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【☆5.0万PV】アダルトレジスタンス   作者: オレノマツ
第二章 国家騒乱編

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File:027 第2次日露戦争

砕氷の轟音が、凍てついた大気を震わせる。

ドレッドノート級戦艦の艦首がオホーツクの流氷を粉砕し、北方領土を指呼の間に捉えていた。

マストには白、赤、青の三色旗が、征服者の象徴としてこれ見よがしに翻っている。

あわよくば北海道までも版図に加える――。


ロシアの首脳陣は、その程度の野心でこの航路を選んだわけではない。

この遠征には、国家の残命を懸けた全戦力が投じられていた。

資源、予算、そして誇り。

没落しかけた大国が再興する道は、もはやこの南進以外に残されていなかったからだ。


「負けるわけにはいかない。祖国にはもう退路がないのだ」


艦長が拳を握りしめたその時、レーダーが「それ」を捉えた。

水平線の向こう、純白の氷原に鎮座する3つの影。

それは、既存の軍事常識を嘲笑うかのような人型兵器だった。

コミックから飛び出してきたような非現実的なシルエット。

それらは、祈りを捧げるかのように深く(ひざまず)いていた。


氷上に、1本の赤いレーザーラインが引かれる。艦隊から正確に1km先。


『えー。親愛なるロシアの方々。聞こえますかー?』


戦場に響き渡ったのは、AI翻訳を介した合成音声だった。

しかし、その声質はあまりに幼い。

場違いなほど無邪気な子供の声だ。

舐めているのか。

それとも、これが日本の心理戦なのか。


『それ以上ラインを越えたら「宣戦布告」とみなしまーす。

 即、殲滅を開始しまーす』


警告を無視し、ロシアの鋼鉄軍団は速度を上げた。

止まれるはずがない。

退けば国が死ぬのだ。


『あーあ!やっちゃったね!!

 戦闘開始!!』


突如、ロボットが弾けるように動いた。

重厚に見えた外殻装甲がパージされ、中から「骨格」のような本体が露わになる。

極限まで軽量化されたその機体は、球体関節を数珠つなぎにしたような異形の腕を持ち、胴体には不気味なほど無数の穴が空いていた。空気抵抗さえ排除した、まるで異世界から来た使徒のようだった。


『いきまーす!!』


連結された球体から、収束された光の奔流が放たれた。

それは「砲撃」というより、物理法則を書き換えた何かだった。

ドレッドノートの分厚い装甲が、まるで熱したナイフを通すバターのように一瞬で蒸発し、爆発の余韻さえ残さず海へと沈んでいく。


反撃の余地も、交戦の儀礼もない。

ただ一方的な「作業」として、精鋭艦隊が消し飛ばされていく。


『はい! 俺、スコア3つ目!』


『ずるい! 横取りすんなよ!!』


『早い者勝ちだバーカ!!』


通信回線に混じる、楽しげな少年少女たちの罵り合い。

言葉はわからぬとも相手がどういう思いで我々を蹂躙しているかはわかった。

その瞬間、艦長は理解した。


この国家の命運を懸けた最終戦争は、日本にとってはただの「放課後の遊び」に過ぎなかったのだ。


自分に照準が合ったことを示す赤い光が視界を染めた時、艦長が抱いたのは怒りではなく、自分が祖国してきたこれまでの努力に全く見合っていないという底知れない虚無感だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「かつて、『フォートナイト』というゲームがあった」


前崎が、発光するモニター群を背に、淡々と語り始めた。傍らには一ノ瀬と坂上が、凍り付いたような沈黙で立っている。


「16歳の少年が世界大会で優勝し、3.3億円もの賞金を手に入れた。

 8歳のプロゲーマーさえ誕生した時代だ。

 参加資格は当時13歳以上だったが、年齢を偽ってゲームの世界に飛び込む子供も後を絶たなかったという」


前崎は目を細め、モニターの中で舞う兵器たちの戦いぶりに視線を落とした。


「子供は遊びの天才だ。

 倫理や生理的嫌悪というリミッターさえ外してやれば、その能力は爆発的に開花する」


「……子供に、人殺しをさせてるのか」


絞り出すような坂上の声に、前崎は微かに口角を上げた。


「彼らを"子供"と呼ぶかどうかは、解釈の分かれるところだよ。

 ……なあ、坂上」


「どういう意味だ」


「忘れたのか?

 彼らは「SG崩落の日」、お前の率いた自衛隊部隊がその頭をスラグ弾でブチ抜いた子供たちだ」


「……っ!?」


坂上の心臓が、嫌な音を立てて跳ねた。

視界が、当時の血生臭い硝煙の記憶で一瞬にして真っ赤に染まる。


「肉体のスペアはなかったが、脳のバックアップは奇跡的に生きていた。

 だからあの冷たい金属の殻が、今の彼らの肉体なのさ。

 もちろん、いつか生身の器が見つかれば、そこへ転送してあげたいとは願っているがね」


坂上は、二の句が継げなかった。

自分が守るべきだったはずの幼い命。

それを至近距離から粉砕した自分の指。

その「被害者」たちが今、自分の目の前で最新兵器として踊っている。


「結果として、とんでもない化け物が生まれた。

兵器としてのコストパフォーマンスは申し分ない」


「……ロシアの誇る艦隊が、あんな、ちっぽけな玩具みたいに……」


一ノ瀬が、震える声で呟いた。

モニターの中では、かつての大国が紙屑のように燃え上がっている。


「他のエリアの子らも問題ないようだ。

 全6カ所に3人ずつ配置したが、どの個体も想定以上のスコアを叩き出している」


前崎は手元のマイクを、愛おしそうに取った。


『――そこまでにしよう。残存勢力は殲滅していい。

 ただし、降参したり逃げ出したりする人間は追わないこと。

 エネルギーの無駄だからね』


『了解でーす!』


『おっけー、パパ!』


『ちぇっ!スコア負けた……!』


イヤホンから返ってきたのは、放課後の公園で遊ぶような、弾けるほど元気な子供たちの声だった。


その無邪気さが、坂上の喉元までせり上がる吐き気を加速させた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


第二次日露戦争が終結するのに、一昼夜の時間すら必要なかった。


あの日を境に、ロシアという巨大な歯車は、音を立てて崩壊した。

極東の海で「子供たちの遊び」に全戦力を粉砕されたという事実は、物理的な打撃以上に、国家の精神を根底から腐らせたのだ。

統治機構は瞬く間に麻痺し、昨日まで世界を震撼させていた軍事大国は、わずか数ヶ月でその機能を完全に喪失した。


地図から「ロシア」という文字が消えるのに、そう時間はかからなかった。


国境は意味を失い、行き場を失った数千万の難民が、雪深い大地を彷徨う亡霊となった。

略奪と飢餓が支配する極寒の地獄。

かろうじて最悪の絶滅を免れたのは、ユニセフ(UNICEF)や国境なき医師団(MSF)などの必死の介入があったからに過ぎない。


だが、それは救済というよりは、延命措置に近かった。


なぜならロシアを好む国家は基本的に少ないからだ。


それに暗殺で決まる政治性、個人個人の能力の低さ。

受け入れる国家からすればそれらは足枷にしかならない。


移民反対の暴動が起こったイギリスのように現在、世界では移民法案に関してはネガティブな意味合いを持っている。


しかも今回、戦争を起こすきっかけとなったのは日本のアメリカ軍在住の撤廃だが、攻めてきたのはロシアである。


国際的に同情の余地などなかった。


これまでロシアに苦しめられてきた国、特に旧ソ連の属国たちは一切手助けに参加しなかった。

例外はベラルーシ、キルギス、タジキスタンだが欧州につくか中国につくかで別れた。

それにより、ヨーロッパと中国に大量の失業者が流れていった。


かつて数世紀にわたって世界史の主役を演じた「ロシア」という概念は、今や急速に風化しつつある。

教科書からは記述が削られ、若者たちは、広大な北の台地に、かつて核兵器を抱えた超大国が存在したことすら、おとぎ話のように忘れていくだろう。


戦後処理の結果、旧ロシア領の大部分は、事実上の「放棄」という形に落ち着いた。


牙を抜かれた大地の冷気は、勝者である日本には管理しきれなかった。

暖房費だけで国家予算を圧迫する不毛の原野。

インフラは寸断され、永久凍土が建物を蝕んでいく。

そこは、人間が生存するための経済合理性を、根本から否定する死の大地だった。

かつての資源大国の面影はなく、ただ、人の命を奪うためだけに存在するような、白銀の沈黙がどこまでも続いている。


日本政府は、最低限の観測基地と難民収容キャンプを維持するだけで、その土地の大部分を「管理対象外」として放置することに決めた。


領土という名の重荷。

ドレッドノートが氷を砕いて目指した「希望の南進」の終着点は、誰にも顧みられない、凍てついた空白地帯に過ぎなかった。

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