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第九話【悪夢】


「うーん、何だコレ?」


 舜歌は畳の上に胡坐をかいて腕組みして、(じぶん)の服の背中側をめくって考え事をしている。

 ちょっと恥ずかしい。舜歌は気にするでもなく、ぺちぺちと背中を触っていて少しくすぐったい。


(はじめ)の姉ちゃん、ちょっといい?」


(なに? 朔ならアナタにやらないわよ)


「朔~の背中の〝手形(・・)〟──誰につけられたか見た?」


(いえ……私もずっと傍にいたけど見てないわ……)


「うーんアタシも気がつかなかったな~、野球の試合前にはついてなかったんだけどな~」


 試合前? 試合前後で誰かに背中を触られたりなんてしてないけど?

 

「たぶん、(しゅ)の類だと思うんだけどなー」


 背中……やや腰の辺りに〝紫色した(・・・・)幼児の手形(・・・・・)〟がついているそうで、辺りに鏡が無いので自分で見れない。


「まあ剥がせるには剥がせるけど……」


 舜歌がまたペチペチと背中を叩き、寿姉が(気安く触らないで)と言っているが、舜歌は

「あっ黒子(ほくろ)みっけ、ここにあるってことは、えーと生涯に渡って対人関係に難ありと……」と背中の黒子占いを勝手に始めた。

 

「よし、今はこのままにしとこう」


 舜歌が言うには、この手の(しゅ)は無理矢理解除しようとすると、突然強力な呪が作動して、呪を掛けられている人物に災いが一気に降りかかることもあるそうで、術自体のカラクリを解明しないとリスクが高いそうだ。


 あと、今のところ手形による体調の変化等も見られないため、術者本人を探した方が手っ取り早いということになった。


 舜歌の家を出て、自宅に向かって歩いているとスマホの着信音が鳴る。スマホをみると「寿那」と画面に表示されている。電話にでると守護霊となった寿那がスマホ越しに喋り出した。


「朔ちゃん、そういえば私、試合の時のことを思い出したわ」


 寿姉があることを思い出し、それを教えてくれた。瑛守が出ている野球の観戦中に自分(はじめ)の背中を見ていた人がいた、と……。


 年齢は同じくらいの男子で、陽射し除けのタオルを被っていたのではっきりとは顔が見えなかったそうだ。ただ、舜歌の我が儘で席を前の方に移動した時に一緒に立ち上がり、球場の出口に向かって歩いていったとのこと。


 誰だろう……なんで自分の背中を見る必要がある? これってかなり怪しくない?

 ──とりあえず明日、舜歌にこのことを説明しよう。


☯☯☯


 その日の夜、夢をみた。


 灯りのない建物の中に身体を小さくして隠れて何かに怯えている自分がいる。夢の中なのに周囲の光景が妙に生々しい。屈んで背中を壁に預けているが、背中に伝わってくる壁の感触までリアルな気がする。


『ヒタッヒタッヒタッ』


 足音?

 冷たいタイルの床を素足で歩くような音。

 それにしては、まだ距離は遠いのにやけに足音がはっきりと耳に伝わってくる。


「……すいた」

『!?』


 まだ三・四歳くらいの男の子の声……。


「おなかがすいた」


 足音のする男の子はそう言いながら、隠れている場所の近くを通り過ぎ段々と離れていくがおもむろに足を止めた……。


「そこに隠れてるの?」


 声がこちらを向いている。

 ヒタヒタと足音が近づいてくる。


「うあぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 気が付いたら自分の部屋のベッドで、跳ね起きながら叫び声を上げていた。

 外の廊下の明かりが点き、足音が聞こえ部屋のドアをノックする音が部屋の中に響く。


「朔、どうした? 大丈夫か?」

「……うん、大丈夫」

「そうか……」


 親父はそれ以上、何も言わず、再び自分の寝室に戻っていった。

 怖い……。以前、悪霊が部屋の前に来た時は通用するかは分からないが、自分なりに抵抗する術があった。が今のは違う。


 なんかこう……見つかってしまったら抵抗することもできず、すべてが終わってしまう気がした。部屋の明かりをつけて、まだ買って読んでいない漫画を読み始める。もう怖くて寝れない……。沖縄に来て、二度目の眠れない長い夜を過ごす。


 翌日、月曜日。教室で舜歌を見つけて廊下に出てもらい、すぐに相談した。


「うーん夢の中で襲ってくるタイプか~、初めて聞いた」


 悠長に感想を漏らす。


「大丈夫、今日で仕掛けた人を見つけるから」と頼もしい返事をもらった。


 でも大丈夫かな。西洋の呪いみたいだし、専門外なんじゃ……。


 体育の時間、体育館のコートをそれぞれ男子と女子で半面に分けて男子はバスケ、女子はバレーを行っている。体育の時間だけ合同となるため、互いのクラスを三つに分けて試合形式でクラス対抗戦を行ってる。野球部なのにバスケもできてしまう金城瑛守、とそこまで目立たないもののしっかりとチームに貢献できている自分がいて、バスケ部員の混じっている隣のクラスのチームに勝つことができた。


「朔、なんか舜歌ちゃんが呼んでるぞ?」


 試合後、瑛守の隣で、水筒に入ったお茶を飲んでいると、同じクラスの男子がクイクイっと親指で後ろを指差している。同級生の背中越しを頭を横に傾けてその先を覗くようにみると、反対側の女子のコートのネット際で舜歌がこちらをみて、手招きしていた。


「ちょっと舜歌が呼んでるみたい」

「……」


 瑛守に声を掛けて、舜歌のところに駆け寄ると「またやられた」とブツブツと呟きながら手に何かを握らせてきた。


「それは霊石(ビジュン)(しゅ)に対して多少抵抗できるから持ってて」

 ビー玉くらいの白い石で表面をみると(つや)があり、スベスベとした手触り。


「“肩”まで来てるね……ちょっと舐めてたかもしれん……」


 あの幼児の手形が腰から肩に? それってつまりどういうこと?

 

『ドスッ』

「あ……ごめん」

「……」


 放心状態になってたせいか元の場所に戻ろうと振り返り様、隣のクラスの男子と肩がぶつかった。

 謝ったが、相手はぶつかったこと自体、気づいてないようにそのまま反対側に歩いていった。


「舜歌がなんて言ってた?」


 水筒が置いてある場所に戻ると、次の試合を観ながら瑛守が訊いてきたので、声や動きがキョドらないよう平静さを装い、返事をする。


「ううん、別にたいした話じゃなかったよ」


 本当のことは言えない。ここは濁しておくのが正解だ。

 それにしても。いったい誰が何の目的で自分に呪いを掛けたんだろう?


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