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【☆5.0万PV】アダルトレジスタンス   作者: オレノマツ
第二章 国家騒乱編

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151/225

File:029 沖縄にて

その「運動会」の舞台に選ばれたのは、かつて東アジアの火種と呼ばれた沖縄の地だった。


米軍が撤退し、広大な空白地帯と化した沖縄では、国家主導による狂気的な速度の再開発が進行していた。

かつて世界で最も危険な基地と謳われた普天間基地の跡地には、わずか二か月足らずでオリンピックスタジアムを凌駕する巨大施設が屹立している。


その建設を担ったのは、Hound(ハウンド)

人間の数の暴力による連日連夜の労働効率が労働基準法を超えた速度で作り上げたのだ。


それだけでなく、国立更生労働施設の力添えもあった。

おかげで材料に関しての生産が追いついた。


さらに米軍基地のすべてを「学園都市」へと作り変える極秘計画も始動していた。

沖縄を軍事の最前線から、国家の知性を集約する学術都市へと変貌させるとのことだった。


もっとも国民からは新しい軍事施設の建築だとネット上では言われたが、一か月もすればその疑念は全く晴れることになる。


中心にそびえ立つメインドームは、近未来的な曲線美を誇り、一見すれば最新鋭のサッカースタジアムのようだった。

だが、足を踏み入れた者が目にするのは、観客席を威圧するほどに広大な、何も障害物のない剥き出しのフィールドだ。


それはスポーツの場ではない。

「ポケモンバトル」のフィールドに例えられる方が、まだ現実味がある。

そこは、理性をかなぐり捨てた暴力が、最も純粋な形で衝突するための舞台だった。


西のゲート。参加するのは中国側の客分――シュウ、ジュウシロウ、ケン。

彼らがフィールドに姿を現した瞬間、鼓膜を震わせるほどの大歓声がドームを揺らした。


彼らは国際指名手配も辞さぬテロリスト。

にもかかわらず、観衆の反応は熱狂そのものだった。


「ははっ! 見ろよ、俺らまるでスター様じゃねえか!」


「……悪い意味で、な」


不敵に笑うシュウを、ジュウシロウが苦々しくたしなめる。

この異常な熱狂には、前崎が仕組んだ明確な意図があった。


二週間前、仮面を被った二人の超人による模擬戦の映像がSNSで拡散された。

それは既存の格闘技という概念を根底から覆す、重力を無視した破壊劇。

判定決着などあり得ない、一方が沈むまで終わらない「本物の戦い」。

さらに神経外骨格をフルスペックで開放したこの場は、オリンピック選手ですら届かない「人間のリミッター」を軽々と超えていた。


その正体はHound(ハウンド)で戦闘に秀でたものたちだったがそれでも中々の迫力があった。


前崎は既に大手ゲーム会社と裏で接触し、この戦闘データを基にしたバーチャル体験を国民に提供しようとしていた。

肉体を鍛えずとも、デバイス一つで「超人」を擬似体験できる中毒性の高いエンターテインメント。

それは、格闘技というスポーツが廃業になりかねないほどの中毒性を秘めていた。


東のゲートから、日本側の選出メンバーが現れる。


一人目は、現自衛隊最強の男・坂上。

中国側全員がもちろん出てくると思っていた相手。

坂上が値踏みするように見る。


「……見たことある顔だな?」


「奇遇だな。俺もだ」


ジュウシロウが坂上に睨みを聞かせる。


次に姿を現したのは、3か月前坂上を戦闘不能に追い込んだソウ……ではなく、幼い顔立ちに冷徹な知性を宿した少年、天才技術者エルマーだった。


「お前……エルマーか」


「やあ、三人とも。久しぶりだね。生きていて何よりだよ」


「……裏切り者が」


シュウの刺すような視線に、エルマーは淡々と、しかし確かな拒絶を込めて言い返した。


「その言葉、そっくりそのまま返してあげるよ。

 僕にとっての正義は、もう君たちとはとっくに違う場所にあるんだ。

 無目的な君たちと違ってね」


そして最後。静寂を切り裂いて現れたのは、日本国総統、前崎英二その人だった。

正直、意外だった。

ケンが訝しむような表情をする。


「……総統自ら、ドロを被るおつもりですか?」


「戦わないリーダーに、誰がついてくるというのかね?

 今日は最高のパフォーマンスを見せよう」


ケンの疑問に前崎は傲岸不遜な笑みを浮かべ、かつての同志(結局は裏切ったが)とも言えるアダルトレジスタンスの面々を、獲物を品定めするような目で見据えた。


「ようこそ、我が日本へ。居心地はどうだい?」


「最悪だ」


シュウが吐き捨てる。


「あんたがフィレンツェでくたばってりゃ、俺の手元には十億ドルが転がり込んでたんだ。

 それがパーだ。腹いせに、今ここで殺してやるよ」


「なるほど。だが私が君を殺せば、それ以上の価値が私のもとに戻ってくる。

 ダークウェブでその首に懸賞金がかかっていることは知っているだろう?」


「……前崎。あんた、この戦いで本当に命を取る気か?」


ジュウシロウが、凄まじい圧力を伴う殺気を放ちながら前崎と向かい合った。

聞いていた話とは違う。

一触即発の空気に、フィールドの気温が下がったかのような錯覚さえ覚える。


「いいや、取らない。

 言っただろう?ただの運動会だって。

 場外乱闘を起こすのならば話は別だがな。

 ……というか、ジュウシロウ。

 君はもう、私のことを"さん"付けで呼んでくれないのか?」


「……あんたに払う敬意は、もう1mmも残っていない。

 答えろ。カオリは生きているのか?」


「……どうだろうな。勝ったら教えてやる」


前崎はどこまでも人を食ったような微笑を崩さず、翻って自らの控室へと歩き出した。

独裁者とテロリスト。

アダルトレジスタンスで人生を変えられた双方が血を分けた敵として激突する。

最悪の「運動会」の号砲まで、あと数分。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『レディィィィィィィィィィス・アンド・ジェントルメェェェェェェェン!!』

 紳士淑女のクズ野郎ども!!

 お菓子は手にしたか!? 酒は? ジュースは!?

 漏らしちまう前にトイレは済ませてきたかぁぁぁあ!?』

 

実況席。

片目を剥き出しの電子レンズで覆い、極彩色の燕尾服を纏った小柄な男――

スピットファイアが、マイクを食いちぎらんばかりの勢いで絶叫する。


『新時代のエンターテインメント!

 アルティメット・インディスクリミネーター・ファイト(UIF)へようこそォォォォォ!!

 実況はこの俺、放送コードを火に投げ込み、差別用語の乱発で格闘技界から永久追放された男!

 そして世界中のすべての喧嘩を実況する男!

 このスピットファイアが最前線からお届けするぜぇぇぇぇぇ!!

 ライブ映像はGO-AHEAD_LIVEから誰でも無料で見れるのでリンクからタッチしてくれ!!』


スタジアム上空を数千機のドローンが旋回し、網膜に焼き付くようなホログラムを空中に投射する。


『まずは感謝しようぜ、我らが独裁者・前崎!

 こんなイカれた殺し合いをゴールデンタイムに実況できるのは、世界で俺一人だけだ!

 ボルテージは既にレッドゾーン!

 心臓が止まる準備はできてるかぁぁぁぁ!?』


声がスタジアム上に響き渡る。

ボルテージは最大である。

さすがは名実況者といったところだ。


『かつてはスポーツで! 伝統と礼節で!

 数多の感動を分かち合った日中両国!

 だが今宵、分かち合うのは『感動』じゃねぇ!

互いの『血』と『内臓』だァァァァァ!!』


スピットファイアが絶叫すると同時に、スタジアムの中央に超高精細のホログラムスクリーンが爆ぜるように出現した。

青白い光が、三人の少年の成れ果てを映し出す。


「まずは西側ゲート、中国が送り込んできた『客分』どもを紹介しよう!

 もはや説明不要! 全員が元アダルトレジスタンスの最高幹部!!

 かつてこの国をカオスの深海に沈め、大人アダルトたちを絶望させたクソガキどもが、さらに凶悪な『化物』へと変態して帰ってきたぞォォォォ!!」


空気を震わせる重低音が響き、一人目のデータが展開される。


『エントリーナンバー1!! シュウゥゥゥゥーーッ!!

 日本が生んだ最悪の輸出モデルだ!

 龍門(ロンメン)のマフィアをたった一人で壊滅させ、今や世界の裏社会では『禁忌(タブー)』としてブラックリストの最上段に君臨! その首に懸けられた賞金は、破格の十億ドルゥゥゥゥゥ!!

 誰か俺にそいつの首を獲らせてくれ! 一生遊んで暮らせるぜぇぇぇ!!』


スタジアムが、割れんばかりの歓声に包まれる。

彼らが法を嘲笑う犯罪者であることを忘れ、大衆はただ、その圧倒的な「悪のカリスマ」に酔いしれていた。


『続いてエントリーナンバー2!! ジュウシロウォォォォォォゥッ!!

 日本とインドの血を引くということ以外、戸籍すら存在しねぇ謎の巨躯!

 この四年間、シュウと共にイスラム諸国を地獄の業火で焼き尽くしてきた破壊の権化だ!!

 元AR(アダルトレジスタンス)時代からその剛腕は伝説だったが、戦場の砂に磨かれた実力は今、どこまで進化しているんだァァァァ!?』


地響きのようなコールが巻き起こる中、三枚目のパネルが血のような赤に染まる。


『ラスト、エントリーナンバー3!! ケンんんんんんんんんんんん!!

 地味で短い名前だ、侮るな! 猿の仮面を被ったこの不気味な陰キャ野郎こそ、真の怪物だ!!

 こいつはかつて、我らが総統・前崎をAR(アダルトレジスタンス)時代に二度も完封し!

 死の淵まで引きずり込んだ唯一の男だ!!

 素顔を見た者は生存せず、その戦いを目撃した者は発狂する!

 殺人ポーカーの死神の実力――とくと拝ませてもらおうじゃねぇかァァァァ!!』


歓声が鳴りやまない。

スピットファイアの実況はさらに熱を帯びていく。


『――対するは東側ゲート! 我が日本が世界に誇る、日の丸を背負った不沈の守護神たちだぁぁぁぁ!!』


スピットファイアが絶叫し、スタジアムの熱狂は物理的な震動となって空気を震わせる。

ホログラムが反転し、黄金色の光線が日本側の精鋭たちを描き出した。


『まずは一人目! 我が日本が誇る最強の暴力装置、自衛隊特殊作戦群のレジェンド!

 精鋭中の精鋭、坂上真司ィィィィィィィィ!!

 かつてのAR(アダルトレジスタンス)を壊滅に追い込み、ガキどもの夢を粉砕したのはこの男の拳だと言っても過言じゃねぇ!!

 さらに2か月前、単身で前崎総統に喧嘩を売って生き残って認められた男!!

『日本最強』の称号をその背に刻み、再び戦場へ舞い戻った死神の演武を見逃すなよぉぉぉ!!』


「世間じゃそんな認識なのか……」


坂上がため息を漏らす。

そして横にいた今大会で一緒に出場するメンバーをちらりと見る。


『続いて二人目!

 元AR(アダルトレジスタンス)幹部でありながら、今や総統の懐刀に収まった裏切りの神童!

 未成年という若さでNASAのブラックリスト最上位に名を連ね、電子の海を統べる天才、エルマぁぁぁぁぁぁ!!

 こいつの戦闘データは一切不明、肉体を超越した『知能』がどうやってこのフィールドを支配するのか!?

予測不能のジャックポットだぜぇぇぇぇぇ!!』


「お前って戦えんの?」


「まあ、それなりに」


「……」


坂上は今もパソコンでカタカタ何かを打っているエルマーから目を反らした。


(前崎の奴はどこに行ったんだ?便所か?)


『そして最後は……この男を待っていたんだろう!?

 我が国を根底から解体し、再構築した異端の王!

 官僚、公安、そして革命家……地味な肩書きをすべて捨て去り、自ら戦火の中に飛び込んだ日本の総統、前崎英二ィィィィィィ!!

 経歴だけ聞いてガリ勉のもやし野郎だと笑った奴はもう墓の下だ!

  実力はあの坂上と引き分けるレベルだと噂される『戦う総統』!!

  弱い奴に誰も付いていかねぇ、この時代に相応しい暴力的なリーダーの真価、その目に焼き付けろぉぉぉ!!』


スタジアムを埋め尽くした数万人の絶叫は、もはや怒号に近い。

スピットファイアは泡を吹きながら、空中に浮かぶ対戦カードスロットを指差した。


『いいか、対戦カードは直前まで秘匿されたチーム選出制だ!!

  誰が誰を殺しに来るか、そのスロットが決まった瞬間が、処刑の合図だぜぇ!!

  ……さあ、注目の第一回戦は……これだぁぁぁ!!』


ドラムロールと共にカードが捲られる。


『坂上真司 VS ケン!!!!!』


「いきなりか……」


坂上が軽くストレッチをしてスタジアムに入る。


『因縁の再会か、それとも残酷な世代交代か!?

かつてアダルトレジスタンスを壊滅させた自衛隊の鬼と、総統・前崎を二度も地獄へ送った仮面の怪物が、今、フィールドの中央で対峙する!!』


正面には仮面を被った猿のお面から眼光が鋭く坂上を睨みつける。


『戦え!! 血が沸き立ち、肉が弾け飛び、骨が軋む音を俺たちに聴かせてくれぇぇぇ!!

 LET‘S GO AHEAD――――――――――――――ッ!!』

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