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【☆5.0万PV】アダルトレジスタンス   作者: オレノマツ
第二章 国家騒乱編

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File:069 進軍

「標的捕捉。エリア5892、ポイントDに設定」


「ターゲット二名を確認。

 衣服の隙間から露出した首元および前腕のタトゥー、データベースの『シカリオ』特有のデザインと完全に一致」


「突入および一斉掃射の準備。カウント開始」


深夜の都会の喧騒の中、数人の『Hound(ハウンド)』たちが、背景の景色を不自然に歪ませる光学迷彩を纏って完全に気配を消していた。

彼らは垂直なビルのコンクリート壁に磁気吸着のアシストで張り付き、獲物の退路を断つように立体的な包囲網を敷いて警戒を続けている。


彼らが冷徹に銃口を向ける対象の場所は、古びた高級ホテル『ザ・コンコルディア』。

かつて小室組が日本へと密輸し、この街の治安を根底から脅かしているメキシコマフィアの残党どもは、確実にこの最上階に潜伏していた。


『――こちらD班、周辺の索敵中に新たな反応を感知。

 二ブロック先のメキシカンバーに、同様の意匠を持つタトゥーを施した不審者三名を発見。

 おそらく本隊の息がかかった仲間と思われる』


Houndの知識・意識共有ネットワークを介し、現場のHoundたちの統一された思考が、個人のタイムラグを排して秒単位で統合されていく。

一人が見た光景は即座に全員の脳内へ高解像度データとして同期され、完璧な立体作戦マップが構築されていった。


『さらに別系統のデータリンクより報告。

 利権を争うロシアンマフィアの別働隊は、付近の総合病院の特別個室を不法に占拠して潜伏中。

 重火器の持ち込みを確認している』


『いつでもいけます。

 一般市民を巻き込まぬよう、作戦領域からの排除および誘導ルートの構築は即座に展開可能。命令を』


青白いモニターが壁一面に光り輝く司令室で、前崎は静かに、しかし絶対的な威圧感を伴って最終判断を下した。


「一人残らず、全員皆殺しだ。

 死体は隠蔽せず、すべてメディアを通して白日の下に晒してやれ。

 この国に不浄な犯罪と暴力の火種を持ち込んだことの代償がどれほど惨めなものか、全世界に公開して教え込んでやるのだ」


『――了解』


一億人の知識を統合したHoundたちの脳内に、総統の冷酷な意思が「絶対の法」として深く刻み込まれた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「シカリオ」


それは、血と硝煙に塗れた麻薬密売人(ナルコ)たちの世界において、生ける最高峰の暗殺部隊として恐れられる存在。

彼らが誇るのは、世界屈指の残虐性と、一切の倫理を排した過激な手口だ。

狙われた標的は肉体だけでなく、その尊厳すらも徹底的に破壊し尽くされる。


彼らの辞書に「見境」という言葉はない。

同業者であろうと、一般市民であろうと、標的の周囲にいる者はすべて等しく肉片へと変えられる。

特に、自分たちの縄張り(ビジネス)に無断で手を伸ばした不届き者に対しては、たとえそれが一国の王であろうと大統領であろうと、容赦なくその首を撥ねて見せしめにしてきた。


「戦争の最大のメリットは、破壊の後に訪れる圧倒的な経済の循環である」

――そう(うそぶ)いたのは、一体どこの武器商人だったか。


日本という極東の島国で今まさに起きている前崎の「革命」。

この混沌の時代は、彼らのような闇の住人にとって、千載一遇の巨大なビジネスチャンスであることは明白だった。


だからこそ、どれほど汚い手を使い、どれほどの死体の山を築こうとも、この日本進出というビジネスを成功させる必要があった。

現地の手先として、ロシアンマフィアの伝手でやり手の男・香川を動かしてみたが、結局は沖縄でアダルトレジスタンスという残党と敵対した。


奴らは前崎総統と敵対していたと聞くが事前の聞いていた情報が話が違う。


だが幸いなことに、メキシコ本国のボスには、まだこの手痛いミスは露見していない。


ならば、ボスに知られる前に、組織の総力を挙げて新たな「果実」を力ずくで奪い返せばいいだけのこと。

せめて、次のビジネスに繋がる決定的なカードだけでも、何としてでもこの手の中に……!!


でなければ、自分たち「ロス・カタス」に未来はない。

香川の失敗の責任を取らされ、全員がドラム缶のコンクリート詰めにされてメキシコ湾へ沈められるだけだ。

いや、まだ母国の海で沈められるだけマシかもしれない。


深夜、高級ホテル『ザ・コンコルディア』の最上階。

冷えたテキーラを煽り、ほろ酔い加減の心地よい酩酊感に浸りながら、これからの反撃計画について同志たちと低く議論を交わしていた、その時だった。


突如として、静まり返ったフロアに獣のような怒号と悲鳴が飛び交った。


激しい咳き込みと共に、視線の先で一人の同志が、白目を剥いて床に崩れ落ち、全身を激しく痙攣させてのたうち回り始めた。

皮膚がみるみるうちに赤黒く変色していく。


「――毒ガスだッ!!」


暗殺者としての生存本能が、彼らの肉体を一瞬で覚醒させた。

ドアから逃げる猶予はないと悟った瞬間、十数人のシカリオたちは一切の躊躇なく、ガラス窓を肉体ごと突き破って夜の虚空へと飛び降りた。


だが、ここは地上三十階。

生身の人間であれば、重力に引かれてアスファルトの染みになるだけの自殺行為。

しかし、彼らは眼下に広がる絶望的な高度など一瞥もせず、懐から引き抜いた強靭なタクティカルナイフを、ビルのコンクリート外壁へと凄まじい力で突き立てた。


ギャァァァァァ――ッ!!!


激しい火花と、耳を聾する金属摩擦音が夜の摩天楼に鳴り響く。

ナイフを制動(ブレーキ)代わりにし、ビルの壁面を削りながら、彼らは凄まじい速度で垂直降下していく。


すぐ横を、他の同志たちも同じように壁を削りながら問題なく降りてくる。

ガスを吸って即死した、あの二人は置いていくしかなかったか。

だが、それ以外の十人は、無傷のまま地上へと着地を果たしたようだった。


どんな状況であれ、睡眠中すらも「神経外骨格」を肉体から外さないという、ロス・カタスの絶対的な鉄のルールが、この極限状態で彼らの命を救う功を奏したのだ。


だが、着地した彼らの顔に安堵の色彩はなかった。

それどころか、全員が息を呑んで周囲の異変を凝視した。


ホテルの敷地周辺を、まるで薄い石鹸の膜のような、歪んだ光の障壁がドーム状に覆い尽くしている。

不審に思った一人が、腰のサブマシンガンを抜いて障壁に向けて引き金を引いた。

だが、放たれた九ミリ弾は、火花を散らして無残に弾き返されるだけだった。


「……電子バリアか」


『その通りだよ。ロス・カタス諸君』


静寂を切り裂いて、冷徹な声が響いた。

バリアの境界線上に、空間を強引にホログラムで切り取ったかのように、青白い光を放つ立体ディスプレイが出現する。

そこに映し出されていたのは、彼らを檻の中のネズミのように見下ろす、総統・前崎の冷酷な双眸だった。


『元々、君たちはメキシコ軍の精鋭部隊出身らしいな。

 道理で並の外グレやヤクザとは、基礎戦闘能力の桁が違うわけだ』


「……」


隊長と呼ばれる男は、無言のまま手元の極太の葉巻を深く吸い込んだ。

バリアに囲まれ、完全に退路を断たれた窮地であるにもかかわらず、その佇まいには微塵の動揺もなかった。


『元特殊部隊『GAFE』所属、アルトゥーロ・ラスカノ。……武装部隊のトップだな?』


「……実によく調べている。

 国際刑事警察機構(インターポール)のデータベースからも、我々の素性は完全に抹消したはずなのだがな」


ラスカノは冷酷な笑みを浮かべ、短くなった葉巻を容赦なくアスファルトへと踏み消した。


『さて。これ以上の無駄な抵抗はやめて、大人しく降伏してもらおうか。

 従わねば、この場でHound(ハウンド)の総力を以て射殺する』


「……」


ラスカノは前崎の脅迫を鼻で笑うように、ただ痒みでも覚えたかのように自然な動作で、己の首筋を軽く引っ掻いた。

だが、それこそが特殊部隊時代から使い込んできた、視線誘導を兼ねた「突撃」のハンドサインだった。


三秒後。

十人のシカリオたちが、一糸乱れぬ神速の統率で同時に動き出した。


『ちっ……!! 往生際の悪い戦闘狂どもめ!!』


ホログラムの向こうで前崎が不快そうに舌を鳴らす。

ラスカノ率いる「ロス・カタス」は、数あるメキシカン・カルテルの中でも屈指の軍隊的戦闘力を誇る。


ラスカノの父親は、かつてメキシコ軍の対ゲリラ精鋭部隊を組織した伝説の軍人だった。

その最先端の戦術と規律をそのまま犯罪組織へと持ち込んだのだから、当時の麻薬戦争において彼らが無双状態となったのは歴史の必然だった。


だが、そんな無敵の軍隊カルテルも、近年台頭してきたテクノロジーを駆使する新気鋭の半グレたちによって、徐々に利権と利益を強奪されつつあった。


ゆえに、失った最盛期の富を、そしてさらなる莫大な利益を追求するために、彼らはこの極東の島国へと海を渡ってきたのだ。

その目的を果たすためであれば、日本の何の罪もない一般市民を捕らえ、残虐な人質()として利用することなど、彼らにとっては息をするよりも容易いビジネスの範疇に過ぎなかった。


『無駄な足掻きだ! この領域は物理・電子双方を遮断する超高出力の多層バリアで囲まれている!

 お前たちが街へ逃げることは絶対に叶わない!!』


前崎の絶対的な宣告。

しかし、闇に紛れて銃を構えたラスカノの反対の手には、前崎にとって「見覚えのある輝き」が握られていた。


『それは……薄明石(インクアノライト)……!?

 いったいどこでそれを!!』


前崎の顔が初めて驚愕と怒りに歪んだ。

それは、かつて前崎がアダルトレジスタンスに国会議事堂を占拠され、強襲するときに用いた、あらゆる電子バリアのエネルギー構造を中和・崩壊させる鉱石。

その質量と表面積が大きければ大きいほど、干渉の効力は幾何級数的(きかきゅうすうてき)に跳ね上がる。


ちなみにその薄明石を精密に削り出し、特殊な弾頭へと加工したものが『抗バリア弾』である。

国家間でしかその製法は基本的に認められていない。


ラスカノが投げた薄明石が光の障壁に激突する。

凄まじい空間の歪みと共に、電子バリアが薄明石の放つ特殊波形と激しく干渉し合い、ガラスが割れるような音を立てて強引にこじ開けられた。

ドーム状の檻に、致命的な「穴」が穿たれる。


「これより虐殺(ジェノサイド)を開始する。――全員をアステカの神への供物にしろ、同志たちよ」


ラスカノの無慈悲な号令と共に、バリアの裂け目から、血に飢えた本物の暗殺者たちが漆黒の夜の街へと一斉に繰り出した。

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