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【☆5.0万PV】アダルトレジスタンス   作者: オレノマツ
第二章 国家騒乱編

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139/224

File:017 死後報復プロトコル

正直、我ら大国にとって「10億」という端金はどうということもない。

人口比でインドに首位を譲ったとはいえ、依然として世界第2位の版図を誇るこの国には、隣の島国とは比較にならぬほどの潤沢な税収と、使い潰しても底を突かぬ人材が溢れている。


だが、資源を「無駄」にされることだけは、指導者として許しがたい。


本来の計画では、龍門の拠点から回収されるはずだった歴史的芸術品や、血塗られた調度品を闇市場へ流し、今回の報酬分を相殺する手筈だった。

それを、あのアホどもがビルごと真っ二つにするというとんでもないやり方で、回収プランは文字通り瓦礫の下へと消えた。


「……こうして、尊い税金がドブに捨てられていくわけか」


梁智衡(リャン・ジーフォン)は深く溜息を吐き、重い足取りで彼らの滞在先へと向かった。

そこは、あの崩壊した『龍門』とは対照的な、北京に佇む最高級の7つ星ホテルだ。

本来なら国賓を招くための聖域であり、空気さえも洗練されているべき場所。


だが、今のそこは二人の蛮族によって徹底的に汚染されていた。


扉を開けた瞬間に鼻を突くのは、高価な酒と、脂ぎった料理、そして逃げ場のない情欲の残り香だ。

地面には銀食器と共に食べ散らかされたキャビアやフカヒレが転がり、傍らでは数人の女たちが、嵐にでも遭ったかのように疲れ果てて横たわっている。


指導者としての矜持が、獣に説教を垂れる無意味さを瞬時に悟らせた。

梁は視線を逸らし、諦め混じりに声をかける。


「はいはい、二人とも。

 宴の時間は終わりだ。

 少しは正気に戻ったかい?」


「……あ? あんたか。何しに来た、藪から棒に」


返ってきたのは、全裸でシーツに包まったままのシュウの、けだるげな声だった。

その背後からは、まだ事態を飲み込めていない女の、消え入りそうな喘ぎ声が漏れている。


「……とりあえず、服を着てくれないか。

 国家の品位というものを少しは考えてほしい」


「もうちょっと待てよ。

 ……つーか、来る前に連絡くらいよこせっての」


シュウは悪びれる様子もなく、再びシーツの海へと沈んでいった。

羞恥心という概念を、彼は戦場のどこかに置き忘れてきたらしい。


「ジュウシロウ君は?」


「……奥で眠っています。ヴィンテージの白酒を数本空け、そのまま泥のように」


様子を見に行っていたケンが、沈痛な面持ちで戻ってきた。


「心中お察しします、閣下……」


「いや、いいんだ、ケン君。彼らに常識を求める私が間違っていた。

 ……話は君にする。

後でこの猛獣たちが落ち着いたら、正確に伝えてくれ。

 ホテル側からのクレームを握りつぶすのにも、限界があるからね」


ケンは深々と頭を下げ、梁をホテルの奥にある防音完備の会議室へと案内した。


静寂が支配する部屋で、梁は一枚の電子書簡をテーブルに投影した。


「例の、フィレンツェでの国際会議の日程が決まった。

 ……今からちょうど一ヶ月後だ」


「2ヶ月、ですか……」


ケンが眉を寄せる。

暗殺の準備期間としては妥当だが、移動を考えると決して余裕があるとは言えない。


「長いと思ったかね?

 だが、これは私の方から各国の当局に圧力をかけ、無理やり引き延ばさせた期日なんだ。

 本来ならもっと早まるはずだった」


「……何故、そこまで?」


「理由は単純だ。

彼らを旅客機(フライト)に乗せるわけにはいかない。

 パスポートは偽造できても、網膜や指紋の照合で弾かれる。

 何より彼らの生体反応は、世界中の治安機関のブラックリストに『最重要危険物』として登録されているからね」


梁は冷徹に現実を突きつけた。


「空路が使えない以上、手段は海路に限られる。

 だが、二ヶ月で中国からイタリアまでを、当局の目を盗んで走破できる船がどこにある?

  ……これが、今回のミッションにおける最大の壁になるだろう。

 もし君に名案があるなら、今ここで聞きたいものだが」


「……了解しました。現実的なルートを早急に再考します」


ケンの言葉に、梁は小さく頷いた。


「期待しているよ。

 ……前崎という男を仕留める前に、彼らが地中海を越えられずに野垂れ死ぬような事態だけは、避けてもらいたいからね」



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[SYSTEM BOOT SEQUENCE: POST-MORTEM RETALIATION PROTOCOL "DEAD HAND" ACTIVE]

[ENCRYPTION LEVEL: NEURAL-NET QUANTUM / LONGMEN-SPEC 2059-E]

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【システム起動シーケンス:死後報復プロトコル「デッドハンド」発動中】

【暗号化レベル:ニューラルネット量子暗号 / 2059年型龍門独自規格】

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[SUBJECT MONITORING: DA JIA JIE (ID: L-GATE 001)]

> STATUS: CRITICAL ERROR / VITAL TERMINATED

> BIOMETRIC PULSE: NULL (LOSS OF SIGNAL DETECTED)

> NEURAL SYNC RATE: 0.00%

> DURATION: 120:42:15 ELAPSED SINCE LAST VITAL UPLOAD

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【対象モニタリング:大家姐(ID: L-GATE 001)】

> ステータス:致命的エラー / 生命維持停止

> 生体パルス:消失(信号ロスト検知)

> 神経同期率:0.00%

> 経過時間:最終バイタルアップロードから120時間42分15秒が経過

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[INCIDENT LOGISTICS & VISUAL FORENSICS]

> LOCATION: HOTEL "LONGMEN" (TIANJIN, PRC) - SECTOR 04-A

> EVENT: TOTAL ARCHITECTURAL COLLAPSE (STRUCTURAL FAILURE BY EXTERNAL KINETIC FORCE)

> WEAPONRY: HIGH-FREQUENCY VIBRATION BLADE (PROTOTYPE CLASS / NEURAL-SYNCED)

> PERPETRATOR: SHU (STATUS: CLASS-S INTERNATIONAL TERRORIST)

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【事案ロジスティクスおよび映像鑑識】

> 発生地点:ホテル『LONGMEN』(中華人民共和国 天津)- セクター04-A

> 事象:建築物の完全崩壊(外部動的エネルギーによる構造不全)

> 使用武器:高周波振動ブレード(プロトタイプ級 / 神経同期型)

> 実行犯:シュウ(ステータス:S級国際テロリスト)

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[SMART CONTRACT EXECUTION: "SUI-SI-BI-ZHU"]

> FUNDING SOURCE: HELVETISCHE ALPIN-KUSTODIE (HAK) - ZURICH, SWITZERLAND

> ACCOUNT TYPE: ANONYMOUS SHADOW-RESERVE [VAULT-ID: 88-X-09-L]

> ASSET LIQUIDATION: $1,000,000,000.00 USD (DA JIA JIE PRIVATE LEGACY)

> ESCROW STATUS: LOCKED / OMERTA-ENFORCEMENT PROTOCOL ACTIVE

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スマートコントラクト実行:『雖死必誅(すいしひちゅう)

> 意味:――我が身、黄泉に墜つるとも、仇なす者は必ずや誅殺せん。

> 資金源:ヘルヴェティカ・アルプス保管銀行(HAK) - スイス・チューリッヒ本部

> 口座種別:匿名暗黒リザーブ[金庫ID:88-X-09-L]

> 資産清算:1,000,000,000ドル(大家姐・個人遺産)

> エスクロー状況:ロック完了 / 沈黙の掟(オメルタ) プロトコル発動

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[CONTRACT TERMS & CONDITIONS]

1. TARGET: SUBJECT "SHU" (PRIMARY) / ALL ACCOMPLICES (SECONDARY)

2. METHOD: UNRESTRICTED (COLLATERAL DAMAGE TOLERANCE: 100%)

3. TIMEFRAME: UNTIL SEPTEMBER 04, 2060 (STRICT DEADLINE)

4. REWARD: $1,000,000,000 USD (FULL PAYMENT UPON BIOMETRIC EXTINCTION)

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【契約条件】

1. 標的:対象「シュウ」(優先)、および全共犯者(二次標的)

2. 殺害方法:不問(付随的被害許容度:100%)

3. 期限:2060年9月4日まで(厳守)

4. 報酬:10億米ドル(生体反応の完全消滅を確認次第、全額支払い)

--------------------------------------------------------------------------------


[SIGNAL BROADCASTING TO GLOBAL DARK-NET NODES...]

[STATUS: DEPLOYED / WAITING FOR ACCEPTANCE...]

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【全世界ダークネット・ノードへ信号送信中...】

【ステータス:配信済み / 承諾待ち...】

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世界中の「闇」に潜む、およそ人間とは呼べぬ獣たちの端末が、一斉に同じ青白い燐光を放った。

スイスのプライベートバンクから発信されたその死後報復プロトコル『雖死必誅(すいしひちゅう)』は、国家最高指導者である梁智衡ですら存在を把握していなかった、龍門の深淵に隠された最終審判システムだった。

10億ドル――日本円にしておよそ1,600億円という狂気の懸賞金、そして「付随的被害100%容認」という殺戮の免罪符は、凍りついていた殺し屋たちの本能を瞬時に沸騰させた。


かつて欧州を震撼させ、十年前に死亡したと戸籍を抹消された「伝説」の老兵。

3キロ先の標的を風の粒子ごと撃ち抜く、網膜を電子化した超S級の狙撃手。

中南米のカルテルをわずか数年で統一し、金よりも「最強の少年兵」を狩る名声を欲するギャングスターの超新星。

そして、国籍を剥奪され、戦場から戦場へ渡り歩く亡国の特殊部隊の精鋭たち。


金、名誉、あるいは純粋な闘争本能――。

それぞれの理由を胸に秘めた凶星たちが、ルネサンスの古都、イタリアのフィレンツェを目指して一斉に動き出した。

かつてミケランジェロやダ・ヴィンチが美を競い合ったその芸術の街は、いまや世界中の「死」が交差する、巨大な円形闘技場へと姿を変えようとしていた。

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