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第四十五話【笑うモノ】


『シュゥゥゥ、カッ』

『ドゥルルットゥル~♪』

「すごーいッ、またホームラン」


 バッティングセンターの百四十㌔のストレートオンリーのケージに入り、風切り音を立てて上に伸びてくるようにきれいに回転の掛かったボールを短く持ったバットでミートして、ネット奥中央に据えられている的に当てた。


 二十数球中、二本を的に当て残りも大体、内野の頭を超えるくらいのヒットを量産する。


 周りが「ゴスッ」と軟式球を金属バットで叩くと響く音の中、ひとり木製バットでシャープな音を奏でる。


 ネットの後ろ、窓を開けてコチラを応援している彼女は手を叩き喜んでいる。


「私にも教えてもらえますか?」

「……いいよ、じゃあ向こうの方、行こうか?」


 ケージ自体が幅広の左右両打席のケージに入り、右打席に彼女を立たせ、左打席にキャッチャー防具をつけて入る。


 球速と高低が選べるのでこのケージのもっとも遅い九十㌔の高さを女の子の身長に合わせて少し低めに調整することにした。


 自らも木製のバットを持って彼女に握り、構え、振り方と一通り教えたあと、コインを投入して、実践してみるが、掠って後ろに飛ぶか空振りのどちらか。


「描いてくるボールの軌跡にバットを水平に入れるように打ってごらん」


 何度か同じような助言を言葉を変えて伝えていると彼女のイメージしやすい助言がみつかり、バットが空を切ることが少なくなり、振り遅れから右にではあるが、前に飛ぶようになってきた。


 ん……おかしい。

 九十㌔に設定してあって、ボールは真ん中しかいかないはずなのに、彼女の顔面に向かってこのケージの最速百三十㌔以上のボールが襲ってきたので、己の木製バットで体を伸ばし、ギリギリ、バントでボールをカットした。


「外に出て」

「あ……ハイ」


 慌てて外に出ようとする彼女に向かってもう一球、ピッチングマシンが壊れたように後頭部に向かって恐ろしい程、速い球が放り込まれるので、それもバットを垂直に立てて、弾き返す。


 機械は二球だけ異常な状態をみせ、彼女が屋内に入った途端、ただの九十㌔のストレートに戻った。


「あのさ、最近、こういった不思議なことって起きてる?」

「……はい」


 高校一年生、特に部活とかは入ってなく、友達と男性アイドルやイケメン俳優の話で盛り上がるどこにでもいる普通の女子。


 夏休みに入って最初の一週間。

 舜歌が誘ってくれた霊能者を鍛えるための合宿に参加した俺は、素養は少なからずあったらしく、霊的なモノが専用の眼鏡を掛けなくても視えるくらいにはなった。


 そのお陰もあって、今日のお昼ごろにあった時に気が付いたこと。


 物陰からずっと彼女を笑って視ている悪霊の存在。

 合宿で習った呪学って授業で教えてもらった内容の中で、この世に恨みを残して死んだ人の魂が通常、悪霊となるがそのほとんどは恨めしい形相をしている。

 まあこれはこれで充分怖いのだが、本当に厄介なのは“笑っている悪霊„……。


 未練を残していないのに悪霊としてこの世に留まれ続けるのは、生前、相当な精神的負のエネルギーを溜め込んでいないと「成」らないそうで、笑う悪霊へと経過を辿る者の生前は連続殺人犯(シリアルキラー)等の相当、精神がぶっ壊れているものだそうだ。


 「ソレ」がニタリと笑って、角やら物陰から彼女を覗いてみている。


 告白された時、すぐに断ろうかと思ったが、視てしまったので気が変わったのだ。

 いつもならすぐに舜歌に相談したいところだが、舜歌、順宋さんのみならず、一緒に合宿に参加した音無さんや朔まで八重山に出張に行っているので頼れるものがいない。


 あと、山入端さんっていう、北部の術士とも知り合いになったが、連絡先交換するのを忘れていた。今度会ったら忘れず交換しようと思う。


 それで、そんな悪霊に対して、俺が夕方にバッティングセンターを選んだ理由。

 このバットが祓魔用の特別仕様だからだ。


 ヤツは基本、彼女に近づいてこない。

 遠くの陰から笑いながら彼女にチョッカイを掛けてきた。


 話を聞いたところ、異変が起きたのは三日前、友人が動画投稿サイトのいいね稼ぎのために沖縄の色々な心霊スポット巡りというものをやっていて、イヤイヤだが一度だけついていったらしく、一昨日、その誘った友人の運転手兼カメラマンをしていたお兄さんが事故で大けがをして、入院して友人である妹も電子レンジが爆発して顔に軽い火傷を負ったそうだ。


「おーい、オマエだよ聞こえてる?」


 彼女を自販機コーナーの長椅子に座らせて、トイレの角にいる「ソイツ」にバットを指して声を掛ける。


 オレの声に反応して彼女のところをじっと見ていた「ソレ」がこちらを向いた。

 中身が無い、がらんどうの真っ黒な眼窩。

 口に浮かべていた笑みが消え、真顔で尋ねてきた。


「視えてるの? 邪魔するの?」

「ああ、もちろん、とっとと後生(グソー)ってトコに行けよ、悪霊」

 

 悪霊は再び、マトモな人間では浮かべることができない邪悪な表情を作る。


「じゃ、遊んであげるよ」


 悪霊は、首をカクッ…カクカクッと不規則に首だけを回転させながら、俺の宣戦布告に応えた。

 男子トイレの中にある清掃用具庫から「ただ今清掃中」の看板を男子トイレの前に置いた。



 俺と名の知らぬ悪霊との誰も見ていない戦いが始まった。


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