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【☆3.7万PV】アダルトレジスタンス   作者: オレノマツ
第二章 国家騒乱編
156/162

File:034 第2回戦②

「ハァ……ッ、ハァ……、ハァ……ッ!!」


装甲が四散する直前、強制脱出シーケンスによってフィールドへ放り出されたエルマーは、膝をついたまま激しく喘いでいた。

身体的なダメージよりも、精神なダメージが自分の中で受け止められなかった。


絶対的な優位。

圧倒的な物量。

そのすべてが、たった数合――ジュウシロウが肉薄した瞬間に、砂上の楼閣のごとく崩壊した。


(……考えろ……考えろ!! なぜだ!?

 僕の計算では、あの旧型モデルで「Λcellion」を貫くことは不可能だったはずだ!!

いや、検証は後だ。

 今は、今この瞬間をどう生き延びる!?)


巻き上がる土煙を遮蔽(カーテン)にし、エルマーは極限まで姿勢を低くして移動を開始した。

子供のような小柄な体躯が、皮肉にもこの極限状況での隠密性を助けている。


だが、視界の利かない灰色の闇の中、エルマーの額が「何か」にぶつかった。


「……ッ!? ウ、ウワァァァァァァァッ!!!」


ジュウシロウだ。

予め周り込んでいた。


反射。

それは対ジュウシロウ用に最も角度のいい効率で放たれる蹴りをプログラミングしたもの。

兵士ではないエルマーにとって、鍛えるよりも無理矢理神経外骨格で動かした方が効果的だった。。


最短距離を貫いたエルマーの足先が、眼前の影の「頭部」を正確に捉えた。

その瞬間、エルマーは勝ったと確信した。

神経外骨格の補助を受けた一撃は、並の人間なら首の骨を容易に粉砕するはずだったからだ。


だが――足先から伝わってきた感触は、生物のそれとは断じて異なっていた。


「……え?」


皮膚の感触ではない。かといって、金属の硬さでもない。

衝撃はすべて無機質な「何か」に吸い込まれ、ジュウシロウの首は微動だにしていなかった。


「な……なんだよ、なんだよこれ!!

 意味が分からない!! お前、一体なんなんだよ……!?」


「なんだ。忘れたのか、エルマー。

 ジュウシロウだ」


土煙を割って、死神のような足取りでジュウシロウが迫る。


「四年間、何もしなかったと言ったな。

 ……これが、地獄で積み上げた成果の一つだ」


見覚えのある高周波ブレードがジュウシロウの手にあった。

慌てて腰のホルスターに触れる。


「なっ!?いつの間に!?」


「隙だらけだったんでもらったぞ」


ジュウシロウは無造作に、ナイフを自身の剥き出しの腕の関節部分に突き立てた。

エルマーに見せるように。

キィィィィィン、という不快な金属音と共に、特殊合金の刃が砕け散り、破片がフィールドに散る。


「俺の皮膚は、ゾウの皮どころか、この世のあらゆる生物を超越した"硬度"を備えている。

 ……いや、理屈が違うな。

 奴らは角質だからな。

 真に異なるのは、電磁バリアとの"親和性"だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ……今の俺なら、ミサイルでも素手で受け止められる。

 今でも理屈はよくわかっていないがな」


「な……どこで、そんな化け物じみた技術を……!」


「アレイスターの元研究所だ。

 四年前、俺たちは死んだ直後、そこへ転送された。

 なぜか、俺たちのバックアップだけがそこに保管されていたんだ」


ジュウシロウが静かに目を瞑る。


「そこでは、俺たちのクローンの肉体だけを使い、生物的な変異の限界を目指す実験が繰り返されていた。

 成功例は、たまたま俺とシュウだけのようだったかな。

 どうやらアレイスターは本気で世界最強の兵隊を作るために行動していたようだ。

 超人計画という名だったよ」


「そんな……そんなことが、あり得るのか……?」


エルマーの顔から血の気が引いていく。

合理主義の彼にとって、その光景は地獄以外の何物でもなかった。

人類の進化を超えている。


「お前の技術では、あのアレイスターの狂気にすら届かなかったということだ。

 筋肉量も骨密度も、生半可な人間を辞めた。

 ……今の俺は、文字通りの”人類最強”だ。

 エルマー。俺の質量は何㎏だと思う?」


太い指が、エルマーの首を万力のように掴み上げる。


「さて、エルマー。聞かせてもらおうか。

 アダルトレジスタンス壊滅後の”真実”を。

 ……お前の回答次第では、一番痛みのない方法でリタイアさせてやる」


冷徹な赤いエネルギーが、ジュウシロウの瞳の中で静かに燃えていた。


万力のような指が、少年の細い喉を容赦なく締め上げる。

生かさず、殺さず。

ジュウシロウの冷徹な握力は、エルマーから思考の余裕を奪い去っていった。


(……判断を、間違えた。

 いっそこのまま、リタイアしてしまおうか……)


朦朧とする意識の中で、エルマーの脳裏に過去の断片がフラッシュバックする。

SG襲撃時の散弾銃で身体を穴だらけにされた時の、焼けるような痛み。

それ以上に、総統・前崎に反逆の意志を示した瞬間に味わわされた、筆舌に尽くしがたい「恐怖」。

思い出すだけで胃の腑がせり上がる。


(……いや、嫌だ。あんな思いは、二度と御免だ。

 効率だの、天才の称号だの、そんなものはもういい。

 ……勝ちたい。ただ、こいつにだけは、何をしてでも勝ってやる!)


エルマーの濁っていた瞳に、ギラリとした野生の光が宿る。


(諦めたわけじゃなさそうだな)


その瞬間、ジュウシロウの背筋に冷たい震えが走った。

本能が「殺せ」と警鐘を鳴らす。

反射的にエルマーの首を握りつぶそうとした、その刹那だった。


手応えが消えた。

ジュウシロウの指が掴んだのは、実体のない残像。

代わりに目の前に現れたのは、先ほど粉砕したはずのProto(プロト)Λcellion(アセトリオン)

それもまったくの無傷状態である。

さらにコアの暴走を伴う最大出力の「発射待機状態」にある爆弾そのものだった。


ゼロ距離。回避不能。


「――しまっ……!?」


超火炎(スーパーフレア)電磁砲(レールガン)


爆音すら追い越す光の奔流。

至近距離で解き放たれた熱量は、フィールドの酸素を一瞬で焼き尽くし、真空の爆ぜる衝撃波が周囲を蹂躙する。

観客席の防護バリアが悲鳴を上げ、その余波だけで、再び数人の観客が衝撃で意識を失った。


流石のジュウシロウとて、無傷ではいられない。

全身の皮膚が焼け爛れ、赤い蒸気が噴き出す。

だが、常人なら即死するそのダメージも、細胞レベルで結合した電磁バリアの「保護修復機能」が強制的に上書きしていく。

疑似的な皮膚が形成され、機能不全に陥りかけた筋肉が再び脈動を始めた。


(どこだ……!? どこへ消えた!?)


目の前の機体は完全に沈黙している。

爆発前に拳を放ち、コアを直接叩き潰されたのだ、再生は不可能なはず。

それに先ほどの機体もコアを確実に破壊した。


(どうなっている!?)


ジュウシロウは立ち止まることを拒絶し、不規則な軌道を描きながら移動を開始した。


しかし、そこに待ち構えていたのは、砂塵の向こうから現れた「三台目」のProto(プロト)Λcellion(アセトリオン)に乗り込んだエルマーだった。


『……さ、三台目ぇぇぇ!? 一体、どこから沸いて出たんだ!?』


スピットファイアが絶叫を上げる中、エルマーは加速。

通り抜けざま、高周波ブレードをジュウシロウの「眼球」一点へと突き刺す軌道で肉薄した。


「ぐっ……!!」


ジュウシロウは迷わず首を傾け、それを回避する。


『……今、ジュウシロウ君が「躱しました」ね』


『ああ!! 流石のアンブレイカブルも、今の熱線でガタがきてるのか!?』


『……いえ、そういうことですか。なるほど、エルマー君……』


『なんだよ! 勿体ぶらずに言えよ、副総統サマよぉ!!』


『エルマー君は、先ほどから執拗にジュウシロウ君の「目」だけを狙っています。

 ジュウシロウ君の肉体は、神経外骨格と変異細胞の相乗効果で、関節すらも鋼鉄以上の硬度を誇る。

 ですが、最も脆い粘膜の塊である「目」だけは、バリアを透過しなければ外界を視認できません。

 バリアも比較的薄くなります。

 そこが唯一の急所だと、彼は即座に結論付けたのでしょう』


『……それ、戦いの定石じゃねーのか?』


『彼ほどの技術者がそんなこと考えませんよ。

 開幕一撃で決めようとした合理主義者の彼が、泥臭く「急所」を狙い始めた……。

 どうやら彼は、プライドを捨てて本気で勝ちにきたようですね』


ジュウシロウが顔を険しくし、エルマーへと向き直る。


「……三台目のProto(プロト)Λcellion(アセトリオン)だと。

 身に着けていたもの以外は禁止のはずだ。

 どこから取り出しやがった。

 外部からのホログラム転送は禁止だろうが」


『……あぁ、これ? 君がちんたら入場している間に、地中にあらかじめ埋め込んでおいたんだよ。

 プログラムした合図一つで組み立てと、特定の位置への「場所の入れ替え」が行われるようにね。

 ……まあ、これが最後の一機だけど。』


背後で大きな装置が派手な火花を散らし、ショートした。

どうやら、ジュウシロウの手の中からエルマーの身を入れ替えたのは、その使い捨ての転送装置だったようだ。


「……使い捨ての転送システムか。

 しかも近距離専用の。

 地中に埋める手間も含め、随分な執念だな」


「エネルギーを莫大に喰うのが難点だけどね。

 この一瞬の転送だけで、原子力発電所10個分の一日の電力を使い切ったよ」


エルマーが、歪な笑みを浮かべた。

冷徹な計算機だった頃の彼にはあり得なかった、人間味のある、それでいて狂気を帯びた笑い。


「僕、メタトロン受けたんだ」


突然の告白にジュウシロウが動揺する。


「……一体、誰の記憶を喰った?」


ジュウシロウの低い問いに、エルマーは薄く笑った。その瞳の奥で、不気味な紅い光が脈動している。


「……グリーンベレーの退役軍人さ。

 彼から”アンコンベンショナル・ウォーフェア”の真髄を学ばせてもらったよ」


「なんだそれは。聞き慣れない単語だな」


「非正規戦……あるいは不正規戦。

 技術者が作った兵器を、ただ正面からぶつけるんじゃない。

 インフラ、経済、そして心理戦。

 あらゆる物事に「毒」を流し込み、システムそのものを内側から崩壊させるノウハウさ。

 要するに応用を極端に利かせるために兵器の知恵さ。

 ……なるほどね。前崎が僕に求めていたのは、こういうことだったんだ」


エルマーの瞳が、血のような赤色に染まりきる。


「……完全に消化できているわけではなさそうだな。

 意識が混濁しているぞ」


「うん。まだ部分的だよ。

 でも自分を失うほど完璧じゃない。

 だからその分だけ知識を効率よく盗み取れる

 シュウとは違って」


その言葉にジュウシロウは眉が吊り上げる。


「……そうか。で、あくまで俺に勝つ気なんだな?」


「もちろんだよ。

 殺せないシステムはあっても、死の恐怖を味わわせることはできる。

 ……思い知らせてあげるよ、ジュウシロウ。

 僕が4年間何をしてきたのか!」


Proto(プロト)Λcellion(アセトリオン)の装甲が再び展開し、今度は先ほどを倍する四十機のEAが戦場に放たれた。

振り出しに戻った戦場。

だが、エルマーの仕掛け方は先ほどとは根本的に異なっていた。


ジュウシロウを中心に、Proto(プロト)Λcellion(アセトリオン)が残像を残すほどの速度で円を描き、旋回を開始する。

四十機のEAが放つ銃弾は、ミリ単位の精度でジュウシロウの「眼球」のみを執拗に狙い撃つ。


(小癪な……。だが、顔面に電磁シールドを集中すれば済む話だ)


ジュウシロウが防御を固めた、その刹那。

Proto(プロト)Λcellion(アセトリオン)のカノン砲から、地を這うような低高度レーザーが薙ぎ払われた。

それはバリアの薄い「足元」――神経外骨格の膝関節をピンポイントで焼灼していく。


「足かッ!!」


「逃がさないよ」


機動力が奪われ、足元が崩れる。

顔面に意識を集中させれば足を削られ、足を庇えば目を抜かれる。

エルマーの攻撃は、ジュウシロウの鉄壁の防御に、回復が追いつかないほどの「穴」を空けていく。


『おーっとォ!!

 死地から舞い戻ったエルマーが、今度はジュウシロウを完全に翻弄しているッ!!

信じられねぇ、さっきまでの計算機野郎とは別人のような動きだッ!!』


『……ようやく「頭」を使って戦い始めましたね。

 上下の打ち分け、火力の一点集中と分散の使い分け……。

 対人戦闘の基本を、極めて高い次元で実行しています』


『追い詰められて覚醒したってのか!?』


『いえ、素直に勝つための合理性に魂を売っただけでしょう。

 勝つために自分が今、何をすべきか。

 それを考えることこそが戦術です。

 「やられた、負ける」と嘆くのは凡夫の思考。

 「やられた、なら次はどう勝つか」を瞬時に導き出すのがエルマー君の本質。

 彼は手段の多さだけでいうのであればピカイチです。

 そして相手の光を消す。

 ……まるで、逃げ場のない詰将棋のようです』


『詰将棋……。だが、あいつがこのまま黙って投了するとは思えねぇ!

 ジュウシロウ、どうする!?

 このままハチの巣にされて終わっちまうのか!?』


降り注ぐ弾丸の嵐の中、ジュウシロウはガードを固めたまま、静かに思考の海に沈んでいた。


(……認めよう、エルマー。お前は強い)


前崎の元で、アダルトレジスタンスの実績をぶら下げてぬくぬくと生きているだけかと思った。

俺たちのことなど忘れて。


だが、アイツにはアイツなりの、この四年間を生き抜くための地獄があったのだ。

でなければ、こんな神経外骨格殺しの戦法など考えもしなかっただろう。


それにアイツは負けてもいいのに勝ちに来ている。

この殺気の重さがその証拠だ。

ならば。自分も、それに相応しい「最大」で応えるのが礼儀だろう。


「……『フルオフェンスモード』、起動」


『了解しました、ボス。リミッター解除。

 フルオフェンスモード、シーケンス開始。』


ジュウシロウの全身から、重装歩兵としての分厚い装甲が、まるで脱皮するように次々と剥がれ落ちていく。

その装甲からがエネルギーすべてを放出し、固定バリアとしてジュウシロウを守る。

これまでの電磁バリアの中で最も固い。


「だったら……これでぶち抜く!!

 『超電磁砲(レールガン)』!!」


エルマーが最後の一撃を構える。

今回は広範囲の焼灼を捨て、全エネルギーを一線に絞り込んだ。

貫通力を極限まで高めた光の針。


そもそもレールガンは貫通力を高めたものである。

広範囲を狙うために弾頭に「三エチルアルミニウム(TEA)」のような、空気に触れた瞬間に猛烈に燃え上がる自己発火性物質を充填をしたエルマーのオリジナルの使い方である。


だからこそ貫通力で見るのであればこっちの方が上だ。


(これでバリアをぶち抜き、その目から脳漿ごと抉り取ってやる!)


「――FIRE!!」


先ほどとは比較にならない密度を誇る、極細の熱線。

だが、ジュウシロウはそれを、目にも留まらぬ踏み込みで回避した。


「……!? 消えた……!?」


次の瞬間、ジュウシロウはエルマーの背後へと回り込んでいた。

振り抜かれる巨拳。

エルマーは見た。

ジュウシロウが踏み込んだ瞬間の地面が、クレーター状に陥没し、スタジアムの床が悲鳴を上げているのを。


「――『エアブロウ』」


拳が、直接Proto(プロト)Λcellion(アセトリオン)に触れることはなかった。

だが、放たれた衝撃の「塊」は、拡張装甲を内側から爆ぜさせ、エルマーの肉体を爆散させるほどの圧力を生んだ。

それだけではない。

フィールドを覆っていた「絶対に破壊不可能」なはずの全方位電磁バリアに、蜘蛛の巣状の巨大な(ひび)が走った。


ドォォォォォォォォォォォォンッ!!


一瞬の静寂の後、雷鳴のような轟音がスタジアムを支配した。

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