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14 選択の時



「無事だったか」


 ドアを開けると、普通の応接室が広がった。

 ———あの部屋から出るのは、こんなにも簡単だったのか。


 出迎えてくれた人の顔と言葉に、形容しきれない感情が沸き起こる。


「まるで僕が人攫いみたいじゃないか」


 愉快そうに笑う皇子から、私は目を逸らした。


「マクシミリアン様、ただいま戻りました」


 慇懃なお辞儀をし、逃げるように顔を伏せる。


「いい、そんなことする仲じゃないだろう」

 

 じゃあ、どんな仲だったのか。


 ———それに答える資格は、もう私にはない。


「…………」


「じゃあ、君のこれからの()()を楽しみにしているよ」


 何も答えない私の代わりに、皇子が言葉を発する。

 そして、彼は私の肩を叩いた。


「近いうちに会おう」


 耳元で囁かれた言葉に、心臓が締め付けられた。

 彼と会うその日が、私の選択の日になる。


「…………おい、大丈夫か」


 去り行く皇子を見守っていると、マクシミリアンが隣に来た。

 酷く優しく感じたその声に、私は笑った。


「はい、問題ありません」


 



















「ちょっと!大丈夫だったの!?」


 久しぶりのお嬢様は、相変わらずだった。


 苛烈で、騒々しい。

 取り繕ってもなお溢れ出る、その本質。

 

 我が道を行くその苛烈さに、きっと私は惹かれたのだろう。


「ええ、大丈夫ですよ」


 苛烈なのにナイーブで、案外他人からの評価を気にする。

 だけど自分を曲げられなくて、ひねくれたお嬢様。


 彼女を知るには、十分な時間を共に過ごしてしまった。


「ああでも、ひとつだけお願いがあるんです」


「何かしら?なんでもいいなさい!」


 気が高ぶった状態のお嬢様は、言い方が荒々しくなっている。

 新鮮な彼女に、私は嬉しいような泣きたいような気分になった。

 

 こんな時に、人情味を出さないでほしい。


「——————」


「いいわ」


 私の申し出は受理された。

 これで、もう————。




















「まさか、お前の方から調査を申し出るとはな」


 カモメが空を舞う。

 海沿いのこの町は、貴族たちの避暑地として有名だった。


 そんな場所に私はマクシミリアン様と共に来ていた。


「個人的に『悪魔』のことが気にかかりましたから」


 いつも『悪魔』の調査に渋っていた私が、その調査に参加したと言ったからだろう。

 彼は怪訝そうな顔をしている。

 しかし、彼がそれ以上問い詰めてくることはなかった。


 意外な対応に面食らったが、私としては有難い。


「あの洞窟をもう一度調べたいんだったな」


「はい」


 そう、この町に来た目的は一つだった。

 以前マクシミリアン様と共に訪れた洞窟を調べるため。

 マクシミリアン様の何かを奪った『悪魔』を、調べるためだ。


「いいだろう、俺は別のものを調べておく」


 そして、私は洞窟へ、マクシミリアン様は別の場所に向かった。


















「従者様、こちらです」


「あ、ありがとうごさいます」


 あまりにも丁寧な護衛の人に、腰が引き気味になる。


 この人、マクシミリアン様付きの騎士だよね。

 なんで、一介の使用人にこんな丁寧なの。


「あの、そんなに丁寧にしてもらわなくてもいいですよ……?」


「いえ、それは出来ません」


「そうですか……」


 よくわからない騎士は置いておいて、私は洞窟の中を見て回る。


 以前来た時のように、海面が光を反射している。

 明るい洞窟に、爽やかな海風が吹く。


 潮の香りをかぎながら、私はメモを開く。

 

 そこには、びっしりと人の名が書かれていた。

 そして、ほとんどに斜線が引かれている。


 このメモは、お嬢様の協力でつくった名簿だった。

 この避暑地に訪れたことのある貴族たちの名を連ねている。



 ゴソッ



 メモとは別に、ポケットから紙を出す。

 ……これは、()()から渡されたものだった。 


 この紙と共に渡されたメッセージカードには


 『ヒントをあげよう。この紙をマクシミリアンの思い出の場所に浸してごらん。君の素敵な選択を待ってるよ』


 と書かれていた。


「…………」


 嫌なことを思い出し、頭を横に振る。

 今やるべきなのは、自分の不甲斐なさを感じることじゃない。


 どんなことも、利用すると決めただろう。


 何も書かれていない紙を海水に浸す。

 すると、その紙に文字が浮かび上がった。


 手の込んだ仕掛けに、あの皇子がやりそうなことだと納得する。

 ただ、いくら普通の水に浸しても文字が浮かび上がらなかったことを思い出して顔をしかめた。



「…………この人か」


 紙とメモを見比べる。

 そして、一人の名が異なっていることを見つけた。


「カストル・レ・ルオードル」

 

 皇子からもらった紙にはその名が刻まれ、


「…………ポルックス・レ・ルオードル」


 お嬢様の情報でつくったメモには、ルオードル皇国第二皇子の名が刻まれている。

 

 両方とも、ルオードル皇国からの来訪者は一人だけだった。

 つまり、『悪魔』が成り代わった人間はこの人だ。


「第二皇子……!」


 すべてを理解した。


 なぜ皇子があんなにも『悪魔』に詳しかったのか。

 なぜ私を『悪魔』だと見抜いたのか。


 あの第二皇子こそが『悪魔』だから。


「つまり、カストル皇子は……」


 名を奪われた。


 彼の名を知る人は、もうどこにもいない。


 友人だったであろうマクシミリアン様にも、忘れられた。


「そんなことを……私がお嬢様に……?」


 すべての人から忘れられ、存在すらなかったことにされる。


 ————そんなことが許されるのだろうか?


「………でも」


 海面にかざした手が、一瞬揺らめく。


「従者様?従者様!」


「………っ、ここです!」


 洞窟で待機していた騎士が中に入って来た。

 そして、しゃがんでいた私を見つけて安堵する。


「よかった……急にいなくなって驚きました」


「いえ、こちらこそすみません」


 そして、この日で調査を終えた。





 洞窟に死角はない。

 良好な視界のはずなのに、騎士は私を見失った。


 ————私に残された時間は少ないらしい。










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