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【☆3.7万PV】アダルトレジスタンス   作者: オレノマツ
第二章 国家騒乱編
154/163

File:032 第1回戦 リザルト

『激戦ッ!! 激戦だァァァッ!!

誰もが坂上の銃弾で幕が降りると思ったこの試合!!

まさか、まさかの逆転に次ぐ再逆転劇!!

勝者は日本が誇る最強の自衛官、坂上真司だァァァーーーー!!!』


スタジアムを埋め尽くす地鳴りのような咆哮。

観衆の絶叫が鼓膜を震わせ、大気を熱く爆ぜさせる。

巨大スクリーンには、決着の瞬間がスローモーションで映し出されていた。

煙幕の中、坂上がどのような軌跡を描いたのか。

光学迷彩に隠されていた彼の動きが、システムによって赤いワイヤーフレームで可視化され、その異常な戦術が白日の下にさらされる。


「クッソ……!! ハァ……、ハァ……!!」


荒い呼吸を繰り返し、坂上はその場に糸が切れたように倒れ込んだ。

文字通り、薄氷を踏むような賭けに勝ったのだ。


なぜ、あの絶望的な状況から勝てたのか。

それは、追い詰められた場所が「壁際」だったから。

そして、ケンに肉薄する前にこのフィールドの本質を「検証」し終えていたからだ。

このバトルフィールドを囲う虹色のバリア。

一見するとシャボン玉のような薄膜だが、その実態は何兆ものエネルギーの編み目が極限まで密に編み込まれた「絶対境界」だった。

坂上にとって、その理論などどうでもよかった。

確かめたかったのは、ただ一点。その「硬度」だ。


手榴弾で自爆を試みた直後、彼は四十五口径のリボルバーをわざと至近距離のバリアへ叩き込んだ。

コツン、という乾いた音と共に、鋼鉄の弾丸がその場でぺしゃんこに潰れ、跳弾となって転がった。

内部からの演算干渉を一切受け付けない「絶対の壁」。

ならば、使い道はある。


坂上は煙幕の中で、背後の角を反復横跳びの要領で駆け上がった。

重力制御を無視した外骨格の出力を全開にし、天井付近まで一気に上昇。

そして、そこからバリアの壁面を力任せに蹴り飛ばし、自由落下の加速を乗せた「人間衛星」となってケン目掛けて激突したのだ。


奴は、煙の中で坂上が”地を這って”襲ってくると確信していた。

なぜなら煙は高い所へ向かっていくから。

だからこそ坂上は、ケンが潜んでいるであろう角以外の全域に煙幕を投げ、奴がいない2点に向けて、残された手榴弾をすべて投げうった。

誘導した上でそこにしか奴がいないと踏んで。


激突の瞬間、坂上の脚部は全衝撃を吸収し、神経外骨格のフレームは歪み、中の骨には無数のヒビが入った。

だが、頭にナイフが突き刺さった状態でなおも抵抗しようとする獣のような生命力に戦慄し、焦って坂上は折れた足でさらに奴を蹴り飛ばして距離を置いた。

その際、完全に骨が折れる鈍い感触があった。

自分が冷静になるのを忘れるぐらいのやり取りだったようだ。


「……本当に治るんだろうな、これ……」


大の字になり、虚空を見つめる坂上の視界が、次第に黄金のような緑色の光に包まれる。

すると、焼けるような痛みが引き、代わりに得体の知れない快感が全身を巡り始めた。

全身のケガが「逆再生」のように修復されていく。

焼け爛れた皮膚が瑞々しく再生し、砕けた骨がカチリと音を立てて繋がる。


皮膚だけではない。装備もだ。

使い終わった手榴弾までも使ってなかったかのように元通りになっていく。

これが、このフィールドに実装された「神の領域」の技術。

坂上も目の前で見た以上は信じざるを得ない。


「こんなことが現実に……。

 これがあれば、戦闘訓練のレベルが格段に跳ね上がるだろ。

 前崎の奴が目指していたのは、これを利用した軍事革命だったのか……?」


「そんな、便利なものではないですよ」


不意に声をかけてきたのは、猿の仮面を外し、素顔を晒したケンだった。

その瞳には、敗北の悔しさよりも、どこか冷めた知性が宿っている。


「民間人が安易にこれを使えば、自傷行為の果てに回復の快楽に溺れる『回復中毒者』を生む恐れがある。

 リストカットのようにね。

それに、恐怖を完全に忘却した兵士など、運用する側からすれば壊れた機械と同じで、怖くて仕方がありませんよ」


「……そうか。そりゃそうだな」


坂上は身を起こし、完全に完治した自分の手を見つめた。


「それ以上に、前崎総統とやらはもっと恐ろしい、冒涜的なことを考えているはずですがね」


ケンの言葉に、坂上は沈黙した。

自分は前崎の「最強の盾」としてここにいるが、そのボスの行く道を自分は何一つ知らない。


「負けました。またリベンジをお願いしますよ。

 今度は……本物の戦場で」


「……勘弁してくれ。俺はもう四十過ぎだ。

 若者の成長には付き合いきれん」


「年齢など、神経外骨格の出力を上げれば関係ないでしょう?」


「やめてくれ、身体がついていけない」


坂上の苦笑いに、ケンは真剣な眼差しを向けた。


「……坂上さん。

 貴方は、心の底からあの男を信じてはいないでしょう?」


「…………まあな」


「もし、こちら側に来ることがあれば、いつでも歓迎します。

 貴方のような戦力は、そちらにふさわしくないですよ」


「ハッ!! それだけはねぇな。

 払い続けた年金を受け取らなくちゃならねぇ」


互いの手のひらに残る、死の淵を覗き込んだ者同士にしか分からぬ冷徹な熱。

指先が触れ合うだけの短い握手を交わし、二人の戦士はそれぞれの陣営へと背を向けた。


『見てくれよ、この光景!

 死闘を演じた二人が今、無言の握手を交わして戻っていく!!

 これぞ新時代のスポーツマンシップってやつだぜ!!

戦い方そのものは反吐が出るほどえげつねぇが、この幕引きは最高にスッキリしやがる!!

  改めて、人間を辞めた化物染みた戦いを見せてくれた二人の超人に、惜しみない拍手をォォォ!!』


スピットファイアの煽りに呼応し、スタジアムはスコールのような、地鳴りさえ伴う拍手喝采に包まれた。

数万人の熱狂が物理的な圧力となってドーム内を旋回し、空気を熱く焦がしていく。


だが、その狂乱をモニター越しに眺めていたシュウの瞳は、絶対零度まで冷え切っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「情っさけねえな、ケン。

 あそこまで追い詰めといて、最後はあのザマかよ」


控室の重い静寂を切り裂いたのは、シュウの苛立ちの混じった声だった。

モニターに映る「敗北」の文字を睨みつけ、彼は舌打ちを隠そうともしない。


「……面目ありません」


外していた猿の仮面を着けなおす。


「よせ、シュウ。ケンを責めるのは筋違いだ。

 ……ただ、相手が一枚上手だった。

 それだけのことだ」


ジュウシロウが、重厚な金属音を立てて立ち上がった。

全身に纏った重装甲の神経外骨格が、彼の動きに合わせて低く、力強い駆動音を奏でる。


「……戦場でも同じことが言えるのかよ、ジュウシロウさん」


「いいや。だが奴も言っていただろう?

 これは”運動会”だ。

 まずは無事に、そして精神的な欠損もなく戻れたことを喜ぶべきだ。

 本番の殺し合いは、また別の場所でやればいい」


「……ちっ。まあ、そうだな。

 だが、負けっぱなしってのは性に合わねえ」


シュウが拳を壁に叩きつける。

その瞳に宿る飢えたような闘争心を見て、ジュウシロウは静かに首を振った。


「わかっている。……だから、次は俺が行く」


「あぁん? なんだよ。トリは前崎だろ?

 いいのか。俺がやっても」


「シュウ、お前に譲ってやるよ。

 大将の首も、十億の報酬金もやがてな。

 ……俺にはそれ以上に、確かめなきゃならないことがある」


ジュウシロウの視線が、モニターの端に映る日本側の控室――そこに入っていく小さな背中、エルマーへと向けられた。


「確かめたいこと……?」


「ああ。なぜ、あいつが『あちら側』に付いたのか。

 その真意を、直接この拳で聞き出す」


その時、壁のスピーカーから無機質な運営の呼び出し音が鳴った。

第二試合の開始を告げる合図だ。


「……行ってくる」


ジュウシロウは一言だけ残し、重厚な足音を響かせながら控室を去っていった。

その背中は、かつての仲間を断罪しようとする執行官のようでもあり、迷子を連れ戻しに行こうとする兄のようでもあった。


扉が閉まると、シュウはソファに深く沈み込み、ケンの隣に腰を下ろした。


「……シュウ殿。ジュウシロウ殿は、勝てるでしょうか」


「勝つだろ。そりゃあな、地力の違いってやつをあいつは見せつけてくれるはずだ。

 ……だが、不気味なのはエルマーだ。

 あいつ、前崎に毒でも盛られたのか、それとも本気であっちに染まったのか」


シュウの瞳が、モニター越しにフィールドを睨む。


「エルマーの戦闘スタイルはあんま知らねぇ。

 あいつの本分はハッキングや後方支援だ。

 そんな奴が、わざわざ自分より二回りはデカいジュウシロウ相手に表舞台に出てくる……。

 その”怖さ”が、どうにも引っかかるんだよな」


「そうですね。

 ……今は、彼を信じて待つしかありませんか」


二人の視線の先、砂塵の舞うフィールドに、巨躯を誇るジュウシロウが姿を現した。

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