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【☆5.0万PV】アダルトレジスタンス   作者: オレノマツ
第二章 国家騒乱編

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File:047 追手

符宵(フーシャオ)との通信を終えた前崎は、瓦礫の山を越え、自分を狙った下手人の元へと辿り着いていた。


数分前まで行動を共にしていたケン、ジュウシロウ、シュウの三人は、あの不気味なスライム状の怪異の急襲を受け、乱戦の最中に散り散りになっていた。

安易な物理的刺激が連鎖爆発を引き起こし、地形すら変えてしまったのだ。


その下手人は開発区域の開けた場所で待っていた。


硝煙の向こう側、静かに立ち尽くす一人の男の影があった。


「……高宮!!」


「お久しぶりです、前崎さん。

 ……いえ、今は前崎総統と呼ぶべきでしょうか」


高宮は、かつて公安という名の国家の番犬だった頃の面影を微塵も残さず、冷徹な仮面を被っていた。


「貴様が公安を辞めたのは知っている。

 だが、元公安の人間がヤクザやロシアンマフィアと手を組むとはな。

 一体どういう了見だ?」


「……そうですね。強いて言うのであれば『大儀』のためです」


「大儀だと……?」


前崎の低い声に、高宮は薄く笑った。


「かつて貴方が平和記念公園で総理の頭を撃ち抜いた時と同じ理屈ですよ。

 貴方には貴方の、私には私なりの『正義』がある。

 それだけのことです」


「……そうか。ならば問答は無用だな。

 私の正義に従って、ここで貴様を殺して進む」


「できるのであれば、どうぞ」


高宮が静かに告げると同時に、上空で旋回していたヘリコプターから何かが大量に散布された。

先ほどから前崎たちを苦しめている、あのスライム状の怪異だ。


「これは"オキシゲンスライム"と呼ばれる兵器です。

 AIが人間と識別した個体にのみ殺到し、自壊する。

 スライムと呼んではいますが、そこに生物的資源の介在はありません」


降り注ぐ粘液の塊は、なぜか高宮たちの足元へは寄らず、吸い込まれるように前崎へと殺到する。


「もし、貴方がこのオキシゲンスライムを安易に攻撃して刺激すれば、連鎖的な爆発によってこの沖縄という地が地図から消える可能性がありますよ。

 ……そのあたりのリスク、賢明な貴方ならお分かりでしょう?」


高宮は前崎を「人質としての地形」で封じ込め、その場を去ろうとした。

だが、その傲慢な確信は、上空から降り注いだ一閃のレーザー砲によって呆気なく打ち砕かれた。


爆発炎上し、墜落していくヘリコプター。


「……舐めるなよ、高宮。我々の組織の力を」


前崎が見上げる空。

そこには、従来の航空力学を無視した動きを見せる小型戦闘機が滞空していた。

その姿は、まるで他天体から飛来したUFOのようだ。


「貴様の行動を、日本国に対する明確な敵意と認定した。……全員皆殺しだ」


前崎の背後で、陽炎のような輪郭が実体化していく。

透明な空間に光の粒子が収束し、異形の姿が受肉した。


かつてロシアの正規軍を壊滅に追い込んだ、球体関節を数珠繋ぎにしたような長い腕を持つ機械の怪物。

胴体には不気味なほど無数の穴が開き、空気抵抗さえ排除したかのような滑らかな曲線。

その名は――「ペルディータ」。


さらにその傍らには、サクラテレビ襲撃の際に旗艦として君臨した、都市拠点防衛用・陸上重装甲自律戦闘兵器「MARDUK(マルドゥーク)」が、大地を揺るがしながら転送された。


「……その技術だけは、最後まで手に入りませんでしたよ。ホログラム転送装置。

 本当に憎い」


高宮の言葉に、隠しきれない屈辱が滲む。だが、彼はすぐに冷酷な笑みを取り戻した。


「ですが、前崎さん。何故私が貴方をここまで誘導したか、分かりますか?」


「……なんだ?」


「ドームの地下に避難させましたね?

 善良な観客たちを。

 今頃、ロシアンマフィアの精鋭たちがそのシェルターを襲撃しています。

 彼らを救いたいのであれば、今すぐ戻るべきでは?」


「……言いたいことは、それだけか?」


前崎の纏う空気が、一瞬で凍りついた。

それは指導者としての静謐さではなく、一人の破壊者としての剥き出しの殺意だった。


「とりあえず、お前はとっとと死ね」


元部下に対して、かつての前崎であれば決して口にしなかったであろう無機質な絶縁状を突きつけ、異形の兵器たちが駆動音を上げた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ジュウシロウたちは、蠢く粘液の壁――「オキシゲンスライム」の群れに完全に包囲されていた。

しかし、その絶望的な包囲網の中で、ジュウシロウの放った豪打が戦況を簡単にひっくり返す。

彼の鋼のような拳がゾンビの核を真っ向から粉砕した瞬間、懸念されていた連鎖爆発は起こらず、異形はただの無機質な飛沫となって周囲に霧散したのだった。


「なるほどな。高エネルギー反応や過度な熱量こそが起爆のトリガーというわけか。

 純粋な物理衝撃による破壊であれば、この揮発性の塊もただの脆い肉塊に過ぎん」


ジュウシロウが自身の拳に付着した粘液を冷徹に見つめ、分析を下す。

一方で、エネルギー系の武装を主力とするシュウは、苦々しく舌打ちをした。


「……チッ、それに気づくのが遅れたせいで前崎を逃がした。

 俺もハイテクばかりに頼らず、原始的なナイフの一本くらいは常備しておくべきだったか」


「検討の余地はありますね。エネルギーが切れた際にも生存率を分けることもありますから」


ケンが前衛で冷静に応じる。

一行はケンを先頭に、警戒を最大に引き上げながらフロアを進んだ。


ケンが斥候を務めるのは、その卓越した機動力もさることながら、敵の主目的がシュウである可能性が高いという判断からだ。

ロシアンマフィアや小室組が、シュウの首に懸けられた莫大な賞金を狙っているのは明白だった。


しかし、皮肉にもその賞金首指定が前崎によってすでに解除されているという事実を本人たちも追っ手側の誰もがまだ知らなかった。


やがて、前進を続けていたケンの足が、鋭い制止の合図と共に止まった。

眼前に立ちはだかっていたのは、異形のスライムではなく一人の「人間」だった。

しかし、その男が纏う空気は、周囲の地獄絵図とはあまりに乖離していた。


「……君たちが、かつて名を馳せた『アダルトレジスタンス』の元メンバー、ということで相違ないかな?」


男は中肉中背、どこにでもいる中年の風貌をしていた。

鮮やかな色彩のアロハシャツを羽織り、足元はラフなサンダル履き、戦場にはおよそ不釣り合いな、バカンスの途中のような装いだった。


「……何者だ、あんた」


ジュウシロウが前へ出、全身の神経を研ぎ澄ませて問いかけた。

正直、大したことある人間に見えない。

だが、何か引っかかるものを感じる。

なんといえば、安直に攻めれば空いた虎の口に入るような……そんな感覚だ。


「ああ、失礼。名乗るのが遅れたね。私は香川という。

 ロシアンマフィア極東支部の差配役、と言えば通りがいいかな」


「……この騒動の首謀者か」


「まあ、大枠ではその認識で合っているよ。

 さて、優秀な君たちに、ひとつ建設的な提案をしたい」


香川は屈託のない笑みを浮かべ、まるで古い友人に声をかけるような軽やかさで言った。


「どうだろう?無意味なことはやめて、我々と共に来ないか?」

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