第六十二話【ミステリと云ふも難し】
「もう照れ屋さんなんだから……でもぉぉ、そんな九明がカワイイ♡」
「……」
「あっ世沙ちゃ~ん、元気だったぁ? かわいいから”チュッ”してあげよっか?」
「妹に近づくなこの変態がッ!?」
「イヤぁ~ん、コワ~いシクシク……からのぉぉぉ、好き♡」
「……」
ダメだ。この女とは会話がまともに成立しない。
目の前にいるこのイカれた女の名前は「王李燕」宮古を守護する沖縄五家のひとつ「王」家の現当主。
歳は二十四で、黒縁の大きな眼鏡とツーサイドアップで髪を結い、ピンクの縦線が両側に入った黒色のトラックスーツを着ていて、その騒がしさも相まって、すでに回りの視線を集めている。
今、尾行中なのに……ッて、いけない!? 見失った。
ため息をつき、中部の術師は全員、霊場や御嶽の監視で出払っているため、北部か南部に応援要請の電話をし始めたが、王李燕が「だいじょぶ、だいじょぶ、ウチの子がマークしてるから」と話したので、電話の先の程順宋に「助っ人が来たのでもう大丈夫」とだけ伝えて、通話を切った。
「あれ? 待って、マークが外されちゃったみたい」
ちょっとアナタ、言っているそばから……。
男の顔は前から見ていないが、金髪の外国人でグレーのジャケットに黒いテーパードパンツという恰好だった。
「でも、建物に中に入ったところまでは分かってるから行こっか?」
なんだ、それを先に言ってよ。
「じゃあ、向かいながら手つなごっか」
「私の一㍍以内に入ったら蹴るぞ?」
「うえーーん、世沙~ッお姉ちゃん怖いよ~ッ、ギュってしていい?」
「結構です」
「いや~ん、この姉妹、冷たぁ~いッ、コレってバリアプレイ?」
「「・・・」」
(世沙、もうしゃべるな)(はい姉様)
姉妹で視線だけで意思疎通をする。
これ以上、王李燕と会話を続けたら、本当に蹴り飛ばしてしまいそうだ。
「この店に入ってから切れちゃった」
入口に王李燕が使役する高位霊「網」が、しょんぼり浮いている。
ハンバーガーショップ。店内に入ると、座席が多い上に外国人ばかり。
入口で立ち尽くしていると、外国人の店員が、カウンターに両手をつき、口を開き、声を出さず「どうするのか?」という意味のジェスチャーを送ってきた。
金色のネックレスに髑髏マークの指輪をしていて、着痩せしているが細マッチョな店員。目が座っていて、こういった外国人御用達の酒を提供している飲食ではこういう強そうな店員じゃないと「なにか」起きた時に事態を収拾できなくなるのだろう。
「と、とりあえず座ろう」とふたりに言い、一番手前のボックス席に座った。
明らかに場違いな日本人が三人、それも女性が入ってきたので、店内の客がジロジロとこちらを見てくるので、三人で会話をしてやり過ごすと、すぐに興味を失ったのか視線を感じなくなった。
ようやく落ち着いて店内を観察できる。
店員にハンバーガーとコーラを三人分、注文したあと、メニュー表や店の奥側、入口に向けて座った王李燕を目隠し替わりにして、あたりを窺う。
その結果、先ほど背中を追っていた時に確認した金髪、グレーのジャケット、黒いテーパードパンツの男性が三人もいることがわかった。
お店の間口より奥に随分と広くて、奥側の壁にはビリヤードや、ダーツで遊んでいるひと達がいて、ターゲット候補のひとりが、友人とふたりでビリヤードを興じている。
ふたり目は、カウンターにひとりで、注文待ちなのか、先に出されたビール瓶をコップがあるのにそれを使わずに直接、口をつけて飲んでいる。
最後のひとりは、黒人系のスレンダーの女性とボックス席で、会話が弾ませながら食事をしている最中。
「一番怪しいのは、カウンターの男だと思います」
世沙がもっとも怪しい人物をあげる。
たしかに王李燕の霊によるマークが外れて、私たちがこのお店に来るまで、五分も経っていない。
だから、まだ食事が手元に運ばれてきていない、カウンターのひとり客が怪しいと睨んだのだ。
でも本当にそうだろうか?
例えば、黒人系のスレンダーな女性と楽しそうに会話して、ハンバーガーを頬張っている男性。実はこのお店で待ち合わせをしたと仮定すると、女性が店に先に入って、先にふたり分注文していたとしたら、アリバイが容易く崩れる。
それにビリヤードをしている男も同じことが言える。待ち合わせをしていたといえば、彼だってターゲット候補から外せなくなる。
「ちょっと、お花を摘みに行ってきますわ~オホホホッ」
王李燕ほど、この台詞が似合わないヤツはそうそういないだろう。手首の甲側を口に当てて、スキップして奥の化粧室に行った。だからヤメロって目立つ行動は。
「おまちどおさま~」
やけに流暢な日本語、訛りは残っているので、日本で生まれ育った訳ではなさそうだが、それでもこれだけ喋れたら十分だ。日本にきて結構経つのかな?
って……。
ドンッ!?
この効果音がよく似合うほど超特大サイズのハンバーガーとコーラがテーブルに置かれた。
皿からはみ出し気味なハンバーガーは、パティ―が五重構造になっていて、見ているだけで目が回りそう。
そしてコーラ。
ジョッキに入ってやってきたが、もうほとんど二㍑のペットボトル……。
目が料理に釘付けになっていたが、目の端で動くものに気が付いた。
おいおい、王李燕、アンタなにやってんの?
気が付くと、化粧室から出てきた彼女はビリヤードをしているターゲット候補のひとりに話かけたあと、もうひとりの女性と一緒にいる男性にも声を掛けて、戻ってきた。
「うわ、このボリューム、無理ゲー」
「それより、なに話したの?」
王李燕はこちらが知りたがっていることを見透かし、目を細める。
「実はね……」




