸の正門へと突っ込み、住人ごと物理的に殺戮・略奪を尽くすという、実質的な内戦状態へと発展していたのだ。


こうした背景から、近年のアメリカの国家的な関心は、もはや「国外の秩序維持」などという絵空事ではなく、完全に「国内の治安維持と崩壊の阻止」へと内向きに強制シフトせざるを得なくなっていた。


世界各地へ軍事介入を行うコストよりも、自国内の暴動やインフラ破壊による経済的損失のダメージの方が遥かに甚大であるという事実が、皮肉にも膨大なデータによって可視化されてしまったからである。


だが、そんな満身創痍の超大国ですら、絶対に無視することのできない不気味な動きを見せる国が極東に存在した。


それこそが、前崎総統率いる「日本」である。


サンフランシスコでの国際会議の最中に起きた、未曾有の前崎総統暗殺未遂テロ事件(結局、前崎は生存し、これを機に権力を完全掌握したのだが)。

さらには、それを皮切りとした中国、イスラム諸国、そして日本による、既存の欧米中心の金融・軍事秩序を排斥するための急速な「多極的結託」。


正直なところ、現在のアメリカを取り巻く国際環境には敵が多すぎた。

というより、アメリカはかつての世界大戦以降、自らの覇権を維持するために世界中で傲慢に喧嘩を売りすぎたのだ。


もはや、静観(ルックアウト)の限界はとうに超えていた。

特に、第二次日露戦争において、大国ロシアを事実上瞬時に崩壊へと追い遣った前崎の「未知の人型兵器(ペルディータ)」の圧倒的な戦闘映像を見てしまっては、国防総省もホワイトハウスも、恐怖で夜も眠れぬ事態に陥っていた。

このまま日本を中心とする新政府の台頭を許せば、アメリカという国家そのものが世界地図から消されかねない。


『宣戦布告』


国内に牙を剥く無数の暴徒を抱え、内憂外患の極みに達した世界一の超大国が、自らの覇権と生存を賭けて最後に絞り出した答えが、それだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


市街地には、もはや人っ子一人として歩いていなかった。

まるで世界そのものが活動を停止したかのような、不気味なほどの静寂が街を支配している。


それもそのはずだった。総統・前崎は、かつて日本国政府に反旗を翻し、新秩序の樹立を宣言したその瞬間から、来たるべき超大国との全面衝突を見据えて極秘裏に巨大な地下緊急シェルター群を建設していたのだ。


さらに、東京の空に君臨する、あの浮遊する巨大な機動要塞『SG2』――。


前崎は、最新のメタトロン監視網を通じて全国民に強制避難命令を下し、その圧倒的な輸送力をもって、一億の人口を瞬く間にそれらの絶対安全圏へと文字通り隔離・避難させていた。


前代未聞の、アメリカ合衆国からの『宣戦布告』。


それは、高度なサイバー先進時代に突入したこの2020年代後半のパラダイムにおいては、およそ現実味を帯びない「過去の遺物」であると考えられていた。


なぜなら、現代の紛争とは物理的な破壊ではなく、高度なハッキングや量子暗号通信を用いた「データの奪い合い」や「金融資産の凍結」の方が、遥かにローリスクかつ天文学的なメリットを生み出すと信じられていたからだ。


だからこそ、市井の人間は誰もが、血を流し街を焼く「本物の戦争」を自分たちの世代が体験することなど、未来永劫にあり得ないと高を括っていた。特に、かつては唯一の被爆国として核兵器の絶対撤廃を世界に謳い続け、平和の象徴を自負していたこの日本であれば、なおのことであった。


だが、そんな甘い幻想の時代は、今まさに終わりを告げようとしていた。

雲海を突き抜け、静まり返った極東の列島を見下ろす高度に、その「死の影」が姿を現した。


鈍く輝く金属製の機体に、鮮烈なアメリカの星条旗を刻んだ戦略爆撃機と、それを護衛する最新鋭戦闘機の編隊である。


「……また、あの国に核を落とすっていうのかよ」


超音速戦闘機『イーグル1』のコックピットの中で、酸素マスク越しにパイロットが低く、苦々しい声を漏らした。


彼にとって、日本はかつて休暇で訪れたことのある、お気に入りの旅行先ですらあった。


通貨価値の変動で物価は安く、それでありながら出てくる料理はどれも絶品で、夜中に女性が一人で歩けるほど治安も良い。


そんな豊かで美しい極東の先進国を、大統領の気まぐれな命令一つで今から無慈悲な焦土へと変えるという狂気に、本能的な嫌悪と抵抗感を禁じ得なかった。


米軍の内部では、今回の日本への爆撃命令に対し、日本に大切な友人がいるから、あるいは家族がいるからという理由で、軍籍を自ら剥奪して実質的なボイコット(退役)を選んだ人間すらいたほどだ。


しかし、そんな個人のささやかな事情や道徳心など一切お構いなしに、国家という巨大な怪物のエゴの濁流に呑み込まれ、真っ先にその理不尽な犠牲となっていくのが、いつの時代も市井の国民であり、末端の兵士であった。


報酬に釣れられたというのもなくはないが、今では後悔している。


「……クソ。この最悪な任務(ミッション)が無事に終わったら、俺もさっさと軍籍を返上して、まともな仕事を探さないとな」


すでに国際社会の世論からは、今回のホワイトハウスの電撃的な宣戦布告に対して凄まじい非難の嵐が巻き起こっている。


特に、実際に兵器の引き鉄を引いて大量虐殺に手を染めた実行犯のパイロットたちは、ネット上の過激な国際ハッカー集団や活動家、インフルエンサーの手によって、個人住所から家族の顔写真、経歴に至るまで、何から何まで世界中に晒し上げられ、戦後の人生を地獄に変えられることは火を見るより明らかだった。


重苦しい恐怖と緊張感の中、パイロットが攻撃開始のカウントダウンに指をかけようとした、まさにその瞬間だった。

機密通信網から、鼓膜を震わせるほどの怒号が飛び込んできた。


『全機、直ちに戻ってこい(RTB)! イーグル1、聞こえるか! 直ちに兵装を解除しろ、作戦は全面中止だ!!』


「!? ――司令部、こちらイーグル1。突然の命令変更に戸惑っている。理由の開示を要求する」


作戦空域へ突入する直前という最悪のタイミングでの衝撃的な方針転換に、パイロットは激しい混乱の声を上げた。

すると、無線機の向こうのオペレーターは、恐怖で歯の根が合わないといった様子で、信じがたい「真実」を叫んだ。


『――ワシントンの地下シェルターが何者かに破られた!

  臨戦態勢の最高警戒網を突破され……大統領が、拉致された……!!』


「!? 馬鹿な、世界で最も安全な場所だぞ……!!」


イーグル1は司令部からの報告に動揺を隠せなかった。

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