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【☆4.9万PV】アダルトレジスタンス   作者: オレノマツ
第二章 国家騒乱編

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File:077 包帯の男

シュウの暴発という不測のひと騒動が収束した後、ジュウシロウたちは改めて小室組の組長、小室真帆の前に座り直し、話を聞いた。


聞きたかったのは沖縄での前崎とあの「運動会」とやらの襲撃者たちだ。

小室組が関係している。

そう前崎からは聞いていた。


小室真帆は重厚な息を吐き出し、かつて沖縄で起きたあの凄惨な襲撃事件について、自らの組織の関与を淡々と認め始めた。


確かに、メキシコの巨大カルテル『ロス・カタス』やロシアンマフィアの軍勢を日本国内へと秘密裏に引き入れるための『闇のルート』を用意したのは、この小室組に他ならない。

だが、真帆の口から語られたのは、そこから先の計画に関しては組織は一切の関与をしていない、という奇妙な事実だった。


「……嘘を吐くな。あんたの息子の怜は、あの時まさに当事者として沖縄の現場にいたと聞いているぞ」


ジュウシロウが射抜くような鋭い眼光を向け、低く凄みの利いた声で問い詰める。


「あっ……!」


その指摘に、傍らにいた怜が「しまった」と言わんばかりに露骨に顔を引きつらせた。


「いや、嘘は吐いておらんよ、ジュウシロウ君。

 ……ワシたち小室組が直接手を結び、手引きをした真の黒幕は、マフィアでもカルテルでもない。

 ――かつてこの国の『元公安や自衛隊の残党たち』だ」


「公安の、残党……?」


ジュウシロウの眉が不審に跳ね上がる。


「前崎という狂った男が実権を握り、事実上の無血クーデターを犯してから、この国の大多数の国家公務員は既存の身分をほぼすべて剥奪され、クビになった。

 その大改革の話は、お前さんたちも耳にしているだろう?」


「……あぁ。既得権益を潰して適応できない全員が社会から放逐されたと聞いている。

 それでも一部の警察や公安はまだ温情はあったと聞いていたが……」


「そうだ。

 その解体された組織の中でも、特に過激な思想を持った公安の生き残り数名が、前崎のシステムを物理的に破壊するために動いた。わざわざ公務員という立場を捨ててな。

 奴らは自らの人脈と資金を使い、海外のマフィアやメキシコのカルテルから、軍隊並みの大量の重火器や兵器を買い付けたのだ。

 ――すべては、この日本国内で大規模なテロを起こし、現政権を転覆させるためにな」


「……元は秩序を守る側にいた人間が、テロリストに成り下がったというのか?」


それをいうなら前崎もだが前崎を阻止するために元の公安が翻るとは。


「皮肉なものだな。

だが、その残党どもの思惑に乗じる形で、東京をはじめとする各主要都市で一斉に暴動や襲撃が巻き起こったが……結果は先ほどお前さんたちが見た通りだ。

 その中にはあの前崎と同僚もいたらしい。

 奴らの反逆は、あまりにも呆気なく、無残に蹴散らされたよ。

 総統直轄の自警団(Hound)はともかく、前崎が戦線へ投入した、あの『人型兵器』の前にな」


真帆の言葉に、怜が補足するように重苦しい口調で割り込んできた。


「……前崎が第二次日露戦争で実戦投入した、あの使徒みたいな異形の自律兵器。

 『ペルディータ』と呼ばれている最高峰の殺戮機械っすよ、兄貴」


「ペルディータ……。やはり、あの怪物が相手だったか」


ジュウシロウは、東京のタイムラインを血に染めていた純白と群青、そして紅色の怪物の姿を思い出し、奥歯を噛み締めた。

旧国家の精鋭たる公安の執念すら、前崎の科学力の前には文字通り『玩具』のように粉砕されたのだ。

戦況はあまりにも絶望的と言わざるを得ない。


「事情は概ね理解した。

 ……それで、小室組長。あんたたち小室組は、これからこの混迷の中で何をするつもりなんだ?

 俺たちはただ、前崎の更生施設から脱出するために、怜の持つ『密航ルート』の知識を頼ってここまで来たに過ぎない。

 これ以上の抗争に巻き込まれるのは本意ではない」


「まあ……まずはこれによって国がどう動き、社会のパワーバランスがどう変わるかを静観してからだな。

 焦って動けば、我が組ごとペルディータの錆にされる」


「そうか。ならば方針が決まるまで、俺たちはこの屋敷を出て行った方がいいか?

  厄介者を長居させるのも不都合だろう」


ジュウシロウがそう告げて立ち上がろうとした瞬間、怜が必死の形相で父親の前に割って入った。


「オヤジ! 駄目だ、ジュウシロウの兄貴たちには、絶対にこのままここに残ってもらった方がいい!

  間違いなく、これから前崎の追手やあのペルディータが攻めてきた時、正面から互角以上にやり合える戦闘力を持ってるのは、このジュウシロウの兄貴だけだ!」


真帆は怜の必死の訴えを聞き、ジュウシロウの底知れない肉体の質量と、纏う圧倒的な覇気をじっと見定めた。

やがて、深く得心のいったように頷く。


「……分かった。ならば君たちには、我が小室組の最高待遇の『護衛』として、ここに留まってもらおう。

 それに、先ほど地下室へ隔離した、あの『シュウ』とかいう少年の抱える爆弾(不動明)も、このまま野放しにはできんからな。

 彼を制御できる人間が必要だ」


「……感謝する」


ジュウシロウは真帆の提案を真っ向から受け止め、短く頭を下げた。

ひとまずは、カオリや長谷部を安全な場所に匿う大義名分ができた。


「まあ、堅苦しい挨拶は抜きにしよう。

 まずはゆっくりと旅の疲れを癒やしなさい。

 見るからに、君たちの肉体は限界を超えてボロボロだ。

 我が組の縄張りである以上、前崎の電子の目からも隠し通してやる。

 ここでの安全は、ワシの命に代えても保障しよう」


組長の絶対的な宣言を最後に、大広間での緊迫した対談は静かに幕を閉じた。

戦士たちに、束の間の、しかしひどく危うい休息の時間が訪れようとしていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……すみません。私たちの身内のことで、こんな無理を言ってしまって」


ユーリは申し訳なさそうに眉をひそめ、薄暗い地下廊下の歩調に合わせながら頭を下げた。


「構わんよ。

 あやつの身に馴染んでいた神経外骨格は、ジュウシロウ君の手によってすでに全て剥がしてある。

 どれほど狂暴な人格が目覚めていようとも、生身の少年の筋力だけでは、我が組の特製監禁室を破ることはできん。

 脅威にはならんさ」


小室組の組長・小室真帆は、漆黒の杖で規則正しく床を叩きながら、威厳に満ちた声でユーリを安心させるように告げた。

二人の一歩後ろには、案内役兼護衛として、緊張した面持ちの森川が静かに従っている。


地下へと続く階段を降りるにつれ、空気はひんやりと湿り気を帯び、コンクリートの壁からはかつてここで流された血と硝煙の歴史を物語るような、忌まわしい気配が漂ってきた。

ユーリの華奢な身体が本能的な恐怖で小さく震えたが、それでも彼女はシュウの元へ向かうために、一歩一歩確実な足取りで奥へと進んでいった。


「……見たところ、あのシュウとかいう少年は、君の恋人か?」


前を見据えたまま、真帆がふと静かに問いかけてきた。


「……ええ。まあ、そんなようなものです。

 私が、隣で支えてあげなきゃいけない人ですから」


ユーリは少し照れたように、しかし揺るぎない決意を込めて答えた。

真帆の厳つい口元が、わずかに優しく綻ぶ。


「それはいい。若いということはそれだけで財産だ。

互いを信じ、何があっても大切にしてやれよ」


そんな極道の年長者らしい含蓄のある会話を交わしながら、一同は最も頑強な鉄扉で閉ざされているはずの最奥の監禁室の前へと到着した。


だが、その瞬間に全員の身体が凍りついた。

明らかに様子がおかしい。

頑丈な鋼鉄製の南京錠とレバーハンドルが、内骨格の怪力か何かによって強引にねじ切られ、無残に床へと転がっていたのだ。

扉は不気味に数センチだけ開いている。


「組長……!」


「……ユーリ君、危険だ。ここで私の後ろに隠れて待っていてくれ」


真帆の纏う空気が一瞬でプロのそれへと切り替わり、低く鋭い声で命じた。

同時に、彼は腰に差した愛刀の柄に手をかけ、いつでも抜刀できる構えをとる。

後ろの森川も素早い手つきでアロハシャツの懐から黒光りするピストルを引き抜き、即座に撃鉄を起こした。


真帆が杖を静かに置き、音もなく鉄扉を押し開けて中に踏み込む。


薄暗い監禁室の奥、拘束椅子に縛り付けられているはずのシュウの前に、影が一つ佇んでいた。

その影は、朦朧としているシュウの耳元で、誘惑するような低い声を囁きかけていた。


「……どうだ、お前の中にいる『不動明』。俺と組まないか?」


包帯を顔面にグルグルと巻き付け、異様なオーラを放つその男は、他でもない――横浜港から小室怜たちがトロール漁船に相乗りさせて連れてきた、あの謎の先客『ナオヤ』だった。

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