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第三十二話【雷……怖い】


「まったく……自分の力を過信しやがって」

「すみません、紅琳さま」



 廃屋となっていた診療所に舜歌や蔡姉弟が到着した頃には三人とも目を覚ましていた。

 銘苅若菜さんが自分のボスに赦しを乞うている。


「チッ、よりにもよって北部(やんばる)のヤツに助けられやがって」


 あ~、そういうこと。

 舜歌がキライだから、北部の自分に助けられた自分の後輩に腹が立っているということか。


 しょうもない。

 地域勝負もたいがいにしないと死人がでるぞ?


 舜歌は廃屋の二階に上がるとすぐに“マロちゃん„を出し、周囲に他に悪霊がいないか警戒に当たらせた。


 それにしても三人とも大事がなくてよかった。

 自分も反省しなければならない。

 己も含めて未熟な半人前の人達で、危険な相手に挑んでしまったのだ。

 銘苅さんが突撃したとはいえ、その前に診療所の二階から危険なニオイがしていたのは確かなのだ。彼女たちに強く言えばこうなることはなかった。


 十分反省したところで気持ちを切り替える。


 次に同じようなことが起きた時に同じ過ちを二度としなければそれでいい。 

 最近、舜歌の前向き思考(ポジティブシンキング)に感化されたのか、以前よりクヨクヨしなくなった。


「にゃ!」


 ん?


 舜歌の守護霊マロちゃんが窓の外から中に入ってきて、舜歌の前に銜えていたモノを置いて主に報告する。


「なんだ見せろ……これは」


 舜歌が拾う前に横から紅琳さんがマロちゃんが銜えてきたものを拾い上げ観察し声をあげた。


 古い手帳。


 あちこち破けていて、書いた文字も色褪せ読みづらそうな手帳をパラパラとめくっていく。


 撤収しはじめて建物を出たあたりで手帳を読み終わった紅琳さんが書かれていた内容を説明しだした。


 山の神。

 この村では昔から「あるモノ」を神として崇めていた。


 あるモノはこの村に幸福をもたらすものでは決してなかった。

 時には人を襲い、時には赤子を連れ去ることもある。

 だが、それでもこの村の人達は「あるモノ」を畏れ、崇めていた。


 それが分かったのは、この村が外界と繋がってから。


 人里離れてひっそりと佇むこの村里は一八七二年から一八七九年にかけて行われた明治時代の明治政府の手によって琉球王国から琉球藩、そして沖縄県設置に移行するといういわゆる「琉球処分」が行われた直後、この隠された村の存在が明るみに出た。


 隠れ里。

 神隠しにあったとされる人がここに移り住んだのか、戦禍を逃れた人たちがこの村を興したのか。


 一九四五年三月二六日、第二次世界大戦末期に連合国軍側で「アイスバーグ作戦」と名づけられた沖縄上陸作戦は沖縄本島中部の読谷村から始まり、苛烈な地上戦が始まった。

 それに伴い地元住民は沖縄本島の北部や南部に追いやられ、村の噂を聞きつけたよそ者が大勢、この村に押し寄せそのままここに留まるものも多かった。


 終戦後、人口の多くなったこの村にやって来た医師、喜舎場清永は「あるモノ」が新月の夜、人を襲うことに対し、何とかしようと村の外から民間霊媒師を雇う。


 霊媒師により「あるモノ」に名前をつけられた。

 

于児(ユイヤル)


 しかし、その霊媒師はすぐに「于児」に襲われ命を落としたばかりか、その眷属に成り下がったそうだ。


「もうこの村には居られない、村の者に話して全員でこの村を出ていく」、手帳のメモはそこで終わっていた。


 眷属の特徴も書かれていた。

 トゲトゲの黒い化け物だと……。


 あんな化け物が眷属?

 ヤバいでしょ? あれより危ないのがいるの?


「そういや、今日って朔日(ついたち)だね」


 舜歌が何気につぶやく。


 ゴロゴロと雷の音が響いて辺りが急に薄暗くなり始める。

 廃村の入口、マイクロバスと大型バンが待機しているところより少し離れたところで大雨が降り出してしまった。


 沖縄では珍しくない激しい雷雨。

 昨今、本土ではゲリラ雷雨とも呼ばれ、突発的な集中豪雨で洪水や冠水などの災害を引き起こし問題となっているが、沖縄では古くから「カタブイ」と呼ばれ、山が少なく遠くの水平線の先で雨雲がハッキリ雨を伴っているのが見えるので、片方が降って片方が降ってないという意味で、そういう名前で認知されているそうだ。


 雷が伴なっていて稲光と雷鳴のタイムラグが一秒も無いため、雷雲がすぐ傍だということがわかる。



 初めてみた。

 舜歌がメチャクチャ怖がっている。

 苦手なモノってあったんだ。

 

 なぜだろう、ちょっと嬉しい。

 自分の背中におんぶスタイルで引っ付いている。


 軽いな……。

 こんな体の小っちゃい子が沖縄を、ひいては日本やアジア諸国の守護を任されているのか……。


 この子のことを守りたい。そういう風に思えてくる。

 大雨と雷のせいで廃屋のひとつに逃げ込む。


 舜歌を背負ったせいで、少し遅れてしまい、蔡姉弟や同じ三班のメンバーの五人がいっこ先の建物に駆け込むのが見えた。


 一瞬でだいぶ濡れてしまった。

 このままバスの方に駆けて行ってたら、ずぶ濡れで風邪をひいてしまったかもしれない。


「舜歌、もう大丈夫だよ、一回降りる?」

「……」

「舜歌?」


 こちらの問いに何も答えず、ぎゅうっと自分の首に回している両腕の力が少し強くなった。

 不謹慎だが、胸が高鳴る。


 オレって、舜歌のこと……。





「ZZZZZZ……」

「……」



 寝てたんかーーーいっ!!



 


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