第四十四話【金城瑛守】
「瑛守センパイっ! 好きです」
「悪いっ俺、他に好きな娘がいるから」
「知ってます。先輩がロリコンって」
「いや、ロリコンじゃないから」
「いえいえ〝アレ〟はロリコンというんですよ先輩、目を覚ましてください」
参ったなぁ。
どうしよ?
夏休み。
親父の手伝いで、家の近くで設計を依頼したお客さんの棟上げがあるので、手伝えと言われていた。
せっかく舜歌から八重山へ行くお誘いがあったのに予定が入っていたのが恨めしい。
今頃、朔や音無さんと楽しく八重山で遊んでいるんだろうなぁ。
親父は朝早くに既に向かっていて、俺は上棟式の開始三十分前に到着するよう時間を見計らって徒歩で向かう。
上棟式は沖縄では「スラブ打ち」といって、二階建て以上なら床スラブ、平屋なら屋根スラブのコンクリートを打設した日に行われる。
俺が呼ばれたのは、ヤギ汁配膳要員。
この日ばかりは現場の監督の人以外にも、型枠工や鉄筋工といった各専門の人達が施主の人達と混じって、楽しくお酒を酌み交わし料理を食べる習慣がある。
ヤギ汁。沖縄の方言ではヒージャー汁というがヤギ汁という呼び方の方が多い気がする。
沖縄では上棟式にヤギ汁が振る舞われることが多い。
小さい頃から親父にスラブ打ちであちこち連れていかれて、何度も目にしているが匂いがダメで食べたことがない。
ヤギ汁は“山羊薬„とも呼ばれ、栄養満点で滋養強壮に効果があるそうで、ヤギ汁が好きな人はもの凄く好きで、ステーキとか焼き肉なんて話にならないらしい。ホントかよ……。
「お、瑛守~ッ、まぎくなとぅんや」
話しかけてきたのは、親父が設計した家をよく施工を請け負う会社の社長。
付き合いのある建築会社の中では、あまり大きくないが良心的な施工を心がける評判の良い会社だ。
「今日はヤギ汁の当番?」
「はい、そうです」
昔はヤギを直接絞めていたそうだが、アメリカ統治下から日本へ本土復帰してからは本土の屠畜場法が適用されるようになってからはこっそり続けている人も多かったらしいが、平成の時代に入ってからは、そういった違法行為をする人達もめっきり少なくなったそうだ。
うっ。
ヤギ汁屋さんから届いた業務用寸胴鍋の蓋を開くと、強烈な匂いが外に放出される。
上棟式用ではない方の仮設テントの下で発泡スチロール製のどんぶりに装って配膳用のテーブルに並べていくと、参加者の人達が、隣に既に置かれている折詰弁当と開いてある特大クーラーボックスからペットボトルを自分の座っている丸椅子のところに持っていって食べ始めている。
ひと通り出席者に配り終えて親父に事前に言われていたので自分も折詰弁当をひとつもらい、近くの椅子を拝借して、有難く頂戴する。
「瑛守センパイ?」
ん?
「あっ、やっぱり♡」
小さい頃から甲殻類アレルギーなので、海老フライをどうしようかと悩んでいる時に学校で頻繁に聞く呼び方で声を掛けられた。
振り向いてみると、うーん、なんとなく見覚えがある。
野球部の練習をいつも見ているギャラリーの中に確かこんな子がいた気がする。
同級生、先輩後輩を問わず女子から自分がモテるということは自覚している。
だが、ダメなんだ。
オレには幼稚園の頃にすでに心に決めた子がいる。
たとえ、その子が別の男を好きになっても、だ。
頬を上気させて、興奮してまくしたててくる一年生と思われる後輩の女の子には悪いが、恋愛面はおそらく数年くらいは何も考えられないだろう。
コチラの都合などお構い無しに彼女は興奮してしまって告白に踏み切ってしまった。
それで常套句を使って、いつも当たり障りなく断るのだが、この子はそれでも引き下がらなかった。
参ったなー。
こういう場合はどうしたらいいんだ?
「デートしてください」
「へっ?」
「私とデートしたら年相応の女の子が好きになるはずです」
スゴイ、ぐいぐい迫ってくるので、思わず押されてしまう。
でも、舜歌は小学生じゃないぞ? 君の一コ年上だから年相応なんだが。
目を瞑って必死にコチラに訴えかけてくる。
だけど、変に期待させても逆に悪いし……。
この子のためにもハッキリ断ろう。
……やめた。
断るのをやめた。
少し気が変わった。
デートか、じゃあバッティングセンターにでも行こうかな?
「じゃあ、今日の夕方、〇▲バッティングセンターでいい?」
「嬉しい……あ、ハイッありがとうございます♪」
嬉しさのあまり、涙がツーっと流れ落ちるのが見えた。
……ゴメンね。
☯☯☯
「ゴメン待った?」
「瑛守センパイ!、いいえ、約束の一時間前に来ましたけど一日前からでも待てる自身があります」
「イヤイヤ、それ何のバツ?」
「うふふっ」
一階がファーストフード店と居酒屋が入ってて二階部分がバッティングセンターになっている複合施設、その入口で待ち合わせをしていた。
高校一年生とは思えないほど気合の入ったメイクと服装。
俺としてもこれが女性と初デートとなるのだが、野球部の練習着にマイバットを持参という恰好だ。
「やっぱり練習の休みの日でも野球するんですね?」
彼女は恐らく、野球部である金城瑛守に惚れたんだろう?
野球の練習ユニフォームを見ると一層、目の輝きが増す。
「うん、まあ……じゃ中に入ろっか?」
「はいッ」




