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第四十七話【かたき討ち】


『ピンポーン、ピンポーン』


 なに?

 

 暗い自分の部屋にリモコンで明かりをつけて、ベッドから鉛のような重い体を無理やり起こす。

 勉強机の方に置いてある時計をみると、針は二十二時を回っている。

 こんな時間に何度も玄関のチャイムを鳴らすなんて、かなり緊急を要することだと思う。


 いつの間に寝てたんだろ?

 昨日は一緒にバッティングセンターに行った瑛守センパイが、トイレで倒れていて救急車を呼んで、家族が迎えに来るまで病院の中にいた。


 瑛守センパイは確かに私を「なにか」から守ろうとしていた。

 ストーカー? それとも私に恨みのある誰か?


 男子トイレの中で鏡が割れてたり、ドアが凹んでいたりと争った跡があった。

 病院に警察官が来て、事情聴取を受けた。

 泣きじゃくって取り乱していた私は警察官に何を質問されて、どう答えたのかはよく覚えていない。


『ピンポーン、ピンポーン』


 なになに?

 二階にある自分の部屋から一階に降りると、この時間はまだ起きてテレビを観ている筈の父や母がインターホンに反応しないのはおかしい。


 キッチンが併設されてるリビングに顔を出し、愕然となる。

 父がソファで……、母がキッチンの中で倒れている。


「お父さんッ!? お母さんッ!?」


 慌てて母に駆け寄ると、息はしているが意識がない。

 まるで昨日の瑛守センパイのように……。


『ドンドンドンッ』


 玄関の扉を力強く叩く音が聞こえはじめる。


「警察、警察……」


 手が震えて、手に持っているスマホのロック解除のための九つの点をうまくなぞることができない。

 

「事件ですか? 事故ですか?」

「今、父と母が家の中で倒れてて、んぐぅぅ!?」

「どうしました? もしもし、今、現在地照合します」


 スマホを床に落としてしまい、スピーカーになって一一〇番のオペレーターがしゃべっている声が聞こえるが、それどころではない。


 ──後ろから首を絞められている。


 持ち上げられて、足をバタつかせるが、床に足が届かない。

 何が起きてるのか理解ができない。

 首を絞められている筈なのに両手を首にやるが、そこにあるはずの手や縄がない!?


 なんとか掃き出し窓の反射を利用して自分の後ろをみるが、誰もいない。

 ちょっとなにこれ?


 私……死んじゃうの?

 自分の爪で自分の頸の肉を掻きとる。

 涙が勝手に出て、失禁もしてしまう。

 

 ──死ぬ。


 意識が遠のきかけた瞬間。


 バリンッ


 先ほど見ていたリビングの掃き出し窓が割れると、中に土足で人が侵入してきた。


 見たことある人。

 三人のうちの一人はいつも瑛守センパイの横にいる高校生とは思えない程、幼くみえる先輩。


 ゴスッ


 首を絞められ吊るされていた身体が床に落ちると、身体に力が入らずそのまま床に転がる。


 そこでみたのは、幼く見える先輩が「瑛守をイジメたのはヤツをフルボッコしに来ました」と言いながら、家の中が何もないところが、コップが割れ、壁の額縁がメコォっと凹んだりしている。


「あ、逃しちゃった……逃げ足が速いな~、オジーでればよかった」

「順宋、ここの始末よろしく、朔~ッ行くよ」

「舜歌ちょちょっと待って」


 もう一人、はじめと呼ばれた二年の先輩と思しき人と割れた窓から外に出て行った。


「君、大丈夫かい? 今、警察、救急車、他の術士を呼ぶから」


 幼く見える先輩に「順宋」と呼ばれた二十代半ばくらいの男性がそう言いながら、スマホを取り出し色んな所に電話を始めた。


 

☯☯☯


「なんで邪魔をするの?」

「人殺しを邪魔できてよかったさ」

「なんで殺しちゃダメなの? 人は毎日いっぱい色んなものを殺してるのに」

「アンタは生きてる時に自分が殺されるってなったら、大丈夫なの?」

「なんでボクが殺されなきゃイケないの? 僕は殺す側の人間なのに」

「ホラ出た! 気が触れてる(フリムン)発言」

「偽善者はイヤだなー、ボクが〇してあげるよ♪」

「遠慮しとく、それよりアンタは後生グソーに逝けないねー、してあげる♪」


 うわー、怖いよーっ。

 二人とも笑いながらサイコな発言をしている。


「あっダメだ」


 

 え、舜歌それはどういう意味?


「こういう“チブルヤマー„(イカレタ奴)は余罪を確認しないといけないんだった」


 余罪。 

 もしかして、他にも悪いことをしているということか?

 でも、どうする?

 見たところ、今の舜歌は封印術用の入れ物を持っている様子はない。


「じゃーん、手鏡~♪」


 舜歌が取り出したのは何の変哲もない女子がよく持ち歩いている折り畳み式の手鏡。


「オジー、瑛守のこともあるから、“アレ„をちょっと泣かして」


 舜歌が呼ぶと影からオジーが現れる。

 先程、家の中でマロちゃんが戦ったが、上位悪霊が意外にしぶとく、マロちゃんの風の刃から逃げ遂せてしまったのだ。


 だけど……。


「死死死死死ッ⁉ げぶッぎゅぱッじゅぐッ」


 いや、怖いってその笑い方。

 不穏なことを口走りながら悪霊が、舜歌に突撃したが、今までの勢いが嘘だったかのように一瞬でオジーにボコボコにされて、地面に倒れ伏す。


 メチャクチャ手加減してるのに話にもならない。

 オジーってホント最強だなぁ、苦戦してるとこなんて見たこともない。


「ほいっ、完成♪」


 ぎゅぎゅるっと渦巻き鏡の中に悪霊を吸い込み、鏡を畳んで札で封を施す。

 先ほどの後輩の一年生の女の子の家に戻ると、パトカーと救急車が到着していた。

 救急車が発車する前に舜歌が父親と母親の魂戻しを行い、大事に至らなかった。


 それにしても。

 自分って、一緒にいる意味あるのかな?


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