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第十話【手】


「誰だ、オマエ……」


 高校の入学に合わせて沖縄にやってきたが、やっぱりコイツらもクソだ。

 中学の頃と何も変わっちゃいない。


 誰も俺に見向きもしやしねぇ……。クラスの除け者の俺に手を差し伸ばすクラスの委員長。

 頭が沸いてんのか? 余計なお世話だっつの。反吐が出る。

 

 眼つきが悪い? 俺をこんな眼にさせてんのはどののどいつだ? 

 お前らだろが、このクズどもがッ。


 あーつまんね……。

 退屈で吐き気しかしない高校生活だが、高校二年になって俺の人生が変わった。

 廊下の曲がり角、人とぶつかって相手が倒れた。どこに目ぇつけてんだと心の中で悪態をつこうと倒れた相手を睨むと、みたことの無い女子だった。


「ぶつかってしまってごめんなさい。お怪我はありませんか?」


 自分が倒れたのにこちらを気遣っている様子。上辺(うわべ)だけの態度のヤツはたくさんみてきたが、嘘だろ……本当に俺のことを心配している。

 深々と頭を下げて隣のクラスの教室に入っていった。あんな女、一年生の時にいたか?


 翌日、俺のクラスの馬鹿な男子が、隣のクラスに転校してきた女子のことを猿みたいにのたまっていたので、名前がわかった。


 ──「音無小春」

 へえ、いいじゃん……。


 それから音無小春をずっと尾け回した。

 住所、星座、血液型、家族構成、男がいるかどうか……。

 占いによると俺との相性は最高だ。俺と出会うために音無小春は沖縄に転校してきたんだな。


 たまにちっこい女と一緒に野球部の腐れイケメンが一緒にいることがあるが、俺にはわかる……野球部のイケメンは、ちっこい女子の方に気がある。

 俺は今まで女子とほとんど喋ったことがない。っていうか嫌われていた。

 どうしたらいい? どうしたらあの女……音無小春を俺の(もの)にできる?


 幸い、音無小春は高嶺の花という印象が独り歩きしていて、告白する馬鹿は皆無だ。あの女をみるたびに心の奥にあるドス黒い感情が鎌首をもたげる。


 グチャグチャにしてやりたい。泣いて俺の膝に(すが)りつかせてやりたい。

 母親が俺がまだ幼稚園に入る前に家から出ていき、酒癖の悪いクソ親父とずっと一緒だ。

 クソ親父は酒を飲まなければ何もできやしない。いつも会社でヘコヘコして溜めた鬱憤を酒の勢いで家で俺に手を挙げストレスを発散させる。


 クソ親父はもう少しの辛抱だ。高校を出ると同時に事故に見せかけて始末してやる。そしてアイツの死亡保険で自由気ままに暮らしてやる。


 母親から十分にもらえなかった愛情をあの女から欲してる? んな馬鹿な! 

 俺はただあの女を自分の奴隷にしたいだけ……。


 なのに……。

 誰だ、オマエは?


 七月に入って隣のクラスに転校生がきた。あろうことか俺の女「音無小春」と仲良く喋ってやがる。


 ふざけるな。

 お前はどう見ても「コッチ側(・・・・)」の人間だろ?


 なんで連中に受け入れられている。なんでそんなに表情が明るくなった?

 なんで俺だけ……?


 クソ親父以外に初めて相手を葬りたいと思った。でもどうやって?

 ある日、自宅のアパートの郵便受けに封筒が入っていて、こう書かれていた。


蓮沼勇人(はすぬまはやと)様」


 親父じゃなく俺の名前。封筒を裏に返しても差出人が書かれていない。

 自分の部屋に入って封を開けてみると中には小瓶の様なものと一枚の便箋が添えられていた。


「あなたの恨みを叶えます……」


 手紙の下の方に入っていた目薬で人を呪い殺す方法が書いてあった。


 ぐしゃりと手紙を握りつぶす。


 ふざけるな! 誰の悪戯だ?

 どうせ、目薬っていって水かなんかが入ってるんだろ? 俺がこれを信じて使うのを陰で馬鹿にする気か? 俺をイジメの対象にしようってか。

 

 ──だけど。

 本物の呪いのアイテムだったらどうする? 俺は誰かを呪いたいと、誰にも言ったことがない。

 読んでみた。術の発動条件は背中を凝視すること。

 背中を凝視し続けることで、「見えない(・・・・)幼児の手(・・・・)」が対象の背中に取りつき首まできたら完成。息ができなくなる。


 試してみるか……。

 朝早くに起きて、ベランダの高欄になってる隙間から生ゴミに(たか)ってるカラスに便箋に書かれていた通り、背を向けている一匹を凝視する。

 だが、勘が働いたのか、カラスの群れは一斉にこちらに振り向きすぐに飛び立ってしまった。

 くそ……。次に猫で試してみたが同じ結果でなぜかこちらの視線に気が付き、術が完成する前に逃げてしまう。

 

 まあいいか。目は大丈夫みたいだ。

 これであのクソ野郎が始末できるなら俺にとってはラッキーだ。

 廊下で奴らが野球の試合の応援に行く話をしているのがを聞いた。


 いいぞ。アイツの後ろに座って自然に背中を凝視することができる絶好の機会。


 試合当日。うまく真後ろに座れた。

 くそ、本当に俺の女と一緒にきてやがる。


 すぐにでも背中を凝視したいが、試合が始まるまで座席の前を横切る人や、意識が試合に集中してないから気づかれる恐れもあるから試合開始まで待つ。


 おい、どこへ行く?

 試合が始まると三人とも席を立ち、前の方に歩いていく。試合が始まってもう一度、後ろを取るのは不自然だ。

 くそ、ほとんど凝視できなかった。


 翌日月曜日、体育の時間。バスケの試合中、アイツが試合に出てるので観てる分には誰にも気づかれない。


 だがちょこまかと動くのでやはりずっと背中を凝視することは叶わなかった。あっという間に試合が終わってしまった。

 試合後、どうにか背後に回ろうとするが、途中で隣のコートから、ちっこいのがアイツを呼んでいる。

 俺はあのちっこいのが苦手だ。

 去年、その日にムカついた連中を家にある復讐リストに載せようと、頭の中で整理しながら歩いていると、いきなり背中を強く叩かれた。


「おい舜歌、何してるんだ」


 背の高い野球部の男子が駆け寄ってくる。


「ん? なんか背中から黒い煙みたいなのが吹き出てたから“取って”あげた」


 なんだよ黒い煙って。背中を強く叩かれたのに不思議とこの小っこいのに怒りが湧いてこない。以来、俺はなるべくこの小っこいのに関わり合いたくないと思っている。

 小っこいのだけは俺を見てくる(・・・・)。俺の心の中を見透かしてくるように。


 体育着から学生服に着替えている時も背中を凝視する機会ができたが、効果が薄い気がした。その挙句、頭の中で声がした。


(犯人みーっけ♪)



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