第四十八話【帰ってきた転校生】
「朔、おはよう」
「おはよう舜歌」
──九月一日。
二学期が始まり、校門の手前で舜歌に追いつき、一緒に並んで歩く。
いやー、小中高とあわせてこんなに濃密な夏休みは今まで味わったことがなかった。
高校の勉強もそうだが、舜歌から呪学などを習い、順宋さんから琉球空手を中心とした武術を叩きこまれた。瑛守と一緒に早朝ランニングを続け、十キロくらい走っても以前ほどはキツくなくなってきた。
鍛え学び、腕を磨けば磨く程、強く、賢く、術士としてどんどん自分が花開いていくのを日々、実感している。
まだまだ半人前ではあるが、舜歌のお手伝いができるようになってきたので、毎日は充実していて瑛守に「朔お前、なんか雰囲気変わったよな?」と言われた。
「えー、今日からこのクラスを受け持つ先生と転校生を紹介します」
もうすぐ産休に入る女性の担任の教師が、そう言うと横浜から転任してきたという教師と、同じく横浜の高校からの転校生が教室の中に入ってきた。
げっ……。
こいつは例の音無さんの周りをウロウロしていた新興宗教からの刺客、「月城一夜」
驚いて、慌てて舜歌と音無さんをみるが、なぜか瑛守も一緒に驚いた顔をしている。
瑛守は月城一夜のことを知らないんじゃ?
「月城一夜先生と転校生、饒平名晴人君です」
教師とは思えない端正な顔立ちをしていて早くもクラスの女子たちが色めき立っている。
「皆さんよろしくお願いします」
欧州人と日本人のハーフとの触れ込みで、淡い水色で切長の細い目がクラスの皆を見渡し、最後に自分と目が合った瞬間、ニコッと目尻を上げる。
いったい何の目的で、教師として学校に潜り込んだのか?
舜歌の言う通りなら下手な手出しができないうえ、こうやって人の目に晒すようなことをするなんて裏稼業の人間らしくもないことをしている。
転校生の方は、表情がなく淡々と自己紹介をしていてなんだか二か月前の自分を見ているようである。何の希望も生きる目的さえも見出せなかったあの頃と……。
特に背が高い訳でもなくイケメンでもない。
相手には悪いが、なんとなく親近感を覚える。
「晴人、俺だよ、金城瑛守」
休み時間になると、すぐに瑛守が一番、前の窓側に座っている饒平名晴人に近づいていった。
「ああ、瑛守、久しぶり」
抑揚のないどこか機械の声のように聞こえないでもない話し方で返事をした。
瑛守が「舜歌もホラッ向こうにいるぞ、覚えてるか?」と問うと「ああ、程舜歌、覚えてるとも」と、無表情なまま舜歌をみる。
感情が欠如してるのか? と思うくらいに感情の起伏をみせない。
違和感が心の中を占めるが、その後、舜歌も近づいてきて挨拶を交わしたが瑛守と同様、感情に波を感じなかった。
ふーん、こんな感じなんだ。
さっき思い出したが以前、幼稚園の頃の同級生で、小学校に上がる前に本土に転校したって瑛守から聞いていた元やんちゃ三人組のひとり。
確か、魂は落としたけど舜歌に拾ってもらって、元気になったんじゃなかったっけ?
目の前にいる饒平名晴人からは、まるで機械のように感情がなく無機質さを感じる。
そんな彼を尻目に自分は音無さんのところに向かい、声を掛けた。
「うん、ビックリしたけど、手は打ってもらってるし大丈夫」
でも心配だ。
母娘ともに恐ろしい思いからわざわざ沖縄に逃げてきたんだ。
その恐怖を具現化したような存在が教師として身近にやってきたのだから。
「朔くんも気をつけて」
そうだった。
自分も随分とヒドイ目に遭わされたんだった。
「いや、自分は大丈……!?」
音無さんに返事をしている時、言葉を呑みこむ。
なに? その目……。
一番前の席に座っていて、終始、無表情だった饒平名晴人が振り返り、頭を垂れた姿勢で、上目の凄い形相で自分を睨んでいる。
一瞬だった。
すぐに無表情にも戻り、教室の前を向いた。
怖っ。
何かした自分?
人を殺めてしまえそうな狂気を孕んだ眼つき。ヤバいでしょ?
「朔くん?」
「う、ううん何でもないよ」
周りを見たが、音無さんを始め、誰も今の饒平名晴人の形相に気づいてない。
音無さんに変な心配をかけてもいけない。
とりあえず自分の胸の内にしまっておくことにする。
「晴人、こっちが閏弥生朔、あとこの学校のナンバーワン美少女の音無小春さん」
「……よろしく」
放課後、瑛守が嬉しそうに自分と音無さんを饒平名晴人に紹介する。
相変わらず、抑揚がなく無表情なままで短く挨拶してきた。
「これから舜歌の家に皆で行かない?」
「いいねぇ、私も晴人に用事がある」
瑛守の提案に舜歌も乗っかる。自分と音無さんはそれに従う形になった。
自分も気になる。さっきの視線が何だったのか……。
五人で校舎を出て、校門に向かって歩いていると、外周のランニングを終えたたサッカー部の面々が校門をくぐり、自分達とすれ違う。
一年生だろうか?
後方集団の最後尾の身体がまだ細い男子がフラフラとよろめきながら、皆に遅れまいと必死についていっているが、体力の限界だったのか、足がもつれて音無さんにぶつかる寸前。
ガッ
サッカー部の一年生が饒平名晴人に殴り飛ばされ、横の方に吹き飛んだ。
「晴人……お前、何やってんだよ?」
「危険を排除した」
驚く瑛守に対して饒平名晴人は涼しい顔で答えた。




