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【☆5.0万PV】アダルトレジスタンス   作者: オレノマツ
第二章 国家騒乱編

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File:045 鳳栄重機建設の副産物

違法エネルギー生成という闇の領域において、その頂点に君臨していたのが「鳳栄重機建設」である。


日本の電気代は他の国と比較しても上位の高さである。

相次ぐ巨大地震に伴う老朽配管の更新費用、そしてフクシマの事故と国民感情に対しての厳格な規制と利権によりクリーンな再稼働が進まない原子力発電所。

それに加えた爆発的な円のインフレーション。

そのツケは、世界最高水準の電気・ガス・水道料金という形で国民に重くのしかかっていた。


この「エネルギー格差」に目を付けたのが、既存のシノギを失った裏社会の組織だった。

マスメディアが国の検閲下に入り、警察の監視網によって薬物や買春といった伝統的な犯罪が立ち行かなくなった今、ヤクザが最後に辿り着いた新たなフロンティア。

それが「小型モジュール炉(SMR)」の闇構築である。


彼らが開発したのは、わずか畳一畳ほどのスペースに設置可能な超小型核反応炉。

2020年代半ば、近畿大学の原子力研究所が先駆的に取り組んでいた「マイクロカプセル型燃料」の理論を、鳳栄重機建設が雇った海外の技術ハッカーを使い盗用・歪曲させたものだ。


彼らは限界集落や、過疎化により国に見捨てられた地方の村々に「格安の独自送電網」を提供。

表向きは「地域密着型の再生エネルギー事業」を標榜しつつ、その地下には鉛とコンクリートで固められた粗悪な原子炉が唸りを上げていた。

国に依存しない「エネルギーの独立」は、貧困にあえぐ地方自治体にとって悪魔の誘いとなった。


しかし、無許可の核燃料保有とずさんな汚染管理は、国家の安全保障を根底から揺るがす。

数十名におよぶ「鳳栄重機建設」の幹部やヤクザが、国家公安委員会の電撃的な一斉摘発によって収監されるまで、彼らは莫大な利益を上げ続けた。


銀次という男は、そのエネルギー革命が産み落とした、最も残酷な副作用である。

不動産業者が二束三文で買い叩いた田舎の土地。

そこには、鳳栄重機の実験場が点在していた。


借金によるずさんな遮蔽下での作業、繰り返される高線量の被曝。

彼の肉体は細胞レベルで崩壊し、20代にして全身を末期癌に侵された。

幸運にも脳への転移だけは免れたが、医学的に死を待つだけの彼に残された選択肢は、不動産業者が提供した「全身置換」という名の非人道的な人体実験のみであった。


機械の体を得たことで、銀次は「人間」としての機能を次々と喪失していった。

人工的な栄養液によって駆動される体には食欲もなく、ホルモンバランスという概念を失った脳に性欲は湧かない。

睡眠すらも単なる「メモリの断片化解消」という処理に成り下がった。


残されたのは欲求は、過剰なまでに研ぎ澄まされた神経がもたらす、戦闘中の「脳内物質のスパーク」のみ。

彼は自らを、旧時代のエネルギー会社とヤクザが作り上げた「燃えカスの怪物」と自嘲した。


その後、小室組と共謀して起こした「警察機構襲撃事件」。

法の番人たちが、一発の銃声で沈む自分たちの「脆弱な正義」に怯える中、銀次は数千発の弾丸を装甲で弾き、高周波ブレードで警視庁の特殊部隊を紙細工のように切り裂いた。


一騎当千。

その圧倒的な武威は、皮肉にも彼が「人間を辞めた」ことでしか得られなかったものだった。


それがサイボーグ銀次の歴史である。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あのニュースは当時、日本中を震撼させたぜ。

 ……まさか、その『核を背負った亡霊』が目の前にいるとはな。

 組織の鉄砲玉どもは軒並み豚箱に送られたが、研究者や地主どもは、尻尾を切って地下へ潜ったまま。

 ……そういうことか」


「えぇ、よく覚えておられましたね」


銀次の黄金色の瞳が、冷徹な肯定を返す。

坂上は苦い唾を飲み込んだ。


「で……その「不純な革命」の完成形が、その胸のコアってわけだ。

 畳一畳どころか、大男の胸に収まるサイズの原子力プラント……。

 冗談じゃねぇ。

 お前、自分が歩く核兵器だって自覚はあるのか?」


「自覚はありますよ。

 だからこそ、公権力は私を殺せなかった。

 不用意に触れれば、半径数キロが死の土地に変わりますからね。

 ……おまけに、このコアが生み出すエネルギーはチャージも、そして暴走も自在なのですから」


だが聞きながらもふと疑問が過ぎる。


(そんなバケモノを、公安の連中はどうやって捕まえたんだ……?

 今さらあいつらの処理能力の高さに感心する日が来るとはな。

 あっちはあっちで仕事をちゃんとやっているのか)


坂上は思考の隅で毒づく。


(待て。だが、現にこいつは死に場所を求めてきた。

 ならばその弱点は……そうか……!!)


答えは明白だった。

エネルギーの効率がどんなに良くてもそれを維持する装置は永久ではない。


銀次というシステムを維持するためのサプライチェーン――技術者、医療設備、専用パーツ。

つまりはメンテナンスができない。

それらが前崎政権によって断たれた今、彼は補給のない戦艦も同然だ。


「……なるほどな。

 力でお前を屈服させるより、お前を支える不動産屋や技術者を先に潰す方が、よっぽど賢いやり方だったってわけだ。

 何せそいつらが軒並み逮捕された後に出てきたんだからな」


「その通り。返す言葉もありません。

 私は偶々あったスペアで生きているだけですので。

 ……さて。お喋りで稼いだ休憩時間は、そろそろお終いですか?」


「ッ、クソ……。バレてたかよ」


坂上は愛用のナイフを握り直し、一歩、前に出る。

だが見つけた。奴の「欠陥」を。

バレれば即死。チャンスは一度きり。

やるしかない。


坂上は、これまでのヒットアンドアウェイを捨て、弾丸のような初速で正面から突っ込んだ。


「――愚策を!」


これまでの坂上の慎重な動きとは明らかに異なる、無謀とも言える突進。

銀次は不信感を抱きつつも、迎撃のために高周波ブレードを横一閃に薙ぎ払う。


だが、坂上はその一撃を、空中で体を捻る不自然な挙動で見切って躱した。

あろうことか、そのまま銀次の無機質な胴体へと死に物狂いで飛びつく。


「ぐっ!? 何を……引き剥がせ、このっ!!」


「離すかよ……! !」


坂上の神経外骨格が、断末魔のような唸りを上げ、猛烈な熱を放ち始める。

リミッター解除。

出力100%を突破し、フレームが軋みを上げ、回路が焼き切れる寸前まで上昇し続ける。

それだけではない。出力がさらに上がっていく。


120%。オーバーリミット。


「……いけぇッ!!」


銀次がその怪力で坂上を振り払おうとするが、全出力を固定(ホールド)に回した外骨格は、岩のようにビクともしない。

坂上は自身の足を銀次の腕に絡め、自由を奪う。


しかし。坂上は、その「絡めた足」を、あえて無防備に放した。

絶好の機会。銀次がその一瞬の隙を逃さず、死の刀を振るおうとした刹那――。


坂上はその腕を、両手で、万力のような力で掴んだ。

勢いを殺すのではない。

ベクトルの向きを、銀次の「内側」へと強制的に変換する。


柔の理と、外骨格の暴力的なトルク。

死を運ぶ高周波の刃が、銀次自身の腹部へと、吸い込まれるように突き立てられた。


「なっ!!」


銀次が驚愕に目を見開く。

自らが展開していた最強の電磁バリアが、同じ波長を持つ自らの刃によって呆気なく貫通され、鋼の腹を貫く。


直後。


高周波ブレードの破壊的共振エネルギーと、剥き出しになった原子力コアが、物理学の禁忌を起こした。


「……あばよ、銀次!!」


坂上がその身を投げ出すように離脱した瞬間、ドームの中心で太陽が生まれた。

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