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第六十一話【助っ人登場】


「げッ北部(やんばる)チビ」

「怪我はしていないみたいだけど、誰に負けたの?」

「誰が負けただ、ボケッ!?」


 元気そうでなにより。

 南部の蔡光琳と蔡碧芭さん、そして南部の術師が背後に十人ほど立っている。


「でも逃げたんでしょ?」

「戦略的撤退と呼べやッ!」


 まーた始まった……。

 ここまでくると、この応酬は彼女らの挨拶に思えてくる。

 どっちが犬でどっちが猿か分からないふたりは置いておくとして、蔡碧芭さんが経緯を説明してくれた。


 約一時間前。

 首里城公園にある「園比屋武御嶽石門そのひゃんうたきいしもん」前。


 南部の将来有望といわれている中学生術師、銘苅若菜が石門を見張っていると怪しい男が現れたので、蔡姉弟に連絡したところ、近くにいたので三人で男の身柄を取り押さえようとしたが、後から現れた女性が恐ろしく手練れで、銘苅若菜が悪霊に憑りつかれ、彼女を守ったままでは負けてしまうと蔡碧芭が判断し、姉を引きずって退却したそうだ。


「順宋さん、舜歌さん、申し上げにくいのですが……」


 蔡碧芭が、気が重そうな口ぶりで、ある事実を告げた。


「女性の方は『程寧歌(ねいか)』さんでした」


 この場にいる全員に衝撃が走る。

 たしか順宋さんと舜歌の母親は、十年近く前に中東の国へ行って行方不明になったんじゃ……。


「おか、あさん?」


 舜歌が瞳孔が開いたまま、呆然とその場で立ち尽くす。


「間違いはないか?」

「私も見た。ほぼ間違いないと思う」


 順宋さんの確認に後ろで腕組みをしている蔡光琳さんの方が答えた。

 ふたりは小学校低学年の頃に、舜歌の母、程寧歌に何度か会っているそうだ。


 なぜ? 

 その言葉が舜歌の母に対して複数の疑問となって皆の頭の中を駆け巡る。


 ……なぜ母親は十年近く行方不明になった?

 ……なぜ生きていたら舜歌たち家族の元に帰ってこなかった?

 ……なぜ十年経って帰ってきた。

 ……そしてなぜ死の獣(タナトス)と行動をともにしている?

 

 わからないことだらけで、頭が混乱しているが、それよりも舜歌のことが心配だ。


 いつだって透明な笑顔をみせ、その小さな体でこの沖縄を守護してきた程家の当主とは思えないほど、顔から生気が失われ、眼が泳いでいる。


「舜歌」


 順宋さんが舜歌の肩を引き寄せる。

 こんな時、なにもできない自分が口惜しい……。


『『トゥルル♪』』


 順宋さんと蔡唐楽さんのスマホが同時に着信音が鳴る。


「九明だった」「こっちは巴喬だ」


 林九明(りんくみん)さんと、尚巴喬(しょうはきょう)さん。ふたりとも順宋さんと唐楽さんと歳が同じ。

 最初に順宋さんに電話をかけてきた九明さんの話は、中部にも死の獣の一員とみられる男を発見したとの一報で、応援要請の連絡かと思ったが、思いもよらない強力な助っ人が現れたので中部はなんとかするとの返事を受けたとのこと。


 次に唐楽さんのスマホに連絡した尚巴喬さんの方は、北部、中部、南部の三か所同時に不穏な影が降りてきているそうで、三家は直ちに自分達の持ち場へ戻るようにとの連絡であった。


「では行くか」

「少し待ってください」


 意外にも蔡碧芭さんが、皆に待ったを掛けた。


「鳥瞰眼」


 碧芭さんが意識を集中させ術を展開中に唐楽さんが、どんな術なのかを教えてくれた。

 鳥観眼は、上空を高く飛んでいる鳥の目とリンクさせ、かつ霊的なものを視る術だそうで、遠くの異変などを察知するのに役立つそうだ。


「わかりました。ここで逆廻(むちまーる)を起動させたようです」


 〝逆廻〟(むちまーる)? なんだろう初めて聞く名前。

 

「ということは狙いはまさかッ!?」

「はい、おそらく来訪神の召喚……それも招かれざる方(・・・・・・)の」


 順宋さんと碧芭さんの会話の内容がみえないが、ヤバそうというのはひしひしと伝わってくる。


「時間がない、急ぐぞ」


 順宋さんが、動かなくなった舜歌を抱っこして、音無さんと自分に合図をする。

 別れの挨拶を済ますことなく、反対側へ蔡姉弟と唐楽さん、他の術師達も続いて早歩きで去っていく。


 これからいったい何がおきるんだろ?


 


 ほぼ同時刻、午後六時十一分。

 沖縄本島中部、沖縄市。

 沖縄市の中でも特に音楽の街として知られる「コザ(・・)」がある。


 沖縄市の中心にあたる場所で、一九五六年から一九七四年に美里町と合併するまでは「コザ市」という名の日本で唯一、カタカナ表記の市であったことでも知られている。


 コザは今も昔も、アメリカと二人三脚な関係にある。

 コザの名前の由来は、一九四五年四月に沖縄戦で上陸したアメリカ軍が、現在の沖縄市に反米感情が起きないよう宣撫(せんぶ)隊本部や野戦病院・物資集積所等を建設し、「キャンプ・コザ」と呼ばれていたことからきている。

 そのコザは、壊滅状態にあった那覇市に代わり、貧窮した沖縄を米軍基地が経済の大きな柱として支えた。


 しかしその一方で、他市町村に比べ、米軍人の犯罪が際立っており、一九七〇年には、有名な「コザ暴動(・・・・)」が起きた。

 発端となったのは、米兵の車両が沖縄の男性をはねて負傷させたにもかかわらず、いっさいお咎めなし(・・・・・)だったことが原因で、市民や学生が集まり、米兵や軍用車両に投石や火炎瓶を投げつけた事件で、約五時間にわたった暴動で約五千人の市民と約七百人の米兵が衝突した。その結果、米軍車両約八十台が焼失し、米兵や市民数十人が負傷したそうだ。

 この暴動がきっかけに沖縄返還運動や反米運動を強めた契機になったといわれていて、沖縄の基地問題や米軍との関係に大きく影響を与えた。


 そういった反米の動きがある反面、アメリカがもたらしたものとして、欧米の食事文化の輸入や、かつての琉球国だった頃の文化や音楽と交じり合い独自のアイデンティティを育み、今日(こんにち)においても様々な芸能を生み出し続けている。


 そんなコザのメインストリートで、林姉妹は人混みの中で、男の背中を見失わないように……かつ気取られないように慎重に追っていた。


「そろそろ合流してくれるかしら?」


 ふたりでは手が余るが、強力な助っ人が到着したら、形勢が逆転するだろう。  

 でも……。


 林九明は、妹の世沙の車椅子を押しながら考え事をしていると、突然、背後から羽交い絞めにされた。


「九明~ッ会いたかったよぉぉ、結婚しよ♡」

「はなせ変態ッ!?」


 振り解いたあと、羽交い絞めしてきた女の腹にボディブローを捻じ込んでやると「ぐぼッぷッ、今のイイ……私、妊娠したかも……」とアホなことをほざいている。


 こういうヤツじゃなければ、すごく助かったんだが……。


 

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