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第四十六話【自信持てよ】

「朔~ッ、今から来れる?」

「え? さっき家に着いたばかりだけど?」

「瑛守が入院してるって」

「……なにがあったの?」


 那覇空港の立体駐車場に前日から止めてあった順宋さんの車で名護の自宅まで送ってもらい、親父にお土産を渡した後、シャワーを浴びて夕飯を取り終わった直後に舜歌から耳を疑うような連絡が入った。


 親父にまた舜歌の家にお泊りで勉強会に行くと話すと、「朔、高校生だから相手さんと間違いが起こらないように気をつけるんだぞ」と念を押された。なんか勘違いしてるようだが、今は急いでいるので誤解は後で解くことにする。


 家を出た自分は舜歌の家ではなく、名護にある県立病院へと急ぐ。


 入口のところで、順宋さんと舜歌と合流して、夜間救急診療の出入り口から中に入ると事前に順宋さんが根回ししていたのか警備員室前で「程」という名前を出しただけで中に入れた。


 エレベーターで入院用病床フロアまで上がると、すぐ前にあるナースセンターの男性看護師が自分達を個室の方へと案内する。


「金城さん、“程家(・・)„の方がお見えです」


 ドアをノックせずに声を掛けながら個室の中に入ると、瑛守の母親が椅子に掛けていて、瑛守はベッドで意識を失っていた。

 昨日の夕方に近所のバッティングセンターのトイレで倒れていたのを、一緒にいた後輩の女子が通報し、そのまま救急車で運ばれたが、ずっと意識が戻らず、入院しているそうだ。

 命に別状はないそうだが、意識を取り戻せない原因が不明であるため、経過観察に移行して、今朝ICUから一般病棟に移動したそうだ。


「順宋くん、舜歌ちゃん、瑛守をお願いします」


 瑛守の母親が頭を下げ、邪魔になったらいけないので外で待っていますと言い、すれ違いざまに順宋さんや舜歌も同じように振る舞い、頭を下げる。

 舜歌と順宋さんは瑛守が“霊„的なものによるだとか一切説明をしていないが程家の兄妹(・・・・・)が来たという(・・・・・・)ことはそういう(・・・・・・・)ことだ(・・・)。と、母親は知っているらしい。

 

「さて、しこたまやられたね~これは」


 順宋さんが背負っていたリュックの中から道具を取り出し、オーバーテーブルの上に並べていき、舜歌は仙木剣と符札ふーふだを先に手に取り、シュンシュンッと瑛守の周りをグルリと歩きながら剣を振り回しながら剣先で札をベッドに貼り付けていく。


 オーバーテーブルの上の準備が終わると、舜歌が正面、瑛守の足元側に立ち、瓶子ビンシーと呼ばれる長方形の箱にお酒や水と思われるものを仙木剣の剣先に刺した符札をつけて、祓塩ともち米の中に交互にすり込むようにかき混ぜ、札を持ち上げ、それを瑛守の額にチョンチョンチョンっと三回当てると、瑛守の体がビクンッと反応を示した。


 その後、舜歌が沖縄の方言らしき言葉で呪を唱え始めると、一分もしないうちに瑛守の目が開いた。


「舜歌……」

「瑛守、無理しちゃダメだよ?」


 薄く開いたまぶたで舜歌の名前をおぼろげな意識のまま呟いた瑛守は、舜歌の返事を聞いて、段々と目が開いていき意識がハッキリしていくのがみえた。


「くそっ負けたのか俺……」

「どんな悪霊あいて?」

「たぶん……上位悪霊シタナカジだと思う」


 上位悪霊は、専門業プロの人でも舜歌たちのように高位霊媒師グァンスヴァンでもない限り、一人で祓おうと立ち向かったりしない……。


 昨日の経緯を瑛守ほんにんの口から確認する。

 「笑っている悪霊」、なにそれ……超怖いんだけど?


「瑛守、君は半人前、自分でいかに危ないことをしたか分かってるよね?」


 そんなヤバい相手を一人でどうにかしようとした瑛守に順宋さんが軽く説教めいたことを話すと瑛守は項垂れながら、おとなしく話を聞いていた。


「よし、反省終了、じゃあその後輩の子の住所教えて?」

「え?」

「瑛守をボコった相手を私が百倍返しでボコってくるよ」


 舜歌がニコッと笑い、瑛守も笑みを少し浮かべた。


「朔、ちょっとだけいいか?」


 順宋さんと舜歌が広げた道具を収めている間に瑛守が自分に話しかけたので「先、駐車場で待ってるね~」と舜歌と順宋さんは部屋を出ていった。


「どうしたの?」

「俺さ……いつの間にかお前に嫉妬してみたいだ」


 瑛守は、強化合宿の中でメキメキと力を伸ばした自分はじめに対して、才能はあったもののあくまでも一般的な素質に留まった己を比較してしまい、嫉妬につながったことを素直に話してくれた。


「舜歌にいい所をみせたかったんだろうな……でも迷惑を掛けちまった」


 瑛守は野球の才能を引き合いに出して説明してくれた。

 体格であったり、足が速い、動体視力がいい等、恵まれた素質があってこその努力であり、素質なしではどんなに努力して足掻いても「良」止まり、という厳しい現実。



「だから、朔、頼む……舜歌を守ってくれ」


 瑛守は、あのいつも学校で輝くような笑みのまま自分にそう伝えた。



 こっちだって、この高身長、イケメン、性格までサッパリしたいい男を妬んだことが無いと言えば嘘になる。

 

 自分は今まで何も持ってなかったし、何も望まなかった。

 でも最近、思うことがある。

 

「任せて、舜歌は自分オレが守ってみせる」


 そう答えて、病室を後にした。



(なあ朔……)


 瑛守は自嘲気味に笑みを零しながら、今しがた出ていった一か月前に転校してきた同級生に心の中で呼びかける。


(お前のこの一か月の色々な成長はスゴイことなんだぜ?)


 閉じられた窓のカーテンが少しだけ開いていてそこから、外の名護市内のネオンを見ながら一言だけ口にする。



「もっと自信持てよ」


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