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第七話【芻霊(すうれい)】

瑛守(えいす)大丈夫~?」

「おう、これくらい何でもないよ」


 朝、教室に入ると舜歌と金城瑛守が何やら話しているのが耳に入ってきた。


「おはよう」

「おはよー(はじめ)~」

「よっ朔!」


 挨拶すると二人がこちらに顔を向けた。瑛守の左肘には包帯がグルグル巻きにされてて、舜歌が怪我を心配している。

 今日は金曜日、確か明後日の日曜日に第二回戦があると言ってた。

 包帯は用心に用心を重ねてと監督に命令されて巻いてるらしく、ちょっとした怪我なので全然問題ないそうだ。


「気をつけないと……名護二野球部の『本当の』エースなんだから」

「そうなの?」

「あれ話してなかった?」


 本人は少し照れているが、舜歌が説明してくれる。

 名護第二高校のピッチャーで五番、公立高校一回戦突破の立役者。長身から繰り出す速球に鋭く切れるカットボールと縦に落ちるスライダーを武器に一回戦を一失点に抑えたそうで、二回戦突破は瑛守にかかっているといっても過言ではないらしい。


 しかし、二回戦の相手は「興北高校」。全国制覇も果たしたことのある名門であり県内屈指の強豪校。沖縄の高校野球は激戦区として知られているらしく、全国でも名前が売れている高校が複数あるそうだ。

 正直あまり野球に興味がないのでよく分からないが、瑛守が凄いことだけはわかった。背番号は控えピッチャーであることを表す十番、エースナンバーは三年生が背負っているが、成績上では金城瑛守の方が記録を残しているとのこと。

 舜歌、やけにはりきって解説している。野球が好きなのかな? 

 それとも……。


「朔~、今日は瑛守の〝案件(ヤツ)〟を片付けるよ~」

「え?」


 放課後、舜歌の口から例のように悪霊退治かと思いきや瑛守の名前が出てきて少し驚いた。二人で校舎の二階から野球部の練習を眺める。

 舜歌の両手には双眼鏡が握られていて、野球部の練習をじーっと観察してる。

 双眼鏡ってアナタ……自分だったら絶対不審者だと勘違いされる。


「あっいた!」


 舜歌は何かを見つけたのか双眼鏡をリュックに戻し、階段を駆け下りていくと踊り場を折り返した所で、舜歌を常に注視(マーク)している生徒指導の教師に見つかってしまい説教を受ける。なんで自分まで……。


「あいやー、怒りんぼ(タンチャ―)先生のせいで、現行犯で押さえられなかったさ」


 校庭を出ると近くのガジュマルの木に向かった舜歌は根本に紙きれが釘で打たれているのを引き抜く。


芻人すうじんかぁ、“俄か霊媒師(ユタニシムン)”絡みだなこりゃ」


 舜歌が運動場を見たので合わせて目をやると野球部のところが何やら騒がしい。


「あちゃー、“返っちゃった(・・・・・・)”ね」


 背番号一番の三年生が倒れているのがみえた。舜歌は「本人じゃないなー」とブツブツ呟いている。いったいどういうこと?


「瑛守~大丈夫?」

「ん? ああ舜歌……先輩がな」


 取り巻いている野球部員の下を無理やり潜っていき、舜歌が瑛守に声をかけた。

 野球部の人達の後ろでみていてあることに気付いた。

 あのマネージャー……。なんであんなに後ろにいるんだろう?

 こちらの視線に気づかないまま校舎の方に走っていった。顧問の先生を呼びに行ったのかな?


「おーい、朔~」

「うわっビックリした!」


 マネージャーを目で追いかけていると舜歌がいつの間にか戻ってきていて、真下から声がして心臓が飛び出るかと思った。


「三年の先輩は大丈夫だった?」

「うーん、わかんない、投げてる途中に急に利き腕の肘が痛くなったんだって」

「瑛守は?」

「大丈夫、“返った(・・・)”から」

「返った?」


 校門へ向かい歩きながら、舜歌からどういうことなのか話を聞いた。

 三年の先輩が右肘を痛めたのは瑛守に向かって誰かが掛けた「(しゅ)」が原因で、今朝、瑛守に渡してあった「呪詛返し」の守護符の効果が発動したそうだ。


「さっきガジュマルの木のところで誰かいたから走ったのにぃ~あの先生細かい~」


 まあ廊下や階段走ったり、駆け降りたりすることを良しとする先生に今まで会ったことはないけどね……。

 でもいったい誰が瑛守に呪いのようなものを掛けたのか? こんなことして得する人間ってやっぱり……。


「三年生のエースが怪しいと思った?」


 舜歌に聞かれると素直に頷く。


「私も疑ったんだけど発動した瞬間、運動場にいたんだよなーこの先輩……おかしいなぁ」


 え? じゃあいったい誰が……。舜歌の見解では飛ばした(・・・・)本人ではなく、呪を飛ばした本人に関係あるもの……家族や親友、恋人などに返ってしまう場合があり、先輩はそのいずれかに当たるのではないかとのことだった。


「大丈夫、今、瑛守に“石”を渡してきたから、じきにわかるはず」

「石?」

「うん、さっきの守護符は自動迎撃用、石は追跡機能つきだから明日にはわかると思う」


 うーん、さっぱりわからん……。

 まあいっか、彼女がそう言うならそうなんだろう。


☯☯☯


 翌々日、夏の甲子園予選第二回戦。

 沖縄市にある最近できたばかりの野球場で舜歌と自分と音無さんの三人は、舜歌の兄、順宋さんの車で連れてきてもらって応援している。


「舜歌、そういえば……」

 昨日は土曜日だったから聞けなかったので、一昨日の続きがずっと気がかりだった。そのことを聞いてみようと隣に座っている舜歌に声を掛ける。


『ウウゥ~~~アァ~~~~』


 サイレンの音が鳴り響き、両校の選手が一斉にグラウンドへと集まり互いに向き合って並び立つ。


「なに?」

「……あとでいいよ」


 すっかり目を輝かせ応援モードに入ってる舜歌は話をする余裕はなさそうだ。あとで聞けばいい。今はあのマウンドのエースを応援しないとな……。

 名護第二高校のマウンドに立つ姿はエースナンバーを背負った金城瑛守が帽子のつばを捻って整えている。三年生のピッチャーは結局、一昨日の怪我で出られなかったのかな?


「朔くん、ちょっといい?」

「え……うん」


 舜歌とは反対側に座っていた音無さんがこちらを見ている。あたりはもう試合が始まり、瑛守が投球練習を始めている。


 興北高校──。

 野球の名門校であって応援のスケールがこちらの比ではない。生徒全員来ているのか? というくらい満員御礼に隣の声も聞こえなくなるくらいのバカでかい演奏が入った盛大で華やかな応援。

 一方、こちらの名護二高校は応援しているのがベンチ入りしていない下級生や選手の父兄が中心、他の生徒はまばらで誰も強豪校に勝てるとは思っていない諦観モード。


「ットライィィィクッ!」


 初球が枠内に収まり、手が出せなかった相手校をみて、名護第二高の観客席が歓声でドッと沸き上がる。


「……なの?」

「え? 音無さん……なに聞こえない」


 周囲の大きな音が彼女の声をかき消している……訊き返すと音無さんの顔が耳元に近づく。

「舜歌とはどういった関係なの?」


 ──え。


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