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第三十三話【二人きり……】


 舜歌をそっと降ろして、胡坐をかいた状態で膝に頭を乗せた状態にする。

 外では雨傘を差してもずぶ濡れ必至の大雨が続き、数十秒に一回、雷も鳴っている。


『ザァァァーーー、カッ! ゴゴゴゴゴッ』──すごく近くに落ちた。目が眩むほどの光と、鼓膜を激しく切り裂く落雷音と空気の揺らぎ。


 今まで雷はさほど怖くなかったが、今回でトラウマになったかもしれない。

 

 この廃屋に雨宿りして三十分は経っただろうか。

 時間にするとまだ、お昼になってないくらい。


 スマホに着信がきたので舜歌を起こさないようにしながらそっとズボンのポケットから取り出す。


「朔くん、大丈夫、今どこにいるの?」

「今、近くの廃屋で雨宿り中、舜歌も一緒だよ」


 マイクロバスから音無が連絡してくれた。

 聞くとどうやら、自分達、例の診療所に寄ったメンバーだけがマイクロバスに戻ってなかったので連絡先が分かるものということで連絡を取ったらしい。


「南部の人とか同じ三班のメンバーは一緒じゃないの?」

「うん、舜歌背負ってたから隣の建物に逃げ込んだのを見たよ」

「そう……じゃあ雨が弱くなったら、気をつけて戻ってきてね」

「うん、ありがとう音無さん」


 少し引っ掛かる言い方だった気がする。

 

「う……ん」


 舜歌が目を覚ました。


「ご飯まだ?」


 まだ少し寝惚けているのか、昼食をご所望される。

 ここに二人でいる経緯(いきさつ)を説明すると、舜歌は雷のことを思い出して自分の背中の方に隠れた。


 二人きり。

 だが考えてみると、寿姉や用高さん、オジー、マロちゃんにはみられていると思った方がいい。


 そう考えると恥ずかしくなってくる。


「……」


 お互い何もしゃべらずに時間だけが過ぎていく。

 

「朔~は私と結婚していいの?」


 そういえば、舜歌にこのことについてちゃんと返事したことはなかった。

 高校二年生。

 親の稼ぎで勉学に勤しむ身。


 自分の将来……「道」も見つかってないし、なにかになりたいという夢も特にない。

 成績は上位一割に入るくらいには良いが、舜歌は学年首位で音無さんは十番以内が定位置だと聞く。比較しちゃいけないのは知ってるけど、どうしても比べてしまう。


 

 でも許嫁であれば悪くない。

 ちゃんと自分で何でもできるようにならないと。

 最近、舜歌の身体が巫病カミダーリィによるものだと聞いた時から彼女のことが以前よりも気になっている自分がいる。


 同情とかではない。

 支えてあげたいという気持ちが芽生え始めている気がする。


 それを踏まえて舜歌に返事をすることにした。



「イヤです」



 ちょっと~~~~っ!


 今の声は寿姉。

 わざわざ自分の影から出てきて、舜歌に「い~ッ」とあっかんべーをしている。


「朔の姉姉はなんでイヤなの?」

「私の弟だから」

「姉は弟と結婚できないよ。それに姉姉は死んでるさ?」

「そんなことは分かってます~~~ッ、イヤなものはイヤなんです~~ッ」


 この話になると寿姉は子供のようになり、会話が成立しなくなる。


「寿姉」

「なに?」

「俺が答えるから、ね?」

「……ゴメン」


 寿姉は自分の目を見て、言いたいことを感じ取ってくれたみたい。

 大人しく影の中に戻っていく。


「舜歌」

「うん?」

「俺、舜歌と結婚してもいいよ」

「ホント? やった~♪」

「でも、さっ、自分からもいい?」

「なに?」


 舜歌に大人になってから、そしてお互いその時まで気持ちが変わらなかったら結婚しようと答える。


 もう、自分は「子ども」ではない。

 自分のことは自分で考えて答えを出す。


 舜歌は「それでいいよ~♪」と明るく答える。

 そう、今はコレでいいのだ。


「そろそろいいかな?」


 雨が小降りに変わり、雷の音も遠くで聞こえるようになってきた。

 これなら小走りでバスまで行けば、ほとんど濡れずに済む。


 廃屋から飛び出し、バスに向かって駆けだすと、いっこ前の建物から同時に蔡姉弟、三班の面々が飛び出し前を走る。


「ぷぷぷッ雷が怖いって、やっぱお子様!?」


 蔡紅琳さんの「いつもの」ヤツが始まる。

 ニタリッと走っているのにワザワザ後ろを向いて舜歌を茶化してくる。

 先ほど舜歌が雷を怖がっていたのを目ざとく見ていたらしい。


「あっ皆の嫌な上司(ヤナアガヤー)

「誰がじゃボケッ」

 

 もうこの展開に慣れてきたので、あまり深く考えるのをそろそろやめようと思う。

 

 しかし……。

 紅琳さん、バック走なのに背中に目がついてるんじゃないか? と疑いたくなるような器用さを見せ、運動神経の良さを活かした速さをみせて、舜歌とやり合っている。


 バスに着いた。


 舜歌たち三家の人達は大型バン、自分達、研修生はマイクロバスに戻る。

 

「朔、コッチコッチ」

 バスに戻ると瑛守が少し腰を浮かし、手を振り合図してくる。

 窓側に詰めて座っている瑛守の隣に座ると、通路挟んですぐ隣に音無が座っていることに今更ながらに気が付いた。


 ポンッ


「よし『朔』くん、雨宿り中、舜歌と何していたのかじっくり聞かせてもらおうか?」

「舜歌を背負ってた、と他の班の人から聞きましたよ?」


 

 自分の肩を叩いた瑛守も隣に座っている音無さんも目が笑ってない。

 これは結婚OKしたって言っていい雰囲気?



 イヤ、止めておこっと……。


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