第八話【蔡家の魂使い】
「あ~~~負けたぁぁぁ」
舜歌が頭を抱えて空を仰ぎ見ている。グラウンドをみると、試合に勝った興北高校が整列し校歌斉唱した後、反対側のアルプススタンドに走っていき、一列に並んで深々と頭を下げ、盛大な拍手を受け取っている。
「じゃっ帰ろっか」
切り替えはやっ!! 舜歌は立ち上がり、音無さんと自分に合図を送りながら近くのレストランで待機している兄の順宋さんに連絡を取っている。
「でも惜しかったなー」
八―二の六点差。
結果だけみると全然、惜しくないようにみえるが試合内容は凄く競り合い素晴らしい試合を演じてくれた。
瑛守は九回まで投げて全国レベルの強豪打線を二失点に抑え、五回には瑛守のバットが金属音を響かせ高く弧を描いたボールがスタンドにフェンスギリギリで入り、先に塁に出ていた走者も本塁に返し二得点という獅子奮迅の活躍をみせた。
二─二の同点のまま、試合は延長戦に突入し、十二回表、球数が一三〇球を超えた辺りで瑛守のスタミナが尽きてしまい、乱打を浴びて二点入れられたところで、中学時代に投手をやっていた三年の三塁手の先輩がマウンドに上がったが、守備位置変更して数年ブランクのある投球術では県内トップクラスの強力打線に通じるはずもなく、四点を失い試合終了となった。
もし元エースの三年の先輩が怪我せずチームとして万全の態勢で試合に臨めていたら……金城瑛守との継投で大番狂わせもあり得たのではないだろうか……。
そう考えると、やはり一昨日の件が悔やまれる。
そういえば結局、音無さんの質問に答える前に舜歌が「前に座ってるお父の座高が高すぎて見えない」と失礼なことを言い始めたので、最前列に移ることになり、座席を移った際、音無さんの隣の席ではなくなってしまった。
「あら? 誰かと思えば、本島北部の田舎チビじゃない?」
音無さんが「ちょっとごめんね」と話し、自分達から離れたので出口のところで待っていると、背後から舜歌に声を掛けてきた。
ひと目で双子だと分かる男女。二人とも厨二病なのか左右対称に片目を髪で隠している。歳は……同じくらい?
「あ……ジーグヤー紅琳」
「誰がジーグヤーじゃチビ!」
「じーぐやー?」
「あ、ジーグヤーってのはね、こういう口が悪い人のこと」
「指差すなコラァ!」
「ほらね、口が悪い」
方言の意味を質問したら舜歌が返事をくれたが火に油を注いだようだ。舜歌に紅琳と呼ばれた女性はえらく興奮している。
もう一人の男性は……あれ? 自分を見てモジモジしている!?
「もう一人は蔡碧巴、紅琳の弟で兄兄だけど兄兄が好きなんだって」
「それってつまり……」
男の娘……。千葉では周りにはいなかったけど今の時代、そういった偏った見方は時代遅れ。なるべく普通に接しようと思う。
「おい、チビ聞いてんのか?」と難くせつけられているが、お構いなしに舜歌が二人の説明を続ける。
ふたりは沖縄本島南部を拠点としている舜歌の同業者『魂使い』で”蔡家”は沖縄本島南部の中で最も力のある一族とのこと。
「それよりチビのところ、ウチの高校に負けて悔しいだろ?」
「ぐっ」
普段、あまり怒ったりしない舜歌だが悔しがる。それをみて「おーほっほっほ!」とアニメでやりそうな手の甲を口に添えて紅琳さんが悪そうな顔して高笑いをしている。
「名護ってチビみたいな小学生しかいないの?」
「朔くん、舜歌ごめんね~」
「はぐぅぅぅ!」
音無さんがトイレ《だと思う》から戻って来て合流すると紅琳さんが音無さんをみて呻き声をあげた。
「きょ、今日のところはこれくらいにしてあげるわ……“現場”であったら覚悟なさい」
なんか捨て台詞のようなものを吐いて先に球場を出ていった。舜歌の説明だと「紅琳は姉姉だけど姉姉が好き」だそうだ。
だからか、音無さんを見てかなり狼狽えていた。あの姉弟面白いなーッ。
☯☯☯
音無さんを彼女の自宅前で先に降ろして、舜歌の家に到着した。
順宋さんにお礼を言い、歩いて帰ろうとすると舜歌に「ちょっと待って」と引き留められた。そのまま屋敷の中に入り数日前に泊まった離れに連れて行かれると、畳間の真ん中に台が据えられ、その上に赤い布が敷かれ水晶が置かれている。
「一昨日の続きやるよ~」
あ、解決したわけじゃなかったんだ。
舜歌が水晶の前でブツブツと両手を翳し何か唱えると水晶の中にテレビのように映像が浮かび上がる。
「この人って……」
「野球部の三年のマネージャー」
舜歌の返事ではっきりと思い出した。一昨日、三年生の先輩が倒れた時に後ろの方にいた人。試合に行かなかったのか、自宅の自分の部屋と思われる場所で勉強机に向かって座って何かしている。
「また、やろうとしてる。しつこいなぁ」
舜歌の説明によると昨日、懲りずにもう一度の「呪」を瑛守あてに掛けたようだが、今度は「石」で受け止めて本人に返らないようにしてあげているそう。でも、もう一度瑛守に“呪”が飛んできたら、数倍になって本人に跳ね返り、その威力は怪我では済まず、下手したら呪をかけた術者本人の命が危ういそうだ。
「どうやって観てるの? 隠しカメラ?」
「ううん、ヤールーカメラ」
「ヤールー?」
「ヤモリのこと、沖縄の家にはだいたい住んでるよ」
「なんでヤモリがカメラに?」
ヤモリは沖縄では霊的に重宝される生き物だから術の依り代にちょうど良いそうで、ヤモリの目がカメラの代わりを果たしているそうだ。どこの家にもいるなら、この術ってなんか他のことにも使えそう……。
「ちょっと脅さないとダメだね~」
少し動機が不純な運用法を考えていたら、舜歌が霊符を水晶に貼り、おでこをくっつけると水晶の中で声がして自分のことを言われているみたいでドキッとした。
「呪を悪用するものよ、妾は呪いを司る神」
この声って舜歌が出しているのか。
三年生のマネージャーは椅子から跳び上がるように立ち上がりキョロキョロと廻りを見渡している。
舜歌は自分が呪いの神様であることを信じさせたうえで、呪を二度と使わないと約束させた。そして呪に使った霊符……芻霊をどこで手に入れたのかを白状させた。
「やっぱり”俄か霊媒師„だったか……あとで本部に報告しとこっと」
舜歌はそう言い水晶に翳していた両手を離すと水晶の映像が消えた。
よかった。これで万事うまく解決したね。
その後、舜歌が、ジーッと自分をみる。え……どうしたの?
「それで朔~」
「ん……なに?」
「“それ”誰につけられた?」
「え?」




