13 告げられる真実
「へえ!彼女はこのポナシェイド家の後継者になったんだね」
「ええ、そうなんです」
ルオードル皇国の使者として第2皇子が降臨し万事休すかと思ったが、案外悪くない。
現在は、部屋で我が主であるアイラ様について話していた。
「彼女は変わったんだねぇ」
感心した様子の彼に、私は誇らしげな顔をする。
まあ、私は昔の彼女を知らないのだが。
「ところで」
突然、第2皇子の纏う空気が変わった。
私は緩んでいた頬を引き締める。
「君は、『悪魔』を知っているかい」
彼は疑問形ではなく、確信をもって聞いてくる。
彼の目は、誤魔化しや嘘を許さない色をしていた。
「………はい、知っています」
素直に答えた私に、彼は満足げに笑った。
「そうか、それなら話が早い」
長い脚を組み、彼はソファーに凭れる。
「君は『悪魔』だろう?」
「…………はい?」
理解のできない言葉が、宙に舞った。
コンコン
「失礼します、第2皇子殿下にご挨拶を———」
マクシミリアンはルオードル皇国の第2皇子が案内された部屋を急いで訪れた。
そこには、第2皇子と妹の従者がいた。
ただ、その従者の顔色がおかしかった。
「おい、体調が悪いのか」
「…………」
青白い顔色をした従者は、こちらを見ているようで見ていなかった。
暫くして、やっと目が合ったと思ったら、何かを恐れるような表情をしてきた。
「ああ、彼はこれから僕と過ごすことになって驚いているんだよ」
「どういうことです?」
そんな話は聞いていない。
一体どういうことかと従者へ目を向ける。
だが、従者は虚ろな目で何かを考え込んでいた。
「まあまあ、こちらから話は通しておくから」
皇子がそう言うと、いつの間に現れた護衛に部屋の外へ追いやられる。
「なっ!一体———」
マクシミリアンが最後に見たのは、俯く従者の頬を皇子が撫でている姿だった。
「お兄様!これは一体どういうことですの!?」
「…………」
マクシミリアンの執務室に、アイラが突撃してきた。
その理由は、聞かなくてもわかる。
「わたくしの従者が皇子に盗られたままですわ!」
「静かにしろ」
悪態をつくが、アイラの言う通りだった。
皇子は、この屋敷に来てからあの従者を片時も離さない。
「あの子はわたくしの従者ですのに!」
従者が盗られてからというもの、アイラは以前の横暴さが垣間見える場面が増えた。
このように喚くのも、以前の片鱗を感じさせる。
嫌な予感がする。
この予感は、従者を皇子に奪われてから始まった。
何かを見落としている気がする。
「交渉はこちらでする。お前は余計なことをするな」
「………ふんっ、しくじったら許しませんことよ」
「ほざけ」
悪態の応酬に、傍で控えていた使用人たちは冷や汗をかいていた。
そして、この冷たすぎる応酬を終わらせるためにも、彼の帰還を祈った。
だが、皆から望まれているはずの従者はここには現れなかった。
『悪魔』なんているわけがない。
いたとしても、私には関係ない。
———なのにどうして?
どうして私は『悪魔』なの?
「君は『悪魔』だよ」
違う、私は何もしてない。
「君は奪おうとしている」
奪ってなんかない、奪おうとしてなんかない。
「君は奪おうとしている、アイラ・ポナシェイドの存在を」
お嬢様を…………?
「やあ、気分はどうだい?」
「…………良くはないですよ」
カーテンに遮られた部屋は、時間間隔を狂わせる。
ベッドの傍にあるサイドテーブルでは、ランプが静かに揺らめいている。
「これも君を守るためなんだ」
水が入ったコップを差し出される。
私はそれから顔を背けた。
「頼むから、水くらいは飲んでくれ」
弱ったような声に、渋々コップを受けとる。
監禁してきた相手に一瞬でも同情するなんて、何をしてるんだろうと自嘲する。
「考えはまとまったかい?」
皇子の言葉に、手が止まる。
そして、空になったコップをサイドテーブルに置く。
「…………『悪魔』は、『名』を奪う存在だったんですね」
皇子が教えてくれた『悪魔』の全てを思い出す。
『悪魔』は、外の世界から来た存在だった。
その外からの存在は、この世界にとって異分子であり、いずれ弾き出される。
そうならないために、私たちはこの世界の住人の『名』を奪う必要がある。
私にとって、奪うべき存在は「アイラ・ポナシェイド」。
前世の名前なんて、そんなの大噓だった。
私の前世の名前は「アイラ」じゃない。
あの名に反応したのは、奪うべき名だったから。
私たち『悪魔』は、本能的に自分が奪う『名』を知る。
「君は、今もなおアイラ・ポナシェイドの『名』を奪いかけている」
「…………」
彼女が変わったのは、純粋な変化ではなかったのだ。
私が奪いかけたことで、彼女と私の存在が混ざった。
今の彼女は、元の彼女が変化した姿ではない。
私という不純物が混ざったゆえの変化だ。
そんなの…………そんなの間違っている。
「私は……どうすればいいんですか」
藁にも縋る思いだった。
縋るのが、どんなに怪しい存在でも構わない。
自分が『悪魔』なのだ。
どんな存在に縋っても、今更のことだ。
「そうだね。じゃあ、こうしよう———」
皇子の提案に、私は目を見開く。
そして、諦めたように笑った。




